第3話 宇宙人
夢都は9時には起きようとしていたはずが、うとうととしている
「今日、クイックピックで買ったセットのナンバーズ4“6911”は当たっているかな。ダブルだし、セットボックスでも37,500円はいくね。
もし、セットストレートなら誕生日の数字ではないので45万円にはなると思うけど、確率1万分
の1は難しいか。
ボックスなら416分の1だから当たるかも。いや、ダブルだから833分の1になるのか。今回当たるのは無理かな
それにしても、誕生日の数字を買う人が多いのには驚いてしまう。セットストレートで10万円を切る事もあるんだから。配当が多い時は、セットストレートでも100万円を超えることがあるのに、安易に誕生日を選ぶのは、それだけ1万分の1でも確率的に当てるのが難しいということかな。
ミニロトでは、6の倍数(6,12,18,24,30)が当たりで、1等の配当が普通は1000万円なのに17万円ぐらいだったのにも驚いたわ。
ロト7では、買うのを忘れたと思い2度同じ番号を買って、1等8億円が当たり、合わせて16億円になったというから、世の中おもしろいものね」
「残念ながらハズレでした」
「えぇ。今のなに。私は、子供達を寝かし付けている間に、睡魔に襲われ、眠りに入ったのかな。だから夢の中か」
「はい、夢の中です」
「えぇ、誰」
夢都は思わず尋ねた。
「はい、星河憧夢という物理学者です」
と、名乗った。
夢都は、夢なら夢で面白そううだから、このまま夢を見続けようと思った。
「私は時田夢都です」
「夢の中と言いましたが、これは現実です」
博士は言った。
夢都は夢にどっぷりと浸かりながらも、半信半疑で尋ねた。
「憧夢博士、現実ってどういうことですか。夢の中に侵入しているという事ですか」
「夢の中に侵入して会話することは、現在の地球の技術では無理でしょう。夢を見させることは可能かもしれませんが」
「では、科学技術が進歩した未来からのタイムトラベラーですか」
「いいえ、異星人です。宇宙人と言った方がいいですかね。同じ時代ですよ。しかし、地球よりは、かなり高度な科学技術を持っています」
「太陽系に、人類が住める惑星があるんですね」
「いいえ、ないでしょう。別の恒星からです」
「信じられません。地球の技術なら、一番近い恒星でも約4.3光年は離れたケンタウルス座アルファ星ですから、無人宇宙探査機ボイジャー1号の速さでも7万年以上かかりますよ。地球では考えられない超高度な技術ですね。地球は侵略されるのですか」
「侵略目的で、接触したのではありません。それに、この地球には来ているのではなく、通信しているだけです。その訳は、後日お話します」
「また、夢に現れるのですか。私は夢の続きというものは見た事ありませんよ」
「それは大丈夫です。私が夢都さんの夢の中に入り込むのですから、眠るだけで結構です。これが、現実である事を証明してからですが。
夢都さんは、宝くじを買われていますよね。それで、ナンバーズ4とミニロトとロト7の予測を、私がしてみましょう。
火曜日のナンバーズ4は“0695”、ミニロトは“4,11,19,20,29”、金曜日のロト7は“3,6,11,14,21,28,37”と予測しました」
「私、そんなに記憶力はよくありませんよ。以前、面白い夢を見て、忘れないうちにメモしようとしましたが全く思い出せませんでしたから」
心配気に言った。
「大丈夫です。夢都さんが目覚めたらテレビの録画一覧画面を見てください。宝くじと書いてありますので、すぐにわかります。メモしたら、自動消滅します。痕跡を残したくないので。
もしかすると、電波法違反や地球侵略罪、あるいは私を利用したい人の陰謀で秘密保護法違反に問われるかもしれませんから。
私は夢を見る時間を見計らって、脳の中に電気的刺激を送り、脳の記憶痕跡を呼び起こし、夢を見ると同じ原理で脳に働き掛けています。いわゆるレム睡眠に夢を見ますから、抵抗なく入れた訳です。レム睡眠は一夜に4、5回ありますが、第1回目は10分位で次第に20分、30分、40分と長くなります。人は途中で見た夢は忘れますが、夢都さんはこれから目覚めますから、この夢の事は覚えているでしょう」
「そうですか。楽しみにしています」
と、夢都が言うなり、博士は消えた。その瞬間、夢都は目覚めたが、不思議な感情で呆然と天井を見詰めた。
そして、思い出すようにテレビをつけ、録画一覧画面を見ると“宝くじ”とあった。早速見ると番号が書いてある。夢都はそれをメモした。すると、画面が暗くなり消えてしまった。
夢都は、リビングでコーヒーを飲み始めた。時計を見ると10時を回っている。9時から始まる2時間ドラマの事など忘れて、メモを見詰めた。
夢都は、9時までに起きようと思っていたのに、2時間近くも眠ってしまったことになる。夢都は小さい時、タイムマシンは現在の時間より速く進めば未来へ行け、遅く進めば過去へ行けると理解していた。しかし、速いとか遅いとかの規定がどうやって、この現在から抜け出すかが分からなかった。現実に過去に出た光を超高速粒子であるタキオンで追い掛けるというぐらいで、仮に出来るにしても過去を垣間見るしか出来ないというのが、現在の科学の限界と思っていた。
