罪なる初恋(2)

 円樹円つぶらき まどかは、僕の実姉だ。


 僕の恋したあの写真の女の子――彼女は、かつては御大地円みおおじ まどかだったのだ。


 僕らは一年の間だけ、姉弟として同じ屋根の下過ごしていたらしい。だが、その間にも父と母の関係は悪化していくばかりで、ついに離婚をしてしまったそうだ。


 こうして、父は僕を引き取り、母は姉を引き取った。


 その際、姉の姓は母の旧姓である『円樹』となったのだ。


 その事実を知ったとき、僕は父を疑った。しかし父曰く、これは決して冗談ではなく、証拠を出せと言われたら、正式な書類を見せてくれるらしい。そこまで言うのなら嘘ではないだろうし、僕はわざわざ証拠を見せてくれだと言う気にはならなかった。



 ――あの写真の女の子は、実は僕の姉だった。


 それなのに僕は彼女に惚れてしまい、挙句に欲情してしまったのだ。

 その上、事実を知ったあとでも、僕の想いは変わらない。


(……穢れている)


 僕は自分を酷く責め、後悔した。だけれど、いくら懺悔を重ねても、僕の彼女に対する想いは消え去ることはなくて。


 むしろ、どうしようもなく想いは膨らんでいくばかりで。


 ――そんな折に、出会ってしまった。


 会いたかった。

 ……けれど、会いたくなかった人に。


「アタシ、円樹円。三年生。もしかして君、噂の転校生くんかな? もし何かあれば、この学校のことなんでも聞いてね」


 職員室前で偶然にも顔を合わせてしまったとき、姉は優しい笑顔で親切にもそう話しかけてくれた。


 写真の中にいた少女はすっかり大人へと姿へと成長していたが、それでも彼女は彼女だとすぐわかった。あのブロンドヘアーは今も健在で、初めて聞いた声は小鳥がさえずるかのように心地よくて――写真の中の彼女よりも、実物のほうがずっと、ずっと美しかった。


 ……ああ。でも、悲しいかな。


 改めて対面して思う――僕らの瞳は、すごく似ている。


 どうしようもない血の繋がりを、感じずにはいられない。


「……えと」


 だけれど、彼女――円樹円の反応を見るに、僕のことはまったく知らないみたいだ。

 恐らく、母親から何も聞かされていないんだろう。


 ……そうか、僕は姉弟とさえ見られてない、彼女にとって赤の他人の存在なのか。


「……ありがとうございます。だけれど、何かあったら先生に尋ねるので大丈夫です」


 僕はそれだけ言い残して、その場を離れた。


 少しでも長くいたら、僕はどうにかなってしまいそうだったから。

 彼女のことを、諦めきれなくなりそうだから。


 それに、もし彼女と交流が深まって、仮に彼女が僕に『恋』してくれたとしたら、彼女には、無駄な葛藤を抱かせてしまうことになる。


 ――なんて、彼女が僕のことを好きになってくれるわけはないか。


 あんなきれいな人、きっともう恋人がいるに決まっている。

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