わたしの王子様(2)

 ――ついに出会えた憧れの王子様。


 だけど、実を言うと出会った瞬間、すぐに彼だとわかったわけじゃないんです。


 最後に顔を合わせたときがお互い五歳くらいのときでしたから、その当時とは見た目も雰囲気も変わっている現在において、すぐに気づくことはありませんでした。


 日々御大地みおおじくんを目で追っていくうちに、だんだんと確信が深まって、間違いなく彼がわたしの恋する王子様だと思ったんです。


 ――でも、そのときにはもう遅かったのです。


 彼の心は、別の人に向いていました。

 しかもその相手は、学園一の美少女と称されるお姫様。


 彼は否定していましたけど、見ていればわかります。彼は彼女――円樹円つぶらき まどか先輩が好きなんだって。


 ……ま、別にいいですけど。

 彼の幸せが、わたしの幸せですから。


 それにしても気になります。

 なぜ御大地くんは、頑なに円樹先輩が好きだと素直に言わないんでしょう。


 やっぱり恥ずかしいんでしょうか。いや、それとも……。


(――何か、特別な事情がある……?)


 円樹先輩も御大地くんには懇意にしているようですし、それが「転校生」だからという理由だけではない気がします。そもそも、御大地くんの転校時期も、新入生わたしたちとほぼ変わりませんし……。


 気になりますが、なかなか口を割ってくれませんし……ここは、しばらく様子見ですかね。




 ◇




(急いで探しに行かないと。ペンダントの中身を見られたときには、わたしは……)


 ――彼はわたしを蔑むかもしれません。気持ち悪いと忌避の視線を向けるかもしれません。そしてもう二度と……わたしと、話してくれなくなるかもしれません。


(そんなのは嫌です。想いが実らなくてもいい、せめて近くにいる間だけは、あなたと話していたい……!)


 ――とにかく、今は不安になっている場合じゃありません。最後にいたのは図書室……まずはそこから探さないと。


 慌てて踵を返したときでした。目の前には、すでに御大地みおおじくんがいたのです。


「……っ!」


 ――しかも、その右手にはわたしのペンダントが握られていました。


(慌ててはダメ……まだ、彼が中身を見たとは限らない)


 自分にそう言い聞かせ、わたしは平静を装いながら、「あら、御大地くんもお帰りですか?」と話しかけました。


 御大地くんは「いや、そうじゃない」と、わかりきった返事をし、持っていたペンダントを差し出しました。


「これ、北千種きたちぐささんのかな。図書室に落ちててさ」


 息を切らし気味にそう話す御大地くんは、わたしにこれを届けるために走ってくれたのだろうと推察できました。


 その姿は昔の王子様と重なって、わたしの心は、久々に大きく弾みました。


 ――でも、表に出しちゃいけない。彼には、彼の想うお姫様がいるから。


「……ありがとうございます」


 わたしはペンダントを受け取って、改めて御大地くんを見つめました。


 御大地くんの様子を見る限り、どうやらペンダントの中身は見ていなさそうですけれど……念のため、聞いておきましょうか。


「あの……届けてもらって早々、こんなことを聞くのもなんですけど……ペンダントの中身、見ました?」


 御大地くんはフッと頬を緩ませ、


「見てないよ。僕がそんなデリカシーのない男に見えるか?」


 と、答えました。


 わたしは安堵したあと、ほんの少しだけ残念になりました。もちろん、中身を見られちゃ困るんですけど……でもやっぱり、彼にわたしの想いを知ってほしい気持ちもあったから。


 ワガママだなって、思いますけど。


「……ええ、デリカシーなさそうだなって感じは、多少しますよ」

「……北千種さんって、『思いやり』もどこかに忘れてきてないか?」


 呆れる御大地くんに、クスクスと笑うわたし。


 どうかこの時間が永遠になればいいのに――なんて、恋する女の子はみんな口を揃えて言うんでしょうけど、わたしもまったく同意見です。

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