洩れた気持ち〈ホンネ〉
なんだかんだ、二人で会話 (主に
(絶対そんなこと、円樹円には言わないけれど)
と、誰か見ているわけでもないのに意地張りをしつつ、僕は帰宅した。
「ただいま」
そう声をかけても返事はない。それも当然か。父は、この時間は仕事で家を空けているのだから。
僕は部屋の明かりをつけ、荷物を適当な床の上に置き、ソファに座り込んだ。
ひと息つきつつ天井を見上げ、僕は円樹円とのやり取りを振り返る。
彼女の声が、笑顔が、仕草が――すべてが、今日僕が得たかけがえのない宝物だ。
「……楽しかったなぁ……」
人前じゃこんなこと、絶対に言えない。
そう思っていると、突然スマホが鳴った。完全に油断していた僕は飛び上がるが、すぐにただのスマホの通知音だと落ち着きを取り戻し、内容を確認する。
中を見てみると、早速円樹円からメッセージが届いていた。
『ただいまー! 帰ってきたので早速メッセージ送らせてもらいました♪ そっちはもう家に着いた?』
脳内で勝手に、メッセージが円樹円の声で再生され、顔がニヤついてしまう。僕は口元に手を当て、返事を打ち込んだ。
『おかえりなさい。僕もついさっき帰宅しました』
『そうなんだ! アタシたち、タイミング合うね!』
円樹円は、今どんな表情で、どんな気持ちでこのメッセージを送ってきてくれているんだろう。
円樹円は、僕のことを好きと言ってくれた。今も彼女は僕と同じくらいの気持ちで僕と向き合ってくれているのだろうか。
――だったら、僕はこのまま円樹円と……。
「……なんて。ダメだろ、
諦めるんだ、円樹円のことを。
僕は一生、円樹円の気持ちに気づかないフリをし続けるんだ。
「違う。真実を伝えるんだ。そうしたら円樹円はきっと……」
僕から離れるのだろうか。
僕を嫌悪するのだろうか。
そうして彼女は実の弟に恋してしまった事実に直面し――そんな自分自身を責めてしまうのではないだろうか。
「……円樹円の気持ちを知ってしまっては、もう話すに話せない」
円樹円が僕のことを知らないというのなら、母親は――僕の母さんは、円樹円に弟がいることを話す気は今後も一切ないのだろう。
父も円樹円と僕が同じ学校にいることは、僕から話していないし、知らないはず。仕事で忙しい父は学校に訪れることもないだろうし……そうだ、これは結局、僕が守秘し続ければいい話だ。
できればこのまま、今のような関係のまま、円樹円が卒業式を迎える日まで。
そんなことを考えていると、またスマホの通知音が鳴った。
『突然なんだけど、まもるくんは肉じゃがって好き?』
本当に突然だな、と僕は思いつつも、『はい、好きです』と正直に返事を送った。
『そっか! 実は材料買いすぎちゃってさー。じゃがいもが特売だったからつい ( ˊᵕˋ ;) そしたら、明日のお昼ご飯、アタシ肉じゃが作っていくね!』
『それって、明日の昼休みはいっしょにってことですか?』
僕が返事を送ると『既読』がすぐについたが、やり取りはそこで止まってしまった。
しばらく画面とにらめっこしていると、円樹円からの返事が。
『ダメ……かな? このあいだは、ちゃんと食べられなかったし。リベンジ、みたいな?』
円樹円が不安そうに尋ねているのが文面から想像できて、思わず笑みが零れてしまう。
――ここは断るのも角が立つ、かな。
『いいですよ。どうせいつも一人ですし』
『よかった! じゃあまたあの中庭で! じゃあアタシ、このあと夕飯作らなきゃだから、またね!』
僕が了承してからの返答は本当に一瞬で返ってきた。きっと円樹円は、今ごろウキウキで料理に取り掛かっていたりしてな。
……。
……いや、そうじゃないだろ。
「……なんで『いいですよ』って返事しちゃったんだ、僕」
今日は円樹円と長く話しすぎたせいだ。
本来ならこの誘いを断るべきなのに、僕の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます