第2話 未熟さゆえに人に利用される

 気付けばもう19歳。

 宮里藍など自分よりも若いスポーツ選手が活躍しているのを見るとヘコみました。


 心の空虚を紛らわそうとネットで様々な人と交流しました。しかし僕は構ってちゃんだったので大抵はウザがられて距離を取られてしまいました。


 淋しくなった僕は精神科デイケアに行くことにしました。


 そこで患者さんたちと触れ合うと、とても楽しくて、暖かくて、心の空虚が埋まっていきました。僕は、賞を取って有名になるなんてバカバカしいと思うようになりました。


 「有名になれなくてもずっとここで楽しく皆と過ごせればそれでいいや」


 と思いました。


 しかしやがて患者さんたちは僕に対していろいろと無茶な要求をしてくるようになりました。

 金を貸してとか、俺の家を掃除しに来いとか。しばらく付き合って僕が気弱な性格で断るのが苦手だと分かるや、遠慮なく無茶ぶりをするようになったのでした。一回言うことを聞いたが最後、あれもやって、これもやって、と際限がありません。


 それもこれも、本ばかり読んで世間を知らない自分自身のうかつさが招いた災いだったと思います。自業自得です。


 こういう嫌な思いをしたことは経験値になったと思います。

 読書では得られない良い体験ができました。


 ですが毎日のように大勢の患者さんたちが無茶ぶりをしてくるのは辛く、デイケアを辞めました。

 

 生きがいを失った僕は再び引きこもり来る日も来る日もネットばかりしていました。

 その頃ミクシィをやっていて、読書が好きなマイミク(友達)と交流していました。その人が親切な人で、面白い本をお勧めしてきました。一度読んで「面白かったです」と感想を書くと、またお勧めをしてきました。また読むと、またお勧めをしてきました。本以外にも漫画や音楽など、あれもこれもと大量にお勧めされました。さすがに疲れてしまったので断ると、今度は僕の私生活にあれこれと干渉してきました。


 「家で読書ばかりしていないでウォーキングするといいよ。君は沖縄に住んでるから海でウォーキングするといいよ」


 僕の家の近くには海はありません、と言うと、


 「いや、沖縄だから絶対あるよ。明日は海に行きましょう」


 と、なかなか折れません。毎日のように海に行け海に行けと海責めをします。


 それが終わったと思ったら「働け」と言ってきます。精神障害者だし、いきなり働くなんて無理なのに、働け働けと言ってきます。無理と言うと、労働することの大切さを長文でお説教してきました。うんざりして「作業所に通うことにしました」と嘘を書きました。


 すると今度は生活保護を貰えと言ってきました。


 「あなたのことを心配して言っているんですよ。年長者の言うことは聞きましょう」


 上から目線で何度も何度も言ってくるので、「貰うことにしました」と嘘をつきました。

 すると次は貯金はいくら持っているんですか?としつこく聞きますから、作業所に行ってるし生活保護もあるから結構ありますよ、と嘘を言ったら、「私のアパートに一緒に住みませんか?沖縄から来て下さい」と抜かしてきます。


 この人はどうやら僕に本や漫画をお勧めすることで、言うことを聞く従順なやつかどうかテストをし、ある程度言うことを聞くので、働かせて生活保護を貰わせ貯金をさせて、自分のアパートに来させて金をむしり取りつつパシリにしてやろう、という計画を立てていたみたいです(もしかすると肛門も狙われていたのかも…)。

 断ると逆ギレして文句を言ってきました。

 嫌気が差してミクシィを退会しました。

 

 


 疲れ果てた僕は人との交流を辞め、癒しを求めて創作に没頭しようと思い、とある小説投稿サイト(カクヨムではありません)に登録しました。

 しかし、そこでも妙な人に絡まれました。

 その人は僕の小説のコメント欄に、


 「私の小説に感想を下さい」


 と、しつこく言ってきました。まぁ一回だけなら、とコメントしたのが運の尽き。暇を持て余した引きこもりっぽい人で、朝から晩まで毎日のように感想クレクレをしてきました。


 承認欲求の化け物で、一度コメントを書いても「他にも感想ありませんか?」と何度もクレクレをして、一作品につき十回も感想を書かされました。早く書かないと怒涛のような催促メッセージを送ってきますし「早く感想書いて下さい!」とブチギレたりしました。

 精も根も尽き果ててブロックをしたら、怒ったお仲間から罵倒のメッセージが送られてきました。

 それで結局そのサイトも退会してしまいました。

 


 これらのネットで出会った人たちはいずれも社会経験がなく、引きこもって読書ばかりしていたようでした。

 社会に出て人と接していないから自己を客観視することができず、歪んだ性格になったのでしょう。その歪んだ状態で読書をしたり創作をしたりすることで自尊心を肥大させ、ますます性格が歪んでしまったのだと思います。


 僕は「彼らはまるで自分みたいだ」と思いました。

 鏡に写った自分の醜さを見せつけられたようで不快である反面、目を背けずに直視して反省するべきだと思いました。今でもたまに彼らのことを思い出し、あのような自己中心性を克服しなければと自分に言い聞かせるようにしています。

 だからこれらの苦い体験も多少は自分の糧になったし、そういう意味では良い体験をしたと思っています。



 

 一方で、ただただ不快で胸糞悪いこともありました。

 それは同好会でのことです。


 同好会は高齢の会員ばかりでした。彼らは非常に頑固で怒りっぽく、下手くそな小説を送っただけでガミガミ怒鳴られました。


 それだけならまだいいんですが、出版会などの会合があることを一週間前とか、酷いときは二日前に連絡してきたり、間違った日にちを教えてきたりするので閉口しました。

 他にも、夜中に電話を掛けてきたり、待ち合わせに平気で遅れたり、任意提出のはずの原稿を何故か強制的に提出させたりと迷惑行為を平気でして悪びれもしないので困ってしまいました。

 

 会合はいつも平日の夕方に行われました。仕事をしている会員には都合が悪い時間帯ですが、隠居をしている高齢の会員達はそこに気付けず、自分たちの都合の良い時間帯に会合を設定していました。


 そうやっているうちに若い会員たちが次々に辞めて行きました。編集長は「若い人たちは何で辞めて行くんだろう?」と嘆き、「根性が足りないからだ。根性さえ出せば執筆は続けられるはずだ。頑張れ」と皆に的外れな檄を飛ばしました。


 それでも若い会員の離脱が止まらないので編集長は皆の前で「辞めて行った人たちは根性が足りない」と激しい調子で攻撃をしました。それに対する異議が誰からも出ないどころか、皆にっこり笑って頷いて同調していました。僕はうんざりして同好会を辞めることにしました。




 同好会も辞めて、デイケアも辞めて、SNSも辞めて、ついに僕はやることがなくなってしまいました。

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