第3話 お泊まり

 あっという間に金曜日が来てしまった。

 昨晩は緊張のあまり全然眠れなかった。まあ、今日はもっと眠れなくなりそうだが。


 だって、今日は愛莉が俺の家に泊まりに来るのだから。


「愛莉、おはよう」


 教室に着くと、愛莉はいつも通り男子生徒に声を掛けられていたが、俺が来たことに気が付くとクールに流して、満面の笑みで俺の方を向いた。

 愛莉に声を掛けていた男子が俺のことを若干睨んでいるような気がしないでもないが、別に悪いことをしたわけじゃないし無視しておこう。


「悠くん、おはよっ! 今日はちゃんと着替え持ってきたよ! 悠くんの家に泊まる準備は完璧だよ!」

「ちょっ、愛莉! 大きい声でそんなこと言わないで!」

「あっ、ごめんね」


 愛莉の一言でクラス中の男子から羨ましそうな視線や憎悪のような視線を向けられたのは言うまでもない。

 俺が知らないだけで実はもう校内で指名手配されていたりしますか?


 俺の心配をよそに愛莉は周りの目を気にしないで楽しそうに俺に話しかけてくる。


「学校終わったらすぐに帰ろっ! もう今から楽しみで仕方ないよ!」


「そうだね、俺も楽しみだよ」


 愛莉はこういう性格だから俺が周りの目を気にしても意味がなさそうだ。

 本当に愛莉らしいな。


 この日、俺は周りの男子たちの目を気にしないように心がけていたがそれでも1日中、授業中から休み時間までずっと視線を感じていた。

 でも、愛莉と話したりしているとそんなことも気にならないくらい楽しい。他の男子の前でそんなことを口にしたら俺の充実した学生生活は終わりを迎えるだろうが。




*******


 四方八方からの男子たちの視線を耐えきった俺は愛莉と一緒に帰路についた。


 愛莉は楽しそうに鼻歌を歌いながらスキップしている。

 そんなこと言ったら、俺も心の中では歓喜の舞いを踊っている最中なんだけどね。


「楽しそうだな」

「そう見える?」

「うん」

「そりゃそうでしょ! やっとこの日が来たんだから! やっと悠くんの家にお泊りできるんだよ? 嬉しくないわけがないじゃん」


 やばい、嬉しすぎて今にも赤面しながら倒れそう……。

 狙わずしてこういうことを言える愛莉は本当に凄いな。天才か?


「着いたね」

「やったー! 何する何する?」


 初めて友達の家に遊びに来た子供みたいな反応をしている愛莉を見て微笑ましく感じた。

 流石に晩御飯の時間でもないし、本当に何しようかな。というか、愛莉は何がしたいんだろう。


「愛莉は何かしたいこととかある?」

「んー、あれ!」


 少し頭を悩ませた後に愛莉が指差したのはテレビの方の位置だった。

 最初は一緒にテレビが見たいのかと思ったが、すぐに違うことがわかった。

 なるほど、愛莉はテレビゲームがやりたいんだな。


「テレビゲームやったことないの?」

「うん、ゲームとかは今まであまりやったことがなくて。もちろん興味はあったんだよ」


 興味があったというのは本当だろうな。だって、表情だけで「はやくやろ!」という気持ちが伝わってくるのだから。


「じゃあ、やろうか」

「うん!」


 俺と愛莉はテレビの前に移動し、ゲームを起動させ、スポーツカーのレーシングゲームを始めた。

 最初の方こそあまり上手く操作できていなかった愛莉だったが、教えていくうちに異常なスピードで操作を覚えていき、1時間が経った頃には「あれ? ほんとにこのゲームをするの初めてですか?」と、疑いたくなるくらいにはゲームの腕が上達していた。


「それじゃ、最後に2人で勝負してから終わろっか」

「そうしよっか。絶対に負けないけどね!」


 長時間やりすぎてもよくないので早めに終わろうと思い、最後に2人で勝負をして終わることにした。愛莉には申し訳ないけど、この勝負はさすがに勝たしてもらおう。


 そう意気込んでいたのに……。


「やったー! 悠くんに勝ったー!」


 負けてしまった。

 このゲームのプレイ時間で圧倒的に俺の方が長いはずなのに負けてしまった。 

 才能って怖い。


「少し操作間違えた」とか言い訳しようかとも思ったが、どう考えても端から見たらただのかっこ悪いやつなので、俺は潔く負けを認めた。


「負けたよ。愛莉の上達速度凄すぎるな」

「そんなことないよ、偶然だよ」

「ははは、それじゃ、そろそろ何か食べる?」



 今日も愛莉が晩御飯を用意してくれて、俺が知る限り世界一美味しい料理を堪能した。

 その後は特に何かしたわけじゃないけど、ただ2人でテレビを見ながら喋る。ただそれだけの時間を過ごしたが、そんな時間が楽しかった。



 風呂も済ませ、歯を磨き終わった後に1つの重大な問題にぶつかってしまう。


「あ、ベッド1つしかないや」


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