第4話

「夏だ!」

 夏になった。

「海だ!」

 海に来ていた。

「合宿ですわ!」

「イエス、夏合宿」

「先輩! なんでこの二人もいるんですか!」

「紺藤くん、言いたいことはわかるよ。急に夏になったり同好会は三人とかいう設定を無視したり。でも賑やかなほうがいいじゃないか。夏といえば」

「祭りなんだよねえツバキっち」

「左様、これは祭りなんだ。フェスタってやつさ」

「何を言ってるのかわかりません!」

「まあ良くてよ。ワタクシたちも仕方なく来てさしあげたとはいえ兎姫田さんの言い分にも一理あるわ」

「イエス、ここで顧問の十文字先生からの言伝を読み上げます」

「なんであんたが言付かってんですか!」

「私は進捗が忙しい。みんな夏だ怖い話が好きだからといって妙なところに肝試しに行ったりなどしないように。私に迷惑をかけるな。十文字」

「なんやこの顧問!」

「っちゅうわけで今晩は肝試しに行くぞー!」

「菊森?」

「いいアイデアだな……」

「カエデ先輩?」

「ワタクシは反対ですわよ!」

「咲洲がそのリアクションなのはなんとなくわかる」

「私は撮れ高の為、裏に徹します。場所はこの浜を少し北に進んだところにいい感じの鍾乳洞を見つけました。今回は二人一組でペアを作っていただきます。鍾乳洞の奥に私が設置したお宝がありますので今宵はそれを取ってきてください。ちなみにその鍾乳洞ではかつて悪魔のいけにえとして十三日の金曜日に死霊のはらわたを使ってエクソがシストしたというウワサがあります」

「ないだろ! ……文脈すら!」

「今回ばかりは紺藤さんに賛成でしてよ! 平子さん! あなたのことをこれまで私がどれだけ」

「咲洲様、そのことについては感謝しております。しかしそれとこれとは別。私は咲洲様の信徒である前におもろさ重視の女の子なので」

「咲洲っちがおもしれー女だもんね。おっけ。あちしが咲洲っちと組んだげるよ」

「あなたね! 勝手に!」

 ごちゃごちゃしていて気を取られそうになったがこれはめちゃめちゃ好機なのではないかと思った。今日まで二人きりになれたチャンスが入学案内のあの日以来まるで巡ってこなかった私だ。二年のバカ先輩達ありがとう。たまにはいい仕事するじゃないか。

「カエデ先輩、あの、二人きりですね! いや別になんというかそのそゆのじゃなきにしもあらずんばないではないとせんこともないんと星矢というか」

「……」

「あれ、カエデ先輩?」

「 あ ああ、よろしくな。紺藤くん」

「?」


 決戦の夜。どさくさに紛れてチューしちゃおうかな。ダメ。そんなの時期尚早限界和尚よ。慎重に行かなきゃ。キャー、コワイですぅ、守ってカエデ先ーーーッ輩。よし。

「夜も更けてまいりました。これより第一回えーっとこの同好会の名前なんでしたっけ?」

「えるぱらいそ。ツバキっちがどうしてもこれでって煩くて」

「いいだろ! 楽園!」

「仕切り直します。第一回えるぱらいそ肝試し大会を開催します。ルールは簡単。あちらの鍾乳洞の奥へと進んでいただき、私が設置したお宝を見つけてもらいます。それを取って戻って来たタイムを競い、勝者にはそのお宝をプレゼントいたします。二組ともご準備よろしいですか」

「勝負ごととあらば仕方ありませんね!」

 咲洲先輩になんとかモチベーションを持たせる為の苦策としてなぜか対戦形式になったがそんなことは最早どうだっていい。私の敵は私です。ファイト紺藤ツバキ。

「では先攻、兎姫田・紺藤ペア。懐中電灯をどうぞ。足場は大変危険になっておりますので転ばぬようにお気をつけて」


 私たちはいよいよ中へと踏み入った。あたり一面の真っ暗闇。灯りがなければ何も見えない鍾乳洞の中は不気味で確かに怖い。しかし私はそんな鍾乳洞よりも私自身が怖い。もう制御が効かなくなりつつある。今すぐにでもしでかしてしまいそうだ。いや、しでかしたくて仕方がない。この数ヶ月悶々と秘め続け溜め腐りそうな邪な気持ちが乳繰りまわせと轟き叫ぶ。

「カエデ先輩!」

「ひぃ! ヤダーッッ!」

「……」

「……ンンンッ 行こうか紺藤くん」

「……」

「なんだいその目は」

「先輩……いえ」

「言え! なんだいその目は!」

 

 紺藤ツバキ、めちゃくチャンス入りました。

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