二人で過ごす、いい時間って?

まどかってさ、いっつも卵焼きから食べて、最後はウインナーで締めるよね」

「好きな物は、最後まで取っておくタイプだから」


 そんな会話から始まったお昼休み。教室で机を向かい合わせにして、優子ゆうこといつもと代わり映えのない時間を過ごしていた。


「ところでさぁ、わたし、ひとつ思うんだけど」


優子は次に、こんなことを切り出した。


「なんかさ、あの転校生と円って似てない?」

「……似てる?」


 アタシが聞き返すと、優子は紙パックジュースのストローを咥えたまま静かに頷いた。


「そうかなぁ? アタシと守くんって、どっちかっていうと正反対だと思うんだけれど。……あ。でも、なんだか親近感は感じるなー。アタシ、そこのギャップにも惹かれてるのかも」

「あー、はいはい。恋する乙女は楽しそうでいいですねー」

「もーう! アタシ、本気なんだからね!」


 優子は笑って、また真面目な顔つきになる。


「――わたしの気のせいかもしれないんだけどさー。どうも二人って似てるなーって感じがするのよね。どこがって聞かれたら、説明できないんだけど……とにかく似た雰囲気を感じるのよね、二人から」

「ふぅん……」


『似た雰囲気』、か……。アタシは特にそのあたりは何も思わないけれど。


「……ま、どうでもいいわね、こんな話。それよりも、円がどうやって転校生とお近づきになれるか考えないと。現時点じゃ円と転校生の距離は絶望的だもんね」

「そ……そんな絶望的だなんて……」


 まあ確かに、守くんがアタシに振り向いてくれる気配は全然ないんだけれど……。


「……でもね、優子。今日は少しだけ収穫があったのよ」

「収穫ぅ?」


 アタシは自信満々にこう答えてやる。


「今日守くんの手を握ったとき、守くん、少し耳が赤くなってたの! これって、ちょっとは守くん、アタシのこと――」

「え? 待って、収穫ってそれだけじゃないよね?」

「……え」


 優子の反応に、アタシは身を固めてしまう。

 優子は頭を抱え、アタシを睨んでからビシッと人差し指を突き刺してきた。


「いーい? その程度じゃ脈アリとは呼べないわ! 男ならねぇ、円みたいな美人に触られりゃ、『恋』と関係なく顔は赤くなるわよ!」

「で……でも! 今まで無反応だった守くんが初めて見せてくれた……!」

「今までっていったって、その間転校生に触れたことあるの?」

「……うーん……」


『触れたか』って聞かれたら……別に守くんに触れたりはしてない、かも。

 近い距離で話しかけることは度々あったけれど……。


「甘い! 円は甘すぎる! 『恋』っていうのは、そう簡単に一筋縄にゃいかないのよ!」


 大きく首を横に振って否定にかかる優子に、「じゃあ、アタシはどうしたらいいの?」と質問した。


 すると、今度は優子が身を硬直させて、途端に目が泳ぎ出す。


 ……もしや優子、文句を言うだけ言って、何も対策を考えていないな……。


 優子はコホンと咳払いをしてから、チラリとアタシを見てこう言う。


「お……押し倒せば、さすがの転校生もコロッといくでしょ」

「ダメ! そんなの不純すぎるもん!」


 優子は「冗談じゃん、かわいいな〜」と笑った。むむ、こっちは真剣に悩んでいるのに……!


 そんなアタシの反応を見てか、優子は「ごめんごめん」と言って、次にこう話す。


「まあ、何かしらいっしょに時間を過ごさないと、距離なんていつまで経っても縮まらないしねー。学年が違う中で、いっしょに過ごせる時間といったら……」


 アタシは頭の中でいいタイミングがないか探す――それはすぐに思い至った。



「「まさに昼休みこの時間じゃん!!」」



 どうやら優子も同じことを思ったらしい。アタシたちは、揃えて声を上げていた。

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