お弁当に想いを乗せて(1)
そうとわかれば、わたしにやるべきことはただひとつ――それは、守くんのお弁当作りだ。
「よし! 頑張るぞ!」
アタシは放課後スーパーへ寄り食材を買ってから、早速自宅のキッチンに立ち意気込んでいた。
……が、ふと胸の中に渦巻く不安が過ぎる。
(うーん……でも、やっぱりお弁当なんて重いかな……?)
挨拶を交わした程度の親しくない人からの手作り弁当って、普通に引かれるんじゃ……。それに、守くんはアタシのこと、あまり好意的に見てくれいるようじゃないし……。
アタシはそんな考えを払拭するため、大きく頭を振り、自分の頬を叩いた。
(……いや、自信を持て
そう意気込み直し、料理を開始する。
料理は昔から得意だった。
アタシの家はいわゆるシングルマザーの家庭で、仕事で忙しい母の代わりに炊事や家事をやらなくちゃいけなかったから、自然と身についていたのだ。
でも、それは全然苦じゃない。お母さんはアタシのために頑張ってくれてるんだもん。アタシはせめて、家のことを頑張らなくっちゃ。
だけれど、たまに家でひとり過ごしているうちにふと思う。
もし、お父さんがいたら。
もし、
アタシは、寂しく感じたりしなかったのかなって。
……お母さんはお父さんの話を一切しないから、お父さんがどんな人だったかなんて、全然わからないし、物心ついたときからお母さんと二人暮らしが当たり前だったから、今更お父さんとの暮らしなんて想像もつかないけれど。
「守くんに、気に入ってもらえるといいな」
今はひとりだけれど、守くんのことを考えている間は、不思議と寂しさを感じない。
守くんのお弁当に用意するのは生姜焼きだ。なんとなく、男の人ってこういうの好きなのかな? ってイメージで作っているんだけれど、おいしいって言ってもらえるといいな。
アタシはそれと同時進行で、今日の夜ご飯も作っていく。
「――あら、今日はなんだか量がたくさんね」
そうして慌ただしく夕飯の準備とお弁当作りを進めていると、お母さんが仕事から帰ってきた。
お母さんはカウンター越しに料理風景を覗き込みながら、「今日の夕飯は生姜焼き?」と聞いてきた。
「ううん。これはお弁当用」
「生姜焼きがお弁当なんて、円にしては珍しいわね」
「えへへ……だってこれ、アタシのじゃないもん」
お母さんは首を傾げ、「じゃあ……
「誰だと思う?」
そう聞き返すと、お母さんはしばらく悩んでから、「……もしかして」と笑顔を向けた。
「彼氏へのお弁当? やだ円ったら、いつ作ってたのよ!」
「お母さん、早とちりだよ〜。相手は彼氏じゃない……けれど、彼氏になったらいいなって人」
「ってことは、円ってば片想い中ってことね」
「そういうこと。……気に入ってもらえたらいいけど」
アタシがそう言うと、お母さんは優しい口調で「大丈夫よ」と言ってくれた。
「一生懸命に作ったお弁当ですもの。きっと想いは伝わるわ」
「……ありがとう」
お母さんはいつも優しい。
アタシが不安なとき、そうやっていつも背中を押してくれる。
「ちなみに、相手は誰なの?」
「え〜、そこまで聞いちゃう?」
「あら、さすがに踏み込みすぎかしら」
「ううん、いいよ。お母さんになら教えてあげる」
アタシは少し緊張気味に、恋した相手を口にする。
「アタシが恋してるのは、最近転校してきた男の子――守くんっていうの」
アタシがそう伝えた瞬間、お母さんから笑みが消えた。
目を丸くして、じっとアタシを見つめている。
「……お母さん?」
アタシが話しかけると、お母さんは慌てた様子で取り繕ったような笑顔を見せ、
「ご、ごめんなさい。会社に忘れ物しちゃったかもって、一瞬ボーッとしちゃってたわ」
と言った。
「……円のお弁当、気に入ってもらえるといいわね」
お母さんは続けて、「じゃあ、先にお風呂いただくわね」と言い残し、逃げるようにリビングから出ていってしまった。
そんなお母さんの反応にアタシは若干戸惑いつつも、きっと本当にボーッとしていたんだろうと思い直し、アタシは料理を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます