第5話 幼少期Ⅳ
包丁を持ってトイレに向かった母に私以外気づいていなかった。
お母さんが死んでしまう。
どうしたらいいんだろう。
言ったらもっと暴力を振るわれるかもしれない。
お母さんはもう死にたいのかもしれない。
父がそのまま包丁で刺してしまうかもしれない。
どう言えばいいのかどう行動すればいいのか
頭の中がぐるぐるして
お母さんが包丁持って行った!
死んじゃう!
気づいたらそう言っていた。
父は慌ててトイレの扉を壊した。
私は泣きながら母が大丈夫か確認した。
母は包丁を自分に向け泣いていた。
刺せなかったのだ。
よかった、生きてる。。
「そんなんで死ねると思うなよ」
父は追い打ちをかけるように言った。
「あなたが死ぬか私が死ぬかしないと終わらないじゃない」
母は言った。
そうだ、終わりが見えないこの生活。
終わるイメージさえも持てなかった。
幼心に離婚すればいいのになんでしないんだろうって思っていた。
母は若くして私を生んで妹もいる。
叔母はいるが叔母もまだ子育て中で頼れる親戚はいなかった。
仕事はしてるが生計がたてられるほどではなかった。
母は自分ですべてを抱えていたと思う。
相談もできずに私たちの事を思い離婚を我慢していたんだと。
いつも私は母の役に立ちたかった。
味噌汁を作っている私においしいねと言ってくれる。
辛い日々の中でも母が笑っている瞬間が好きだった。
笑っているところが見たくて母の前ではふざけたりした。
母の声はいつも優しかった。
子どもにとって母親が一番。
ほんとにそんな子だった。
包丁事件があってから数日後。
母は妹だけを連れて家を出た。
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