第4話 添い寝

 やばい……。

 自分の心臓の鼓動がやけにうるさく感じる。愛莉に気づかれたりしてないよな?


 寝る準備をした後、俺たち2人は就寝につこうと思ったのだが、俺はこの家にベッドが1つしかないことを完全に忘れてしまっていた。

 その結果、俺の部屋のベッドに2人で寝ることになってしまった。


 俺は、ソファで寝るからいいよと伝えたのだけど、愛莉が頑なにそれを許可してくれなかった。


「愛莉、狭くない? 大丈夫?」


 このベッドは1人用のベッドなので、2人で使うとどしても肩が当たってしまう。俺は肩が当たるたびにドキッとしてしまって全く眠くならない。

 どうすればいいんだ、これ。


「全然平気だよ。少しドキドキしちゃうけど、大丈夫」

「そ、そうか」


 部屋の電気は消しているので見えるわけではないのだが、愛莉が顔を赤らめているということだけはその声色からわかった。

 そのせいで俺まで顔が赤くなってしまう。


 どうしよう、全く眠れる気がしない。

 敷布団だけでも買っておくべきだったかもしれないな。そうしていれば、この1人用のベッドで肩をくっ付け合いながら眠る必要はなかったのだから。


 もちろん愛莉と一緒に寝るのが嫌というわけではない。むしろ嬉しい。

 好きな人と一緒に寝ることができてうれしくない人などいないだろう。だが、自分の心臓の鼓動が相手にまで伝わっていないか心配でならない。


「悠くんも眠れないの?」

「愛莉も?」

「うん、実は緊張して眠れないの」

「やっぱり、そうなるよね」

「それじゃ、少しお喋りしよっか」

「そうしよう」


 愛莉も緊張して眠れない様子だったので俺たちは少しだけ雑談することにした。

 俺だけじゃなくて愛莉も緊張していると知って少しだけホッとした。自分だけが過剰に意識してしまっていたらただの恥ずかしいやつだからな。


「私が半ば無理やり一緒に寝るって言ったみたいなものだけど、悠くんは私と一緒に寝るの嫌じゃない?」

「気にしてたのか。嫌なわけないじゃん。というか、愛莉と一緒に寝ることができて嫌だって感じる人、世界中どこを探してもいないと思うよ?」

「言い過ぎでしょ! 照れるって!」

「でも事実」

「んー!」


 愛莉は照れて俺のことをポカポカと叩いてきた。なんだこの可愛い生き物。

 本音を言うと、このまま抱きしめたいくらい可愛い。でも、まだ付き合ってないからさすがに抱きしめることはできない。


 そこで俺は唐突に考えてしまう。

 俺は愛莉のことが好きだけど、愛莉は俺のことをどう思ってくれているのだろう。

 相思相愛だったらいいな。


「愛莉」

「なーに?」

「愛莉は俺と出会って良かったと思う?」

「なんでそんな当たり前なこと聞くの? 悠くんと出会って私は今、世界中の誰よりも幸せだよ」

「そ、そっか」


 予想外過ぎた。

 確かに俺と出会えてよかったよと答えてもらうことを期待していたが、世界中の誰よりも幸せという、嬉しすぎて頭がショートしてしまいそうな回答までもらった。

 自分の顔が段々と熱くなってきているのがわかる。


 そんなことを考えていると、愛莉が不満そうに俺の方をツンツンしながら聞いてくる。


「悠くんはどうなの? 私と出会えて良かったと思ってるの?私だけ答えて悠くんが答えないのはズルいよ」

「そんなの決まってる。愛莉と出会えて、愛莉以上に幸せだよ」

「私の方が幸せだもん!」


 俺も愛莉と同じような答え方してるじゃん。自分で答えておきながら、とても恥ずかしい。

 更には、自分の方が幸せだ、と言い合う結果になってしまった。これじゃまるで「好き」を言い合っているカップルじゃないか。


 俺はそんなことを考えて、再び赤面してしまう。

 そろそろ寝ないともう俺の精神が耐えきれない。この幸せ過ぎる空間に。


「そろそろ寝よっか」

「そうだね、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 こうして俺と愛莉はようやく眠りについた。


 


 おやすみの後に、「好きだよ」と心の中で呟いたのはここだけの話。


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