振り向かなくても構わない(1)
「じゃあこれ脚本! 来週早速劇の合わせやるから、ちゃんと覚えてきてよね!」
配役が決まって三日ほど経ったころでしょうか。早速学級委員長から、わたしと
パラパラと台本を捲ってざっと読んでみたところ、10分ほどの短い演劇ということもあり、そこまで覚えるセリフは長くなさそうです。
……しかし。
「……」
やはり、というべきでしょうか。しっかりと舞踏会で王子様と踊るシーンが書かれていました。
演劇の間だけ、御大地くんのお姫様になれるのなら悪くありません。ですけど、やっぱりわたし、踊りは……。
「踊るシーン、やっぱりしっかり入ってたな」
図書室のカウンターにて、ひとりで台本を読みながら考えているところに、御大地くんがそう話しかけてきました。
意地悪く笑う御大地くん。そんな笑顔にもときめいてしまうわたしは、つくづくどうしようもないと思います。
「そうですね……そうだ、従来どおりじゃつまらないですから、今回のシンデレラは、王子様単独で踊るのはどうでしょうか?」
「斬新すぎるだろ、どんだけやりたくないんだよ」
会話を交わし、笑い合うわたしたち――でも、これに心地よさを覚えているのは、きっとわたしだけですよね。
……だって、あなたが好きな人は。
「御大地くん、本当だったらこの劇――シンデレラ役は、
わたしがそう聞くと、御大地くんは目を丸くして「はぁ!?」と声を上げた。普段クールな御大地くんだけど、円樹先輩の話を振ったときだけ、ちょっとだけ取り乱すんですよね。それってもう、完全に円樹先輩のこと意識しちゃってるじゃないですか。
「……別に思わないさ。仮に円樹先輩と僕とでやってみろ。シンデレラが輝きすぎて、王子様役の僕は、一瞬で背景の木の役レベルだ。釣り合いがまったく取れない……まあ、目立たなくて済むのは、いいけれど」
「わたしだと、ちょうどいいですもんね〜」
わたしのその返答に何かマズいと感じたのか、御大地くんは「いや、そういう意味じゃない、
あえて冷めた視線を送っていると、御大地くんはふいに真剣な眼差しを向けてきました。
「いや、本当に、北千種さんだってきれいだと思う。僕は結構、北千種さんの顔も好みだ」
……。
……真面目な口調で言われてしまっては、わたしも返答に困ります。
「……そう、ですか。御大地くんって、簡単にそんなこと言えてしまうような、女たらしなんですか?」
「女たらしとはなんだ、僕は別にそういう下心からそういうことを言ってるんじゃ――」
「わかってますよ。軽い冗談じゃないですか」
――それにしても、『
(『も』ってことは、結局一番に思い浮かべるのは円樹先輩のことなんじゃないですか)
いちいち言葉の揚げ足取りをしていると思われそうですけど、恋する乙女にとっては、たった一文字も一大事なんです。
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