守られるだけの弟(1)
次の日。昼休みを迎えた僕は、早速中庭へ行く準備をしていた。
(もらってばかりじゃ悪いからな。これは決して
と、僕はひとり心の中で言い訳をしつつ、カバンの隙間から覗かせている小さな紙袋を見つめた。
今朝、登校途中のコンビニで昼食を選ぶついでに買ったものだ。中にはマカロンが入っている。女子ってそういうの好きそうだという勝手なイメージだけで選んでしまったけれど、円樹円は喜んでくれるだろうか。
(……って、そんなこと考えても仕方ない。さっさと行くか)
僕は中庭へ向かうため席を立った――そのときだった。
「ちょっと話があるんだけど」
そう声を掛けられ、僕は振り返った。
ガタイのいい男子二人に、気の強そうな女子一人が僕を睨みつけていた。
――ええと、名前……なんだっけ。まったく話さないから、全然思い出せないな。
僕はとりあえず、「なんですか」と返すと、真ん中に立つ男子が、
「俺らと来い。とにかく話がある」
と、有無を言わさず態度で答えた。一度は断ろうとしたがその三人の雰囲気に飲まれてしまい、僕は渋々頷くしかなかった。
――それから連れてこられたのは、
ここまで来ては嫌な予感を感じずにはいられない。一体、僕が何をしたっていうのか。僕はこの人たちと、なんら関わったことがないというのに。
「……お前さ、転校生だからって調子乗ってねぇか?」
さきほど誘いの言葉を掛けた男子が口火を切った。なんとも不穏な始まり方だ。
次に、もう一人の男子が続けてこう話す。
「最近、円樹先輩ばかりに気にかけてもらってるみたいじゃん? 昨日もいっしょに帰ってるところ、俺見たぜ」
立て続けに、気の強そうな女子も口を開く。
「アンタ、前に円サマがウチのクラスに来たとき、円サマに向かって『もう話しかけるな』とか言ってたし、何様のつもり!? つーか、今は馴れ馴れしく接してるとかさぁ、意味わかんないんですけど!」
なんだよ、『円サマ』って。円樹円め、女子からは崇められてるのか……と思いつつも、僕はどう言い返すか考えていた。
この三人が言っていることは紛れもなく事実だ。だが、そこに難癖をつけられる筋合いはない……と言いたいが、それを口にしてしまうとよりめんどうな事態になるのは明白だ。
ここは何も言わず、ただやり過ごすしかないか……。
「俺らは円樹先輩から話しかけられることなんて滅多にねぇ! すれ違って、挨拶される程度だ! それなのに、なんでお前みたいな根暗野郎が円樹先輩なんかに……!」
最初に口を開いた男がワナワナと震えながら僕に憎しみをぶつけてきた。調子に乗ってるなんて何かと思えば、ただの嫉妬じゃないか。
その程度の嫉みで、僕に当たらないでほしい。
僕はそれ以上に、自分の存在の立ち位置を恨んでいるというのに……。
「ってか、アタシ前も見たんだからね! アンタが
僕は反射的に顔を上げた――もし、会話の内容を聞かれていたら、一層僕らの関係が怪しまれてしまう。
すると、僕の反応を見てか、気の強そうな女子はニヤリと笑った。
「……そんな反応するってことは、やっぱりなんかマズイことでもしたんでしょ。円サマ、アンタから慌てて逃げていくところ、見たもの!」
僕はそれを聞いて少し安堵した。内容までは聞かれていないようだ。だが、話を聞いた男子二人はますます僕に睨みを利かせる。
(しかし困った。このまま黙ってやり過ごそうと思ったが、それも難しくなってきた。それに、早く中庭へ行かないと、円樹円が待っているのに……)
僕があまりにも沈黙を続けていることに腹を立てたのか、ひとりの男が舌打ちをして僕に詰め寄ってきた。
「お前、いつまでそうやって黙ってるつもりだよ」
男の右手に拳が作られる。
(どうやっても逃げられそうにないし……ここは一発殴られとくしかない)
この状況に諦めた僕は、地面に視線を落とした。
男は深いため息のあとに、「……もういい」とひと言。そろそろ殴られると察し、覚悟を決めた僕はゆっくりと目を閉じた。
「――言う気がねぇなら、こっちから喋らせてやる!」
男はそう放ち、次の瞬間、鈍い音が鳴り響く。
(……あれ?)
だが、なぜか痛みはいつまで経ってもこなかった。僕の痛覚はおかしくなったのかと思いつつ、目を開けると――
「……ッ!?」
――目の前には、頬を抑えた円樹円が立っていた。
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