第6話 幼少期Ⅴ


いつもの時間に母が帰ってこない。

妹もいない。

父は慌てていた。

結局その日かえって来ることはなかった。



次の日、学校を休んだ。

お昼に母の携帯に電話をしてみた。

電話にでた母の声は聞いたこともないくらい冷たい声だった。


いつ帰ってくるの?


「もう帰らないよ」


私はそっちにいけないの?


「今は無理」


「忙しいから切るね」


今まで自分はいらない子なのかな?という疑問が確信に変わった。

あ、捨てられたんだ。私は必要がない子だったんだ。



母が出て行ってから父は優しくなった。

それは私がいればまた母を戻せると思っていたからだ。

けれど母は戻ってくる気配もない。

学校にも行かなくなった。

父がいかなくていいと言った。

父はずっと浮気をしていた。

母が家にいない事をいいことに浮気女は自宅に電話をしてきて

私を取り込もうとした。

私を取り込めば父と結婚できると思ったのだろう。

当時、小学4年生の私でも気持ちが悪いと思った。


「かなちゃんと仲良くしたいな」

「かなちゃんは何が好き?」

「今度○〇に一緒にいこうか?」

「一緒に暮らしてもいいかな?」

「新しいお母さんになってもいいかな?」


母が出て行ってまだ1ヶ月もたっていないのに。

父は意地でも母を戻してやり直すつもりだ。

反省の手紙なんかも母にだしていた。


私はたまに昼に母に電話をした。

昼だと私からの電話だとわかって出てくれるから。


「準備ができたら迎えに行く」

母は私に言った。

その言葉を信じて待つしかなかった。


家事が一切できなった父だったから

父方の叔母が来てくれていた。


母が家をでて2.3ヵ月経った。

父と祖母と歩いていた時にいきなり父のスイッチが入った。

後ろから押され吹き飛ばされた。

顔面からコンクリート塀にあたり

目の上あたりから生暖かい何かが流れた。

血だった。血がすごい勢いで流れいった。

血で目があけられない。

急いで家に帰り、傷口をぐっと押された。

それでも血は止まらなかった。

その後、傷口にふるスプレーをかけられてタオルをおいて横になっていた。

タオルが真っ赤に染まった。

夜になると高熱が出た。

目の前がなんだかぐるぐるしている。

虐待がばれるからすぐに病院には連れて行ってくれなかった。


次の日、意識が朦朧としている。

父が仕事に行ってる隙に叔母が病院に連れて行ってくれた。

でもめまいがしてちょっと歩くだけで吐き気が止まらなかった。

やっとの思いで病院につくと先生は叔母に怒った。


なんで傷にこんなスプレーをつけたのか。

なんでこんな状態で放っておいたのか。


私は出血多量になっていた。

傷は縫わないといけないくらいぱっくりひらいていた。


処置が終わり帰り道、祖母は申し訳なさそうに

私にTシャツを買ってくれた。



私の気持ちも限界を迎えた。

このままじゃだめだ。





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