お弁当に想いを乗せて(2)

 次の日の朝。


 教室にて、アタシは優子ゆうこまもるくんはの渾身のお弁当を見せつけた。


「じゃじゃーん! どうよ!」


 お弁当は生姜焼きをメインに、ポテトサラダとプチトマトのおかず。ご飯のスペースにはノリや卵などを使い、猫の顔模様のデコレーションをした、今までで一番気合いの入った仕上がりだ。


「もしや、あの転校生に?」

「そう! 昨日話してたでしょ、いっしょに過ごすならお昼休みがいいって。だからね、守くんのお弁当を作ってみたの!」

「んー……このテゴ弁部分はないかなー……」

「嘘! ここが一番頑張ったのに……!」

「じょーだん、じょーだん。全部素敵だよ」

「優子ったらまたからかって……。なんてね、ありがとね」


 そんなやり取りをしていると、ふと耳に入ってきた周囲の声。


「円樹さんがお弁当二つも持ってきてる……?」

「ね、アレまさか彼氏の分とかじゃない?」

「相手、気になるー」


 つくづく思う。アタシって、よくも悪くも注目を集めやすいって。


 アタシは一度振り返ってクラスのみんなに微笑みかけてから、そっとお弁当の蓋を閉じた。

 一瞬ザワついた感覚が広がって、それからアタシへのヒソヒソ話は一旦止んだ。


「……円が本当に彼氏とかできたら、暴動が起きるんじゃない?」


 優子の言葉に、「まさか、さすがにそれはないわよ」と笑った。


「……ま、そういうわけだから、今日は優子といっしょにご飯食べられなくて……ごめんね」

「あーあ寂しい〜! ……なんてね。わたし、陰ながら応援してるから」

「ありがとう、優子」


 そのとき教室の扉が開き、担任がやってきた。気づけば、もう朝礼の時間だ。


 担任は教室に入ってくるなり、アタシの机の上に目を付けた。


(やばっ、アタシお弁当出しっぱなし……!)


 アタシは担任の視線に気づき焦っていると、担任は予想外の言葉を投げてきた。


「……ん? 葛城かつらぎぃ、朝イチから早弁か?」

「ちょっとー! なんでわたしなんですか!」


 優子は立ち上がって先生にツッコミを入れた。


「早弁しそうなのは葛城だからな」

「イメージで決めつけやめてくださいー!」

「悪い悪い。円樹つぶらき、関係ないときに弁当は出さないように」

「ご……ごめんなさい」


 アタシは頭を下げてから、弁当をしまった。


 アタシは後ろの席から、優子へ「……ごめん、巻き込んで」と謝った。


 優子は振り向きざまに、


「気にしてないわよ。まったく、あのハゲオヤジには困ったものね」


 と、笑ってくれた。


「葛城、また何か言ったかー?」と担任は優子を見るが、「気のせいだと思いまーす」と、相変わらず優子はのらりくらりと躱していた。

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