第2話

「ほーっほっほっほっ! ワタクシ達に挑むなんて愚か以外の何物でもなくて? ねえ平子さん?」

「イエス、マイ咲洲サキシマ様」

 高らかに笑うのは三年の咲洲先輩。隣のサイボーグは二年の平子先輩だ。私たちはこの咲洲組に同好破りを申し出た。

「わかっていらっしゃるのかしら兎姫田さん。ワタクシに敗北した暁にはそれ相応の誠意を見せてもらわなくてはね」

「イヅル、私たちはまだ負けていないよ」

「強がれるのも今のうちかしら。貴女も本校の生徒を二年以上なさっているのだからご存知でしょう。同好破りのルールを」

「挑戦者は勝負の方法を選択出来ず相手の提示したルールに従う。いいよ、イヅル。何で勝負する?」

「その前に一言よいかしら?」

「なんだい? イヅル」

「なんだい? じゃないわい! なんであんたがチャレンジャーチームにいるのよ!」

 それはそう。本校同好会は定義として生徒三人顧問一人で成立する。ところが私たちの前に立ちはだかる咲洲組は咲洲イヅルと平子ハルノの二人。何を隠そうもう一人のメンバーとして籍を置いていたのがカエデ先輩だった。

「二人が同好破りをどうしてもやりたいと言って聞かなくてね。手近なところで君たちがいたからさ」

「頭おかしいんじゃないの! 裏切り者!」

「イエス、バーサーカー兎姫田様」

「心配するなイヅル。私はゲームに参加しないよ。君たちとは菊森と紺藤くんの二人が戦う」

「「え?」」

「あらそう。ならいいわ」

「「え?」」

「勝負は"盲目のバッファロー・サヴァイバー"よ!」

 

 放課後の体育館。それは始まった。盲目のバッファロー・サヴァイバー。

「準備はよろしくて?」

「準備もなにもルールが」

「あら? ご存知なくって。いいわ。平子さん、ルールを説明してあげて」

「イエス、マイ咲洲様。では説明させていただきます。このゲーム簡単に申し上げますと乳首凸鬼ごっこでございます」

「乳首凸」「鬼ごっこ?」

「はい。今回は四人にて行います。これはチーム戦ですのでそれぞれのチームにはバッファロー役とバオバブ役を決めていただきます。今回は盲目の縛りがありますのでバッファロー役は目隠しをしてください。バオバブ役は味方のバッファロー役に指示を出すことができます。但し最初に決めた立ち位置からバオバブは動くことが出来ません。バッファローは味方のバオバブから与えられる情報をもとに相手のバオバブの位置を特定します。ここだという位置に来たらバッファロー役はバッファローーーーッと叫びながらバオバブの乳首を目掛けて両手で模した角を頭の横に添えて突進してください。相手チームより先に見事バオちくへ命中させた時点で勝利となります。但しワンバッファローでバオちくを仕留められなかった時は相手のバオバブに移動権が与えられ位置を変更することが出来ます。以上が盲目のバッファロー・サヴァイバーのルールです。よろしいでしょうか」

 何もよろしくない。数あるアナログゲームの中でなぜこのルールなんだ。どっちだ。バッファローかバオバブか、どちらが人として正解なんだ。

「じゃああちしバッファローね。ツバキっちバオよろ」

「平子さん、いつものように」

「イエス、ユアハイネス」

「ではこの兎姫田が取り仕切らせてもらうよ」

 勝手に進めるな。


「じゃあ行くよ。第一サバンナ! 始め!」

 先輩までノリノリじゃない。どうしてこうなった。違う。今は集中しなきゃ。

「菊森先輩、とりあえずまっすぐ! ちがッ! 反対反対逆逆逆!」

「右二歩、続いて左曲がり六歩。そのまま右に一四歩」

 え、なに。咲洲の指示の的確さ。加えて平子の正確無比な動き。もう目の前じゃん。菊森先輩!

「どこ〜? ぜんぜん見えねんだけど」

「菊森ーーーッ!!」

「紺藤様、時に大声は死活。いかせていただきます。スゥーーーッ」

 やめて。お願い。

「バッッ        ファローーーッ!」

 

 アッ。


「平子、命中。咲洲チームにワンポイント」

「あ〜ら、呆気なくてよ。開始前の威勢はなんだったのかしら?」

 これが……同好破り。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る