しかし、星河憧夢と名乗った博士は、夢都と話をして未来を教えた。もし、現実に番号が的中すれば、夢都は夢の中で因果関係が崩れ、時間の壁を越え未来を垣間見る事になる。
家の明かりが見えたのか、陽一が呼び鈴を鳴らした。
「ただいま、起きていたんだ。寝ていると思って電話しなかった」
疲れきった声で言った。
「おかえりなさい。お疲れさま」
「課長に捕まってね、食事はいいよ。お風呂、入れるかな」
「沸いているわよ」
「お風呂に入ってから寝るから、先に寝ていいよ」
「じゃ、お先に、おやすみなさい」
夢都は陽一が床に入ったのも気付かずに眠りについていた。
朝6時に目が覚め、朝食の用意をした。7時にはみんなを起こして、朝食を取り、陽一を送り出し、信治を幼稚園へ連れて行った。
「根岸さん、おはよう。今日も車」
「そう。時田さん、おはよう。歩きなの」
「運動よ。根岸さんのうちは、年長、年中そして年少さんと三人だから運動会の時、三つも親子ダンスを覚えなくちゃいけないので大変ね」
「大変だけど、楽しいわ。でももう、完璧よ」
「若いと、覚えが早いわね。三人だと、自転車じゃ連れて来られないでしょう」
「当然よ。私は無理。でも、田所さんの御主人は幼児用の前後の座席のほかに、おんぶ紐で背負って、4人乗りで来ていたわよ」
「ええっそうなの、田所さんの御主人は子煩悩ですものね。奥さん、今4人目がおなかにいるのよね」
「そうなの、うちへ遊びに来る時は、奥さんが車で送り迎えするけどね。私が田所さんの家へ行く時は、うちから幼稚園までより遠い反対側だから、免許もっていないので自転車で送り迎えするわ」
「上の子が自転車、ほしがるのよ。でも、この頃、子供の自転車事故で多額の賠償金が発生していると聞くと怖いので、まだ駄目って言い聞かしているの」
「子供に自転車を買ったら、自転車保険に入らないと駄目よ」
「そうね。今日は、どこかに遊びに行く予定あるの」
「今日は、遠くのホームセンターへ買い物に行くわ。おの迎えの後、うちに3人が遊びに来るけど、翔太君も来る」
「いいの、大勢なのに」
「いいわよ。家でも遊ぶけど、周辺も危なくないし大丈夫よ」
「じゃ、よろしく」
「またね」
と言って、夢都は別れた。
いつもは、洗濯をして、掃除をして、10時過ぎに買い物をして、お昼ご飯を食べて、昼寝をして、公園へ散歩にでかけ幼稚園のママ友と会話するのが定番だった。そして、信治を幼稚園に迎えに行く。それから、信治の友達が遊びにくる。5時ぐらいには友達が帰る。友達と遊べない時は、トランプやオセロ、将棋などを夢都にせがむ。また、独りでジグソーパズルに夢中になることもある。そして夕食の支度。こうして、いつもの時間が過ぎて行く。
しかし、今日は紙おむつを遠くまで買いに行くため、公園へは行かなかった。夢都は、子供乗せ自転車に有紀を乗せ快適なサイクリングを楽しみながらホームセンターへ出かけた。帰りは打って変わって、きつそうだった。自転車の後ろの荷台に積んだ紙おむつの量が思ったより重く、ふらつきそうになっていた。そんな時、車道を猛スピードで逆走してくるスポーツカーを見た。夢都は歩道を走行していたので、スポーツカーと鉢合わせせずにすんだと、ほっとした気持ちで家路を急いだ。
夢都はある種、自分自身を律する意味でこんな事を考えている。夢都は時々、ある事が起きなくてよかったと思った瞬間、パラレルワールドを考える。つまり、ある事が起きた世界と起きなかった世界があるような。したがって、自分自身は起きないでくれと願っていた世界ではよかったと安心している自分がいる。しかし、願わないことが起こった世界では悲嘆に暮れている自分がいる。
夢都は、こんな事を考えて、起きなかった事に甘んじてばかりはいられないと思う。夢都は、そんな宇宙も考えられる、この世の中が不思議でならなかった。
しかし、結構こんな運命の別れ道があちらこちらに口をあけて待っているとしたら。そんな口がもしかしたら、タイムトンネルのようなものだったり、あるいはそれがパラレルワールドの扉だったりして存在していると考えると、人はみんな平等に幸せや不幸が与えられているような感じがする。幸せや不幸が隣合わせに存在するのではなく、皆が考えられる全ての道を歩んでいるパラレルワールドの世界があるとは考えられないだろうか。
夢都は元々運命論者なので、この仮定には賛成のはず。それで、人の運命はどう足掻こうが最初から決められていると思っている。その運命に逆らうつもりもなかった。しかし、その運命がどのようになっているかは、誰も知らされていないことは事実だ。人は、全く道標のない人生を歩むのは不安でならないだろう。それゆえ、運命という道標を頼りに歩んでいるのだ。
夢都は、運命に流されず、信じる道を生きられれば、最高だと思っていた。夢都に課せられた運命がどのようなものであるかは、人生の最期で味わう事にしていた。
夢都は買い物の途中に、博士の予測数字は買わずに、ミニロトとナンバーズ4をクイックピックで買っていた。
博士は予測とは言ったが、もしかしたら未来が分かるかもしれないと思い、夢都は何かしら怖かった。単に心に思う事と現実に、未来の宝くじ当せん番号表を手に入る事は別物だった。
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