第4話 偶然

 夢都は子供たちを寝かし付けると、ナンバーズ4とミニロトの当せん番号が気になった。

パソコンを開き、ナンバーズ4の当せん番号を見た。番号は“0695”でストレートの当せんだった。夢都は、“偶然”だと言い聞かした。


 今度はミニロトの番号を見た。“4,11,19,20,29”で1等だった。夢都は、“奇跡”だと思った。



 誰かが言っていた。1回目は“偶然”で、2回目は“奇跡”で、3回目は“如何様”だと。



 金曜日の予測が気になりだした。次は“如何様”しかないと思いながらも、あまりにも怖いので、予測の番号を買うのはいやで、またもロト7をクイックピックで夢都は買った。


 そして夢都は、パソコンを開き、ロト7の当せん番号を見た。驚き以外の何物でもない。その当せん数字は“3,6,11,14,21,28,37”で博士の予測と同じだった。



 これは如何様か。博士は未来を見たのか。あるいは、これらすべてが、夢都の無意識の行動なのか。夢はどうとでも解釈できる。しかし、もう消えてなくなったが、テレビ録画を現実に見たうえでメモしたはず。夢都は博士の予測数字を全く買っていないので、何の利益も得ていない。



 夢都は悔しがる訳でもなく、人生って何だろうと考えた。



 そして、博士の目的は何なのかが無性に気になりだした。地球侵略ではなく、地球人の夢都との交信が、宇宙人の博士にどんな意味があるのか。早く夢の続きが見たくてたまらなかった。


 今日も、子供を寝かし付けるため、夢都は床へ入った。


「夢都さん、こんばんは」


「憧夢博士、こんばんは。驚きました。確率1万分の1のナンバーズ4ばかりでなく、17万分の1のミニロトや1千万分の1のロト7まで当てるなんて。未来が見られるのですか」


「いいえ、このまえ言ったように私の予測です。私の予測が“偶然”に当たっただけです。ハズレたら謝ろうと思っていました。あれは、私の分析結果です」


「“現実である事を証明してから”と言われたのは、未来を見通せる高度な科学技術力があることを証明してからという事だったのではないのですか」

と言い、現実を受け入れようとしていた。


「そうではありません。それに、私の星でもタイムマシンやタイムトンネル、ワープ、テレポーテーションなどで人間が移動する事は出来ません。未来からではなく現在、通信をしているのです」


「惑星の位置からいっても、光よりも早い通信技術ですね」


「量子エンタングルメントと言っていますね。今度、説明しましょう」


「ではなぜ、宝くじの当せん番号を当てられたのですか」


「先程も言いましたが、私の分析結果以外の何物でもないです。量子コンピュータを使いましたが。しかし、最後はある程度の確率まで絞り込み、当たったのは“偶然”です。もう一度と言われても、二度と当たらないかもしれません。


 この世界は偶然が支配しているのです。宇宙のすべてが確実性ではなく確率によって支配されているのです。そして、偶然に地球が存在し、私の星も偶然に存在しています。また、私が夢都さんと交信できているのも“偶然”です。夢都さんが選ばれし地球人という訳ではありません。宝くじが当たる人も選ばれし人ではなく“偶然”の結果です。


 偶然があらゆるものの本質を決めるなど信じられないかもしれません。アルベルト・アインシュタインもそういう考えで、“神はサイコロを振らない”と言い、それに対してニールス・ボーアは“神が何をなさるかなど注文を付けるべきでない”と反論したと言われていますね。二人は同時代の双璧を成す科学者です。1921年にアインシュタインが1922年にボーアがノーベル物理学賞を、受賞していますよね」

と、博士は整然と言っている。


「憧夢博士の星でもタイムマシンは因果律から言って無理ですか」


「アインシュタインの特殊相対性理論は『空間と時間とは無関係の存在ではなく、それらが一緒になって光の速度を一定にしてしまうもの』と考え、そこで光はいかにしても、速くもならないし、遅くすることもできない。したがって、タイムマシンの唯一よりどころとしている光を越す粒子の考えが駄目になったわけですよね。


 しかし、アインシュタインの特殊相対性理論でも、光を越す粒子つまり超高速粒子を決して禁止はしていません。特殊相対性理論は、時間と空間(たて、よこ、高さ)とで作られた四つの項の和、及び同じようにエネルギーと運動量とで形成された四次元不変式の方から、マイナスの時に負の質量の粒子が出てきます。したがて、特殊相対性理論の式から帰結されるものは、この世の中に存在するという事です。


 そして、同じように超高速粒子であるタキオン(速い方は限りなく速く、遅い方の下限が高速になる粒子)が肯定されるようになっています。その超高速粒子の存在がミクロな意味での因果律の崩壊を導き出しているのです。


 でも、夢都さんの住んでいる現在の地球では、タキオン粒子の実在に関する実験的証拠は見つかっていません。そこが解明されていないので、タイムマシンは出来ないと考えているわけですね。とは言っても、私の星でもタイムマシンは完成していません。出来ないとする考えが主流です。私はあってほしくないとも思います」


「私も同感です。タイムマシンが現実かと思った瞬間でも、使う気持ちにはなれませんでした。恐ろしいというのが先に来ました」

と、戸惑いながら言った。


「説明が長くなりそうなので、月曜日の有紀ちゃんがお昼寝している時に、テレビ画面を通して会話しましょう」


「はい。テレビ電話のような物ですね。これは、他人からみても不自然ではないです。この地球にもありますから。今度は起きている時に会えるのですね」

と夢都が言うと、博士は微笑みながら消えて行った。


 夢都にとっての夢の時が過ぎて、日常が始まる。しかし、人間にとって日常がすべてだ。


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