第9話 決闘は三日後に

 決闘は三日後に行うことになった。

 どうしよう。ドキドキするよー。


 ①わたしとサーヴィスが朝食をつくる。

 ②準備や調理は誰かが手伝ってもOK!

 ③ゴードン、ドノバン、ブリアンが審査する。


 やり方はこんな感じ。

 

 わたしはガーネットに手伝ってもらうことにした。今のところ、わたしの唯一の味方だ。

  

 サーヴィスにはクロッスとウェッブが全面協力するらしい。子分コンビがサーヴィスにこんなことを言っている。

「おれたちが最高の食材を用意してやるから、まかせておけって」


 それにしても、予想外の展開だよ。

 でも、ここは前向きに考えるしかない。みんなに認めてもらうチャンスかもしれない。


 ガーネットが力強く言った。

「ヒカリ、こうなったら絶対に勝とうね!」

「うん! がんばるよ」

  

 とはいったものの。

 何をどうがんばればいいのかな……。

  

 クロッスとウェッブがサーヴィスに味方しても、どうってことはない。でも食材のことは、少し気になる。


 ドノバンとクロッス、ウエッブ、それからウィルコックスの四人は、少年たちの中でも射撃の名手だ。

  

 スラウギ号には猟銃のライフルが八丁と、弾薬が積んである。ニュージーランドを一周しながら、あちこちで猟を楽しむ計画だったんだ。


 子供のくせにライフルを撃つなんて、わたしにはちょっと信じられないけど。


 そういえば、おじいちゃんは知り合いの猟師からもらった野生動物を料理することがあったよ。カモとか鹿とか。おじいちゃんは羽をむしったり、皮をはいだりしていた。


 わたしはそこまでやったことがない。どうしよう。羽をむしったりとか、できるかな……。


 でも無人島で生活するって、そういうことだよね。スーパーで売っているパックに入った食材なんて、ここにはないから。


 ガーネットには「料理ができる」って宣言したけど、いまごろになって不安がムクムクふくらんでくる。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

  

 少年たちは決闘の話題で持ちきりだ。わたしは注目の的になっていた。

  

 最年少のドールとコスターはとりわけ興味津々だ。

  

 ドールがわたしに質問する。

「ねぇ、ヒカリは何をつくるの?」

「ふふん、それは秘密だね」


 低学年の少年たちは、わたしへの警戒心が少ない。昨日から一緒に作業していたので、かなりなじんでいた。


 ドールは、さわがしくて活発で、いかにも男子って感じ。ほら、好きな女の子にちょっかいだすようなタイプ。丸刈りっぽい短髪が似合っている。


 わたしの返事にドールがさわぐ。

「えー、ズルいズルい。教えてくれてもいいじゃん」

「ダメダメ。決闘の当日まではナイショだよ」

 そう答えたが、本当はまだ何も考えていない。

  

 そういえば、みんなは何を食べるのかな。コスターに聞いてみた。

「ねぇ、コスター。一番の好物は何?」

「肉!」

 即答だ。やっぱり肉かぁ。

 コスターはポッチャリとした健康的な体型で、ふくらんだ白いほおが愛らしい。

  

「肉って言っても、いろいろあるよね」

「牛も豚も羊もチキンも、全部好きだよ」

 羊が入っているのが、なんだかニュージーランドっぽいなぁ。


「じゃあ、どんな肉料理が好き?」

「ステーキ! 焼くのが一番だよ」

 うん、それもわかる。ステーキしか勝たん、って感じ?

  

 コスターがわたしに言った。

「そうだ! ヒカリ、羊の丸焼きをつくるのはどう? ぼく、羊の丸焼き、食べてみたいなぁ」

  

 うーん。そんなアウトドアの達人みたいな料理、わたしにはムリだよ。丸ごとの羊肉もないし。でも、コスターの笑顔をみると、むげに断れない。


「う、うん。すてきなアイデアだね。考えておくよ」

 わたしはそう答えた。

 

 さて、決闘のことばかり考えているわけにもいかない。

 

 わたしとガーネットは朝から荷物の整理をがんばった。そして午後からは低学年の子供たち、ジェンキンズ、アイヴァースン、ドール、コスターの四人をつれて、海岸に食べられるものを探しに出た。

 

 砂浜に岩場がせり出して磯になったところがある。引き潮のタイミングで近づくと、潮だまりにはさまざまな生き物がいた。


「見て! 魚がいる!」

 ドールがさわいでいる。


 手網を使うと、ハゼのような小魚が面白いようにとれる。岩場には海藻がたくさん打ち上げられていて、緑色の海藻の間には小さなカニや貝がいた。


「やった! 二枚貝クラムだ!」

 コスターが目を輝かせた。白っぽい二枚貝だ。小ぶりのハマグリくらいある。


 わたしはコスターにたずねた。

「これ、食べられるのかな?」


「このまま食べていいんじゃないの」

 そう答えるコスターが今にも口に入れそうな気がして、ちょっとあせった。


 すると二枚貝を手のひらにのせて眺めていたジェンキンズが教えてくれた。

「これはニュージーランドでもよく食べられている貝ですよ。焼いたり蒸したり、生で食べる人もいます」


 ジェンキンズは九歳だけど、口ぶりが大人びている。説明し始めると、赤毛の下の灰色の目がキラリと光った。


 ジェンキンズのお父さんは有名な科学者らしい。本人も成績優秀で、チェアマン校きっての優等生なんだって。


 これ、牡蠣かきみたいに生で食べられるのかな。でも中毒がこわいから、生はやめた方が良いよね……。


 潮だまりでワイワイ盛りあがる低学年の少年たちを見て、わたしは思いつく。


 そうか、ここで海の幸をとって食材にしても良いなぁ。

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