アタシの恋の絶対表明

 アタシは現在、優子ゆうこの部屋に遊びに来ていた。


「――ってことがあってぇ。アタシ、まもるくんに嫌われちゃってるのぉ〜……」


 そして、絶賛優子に慰めてもらっている最中である。


「お〜よしよしまどかぁ、悲しかったねぇ。ほら、このおいしいクッキーを食べて、元気出してだして〜」

「ん〜」


 アタシは優子に膝枕されつつ、クッキーを食べさせてもらった。


 ……うん、なんか思いっきり吐いて甘えたら、少しは元気出てきたかも。


「……それにしても、珍しく円から放課後ウチに来たいって言い出すから、何かと思えば、あの転校生のことだったか」


 優子は小さくため息をつきつつ、優しい眼差しを向けてくれた。


「そんなこともあるって。円はモテるんだからさ、あの転校生がダメでも、次にまたいい人見つけて、すぐ付き合えるって」

「アタシは別に、ただ恋人がほしいとかじゃなくって……」


 ――そう、恋人がほしいわけじゃない。


「……アタシは、守くんが……」


 ……守くんが。

 …………。


「……転校生のこと、好きなんだね」


 アタシは優子から目を逸らしながら、「……うん」と頷いた。


「ってか、なんで転校生? 円に対して、なんでだか知らないけど、すっごい素っ気ないじゃない。円ったら、そういう自分を大事にしてくれない男が好きなの?」

「いやっ! アタシは別にそういうんじゃなくて〜!」


 アタシは身体を起こしながら、すぐに否定した。


「……守くんが初めてだったの。みんなアタシのことを羨望の眼差しで見てくるけれど、守くんだけは違った。守くんだけは、アタシのことをただのひとりの人として見てくれている感じがするの」

「ひとりの人?」

「……うん。みんなアタシを『学園一の美少女』としてフィルターをかけて見ているけれど、守くんだけは違うような気がして……」

「それを自分で言いますか」

「事実でしょ」


 アタシが最後にそう言い返すと、優子は笑って肩を竦めた。


「……何より、守くんの瞳を見たとき、すごく特別なものを感じたの。一瞬で吸い込まれて、包み込まれたような気持ちになったの。アタシ……守くんを見ると、なんだかわからない安心感みたいなものを覚えて……」

「……円って、意外とロマンチスト?」


 そう言って、引いた目を向ける優子。


「もう! アタシは真面目に話してるの!」

「ごめんごめん。……で、結局何?」


 アタシは改めて姿勢を正して、優子と向かい合う。



「――アタシ、守くんが好き」



 優子は一瞬だけ少し驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑みを返してくれた。


「アタシ、絶対今恋してる!」


 これは、アタシの恋の絶対表明。


「……堂々と宣言されちゃあ、わたしは否定も何もできませんよ」


 優子はやれやれと首を振りつつ、オレンジジュースをひと口飲んでから、アタシを見つめた。


「……でも、大丈夫? どうやら相手の円に対する好感度はゼロ……いや、マイナスの可能性が高いわよ? この『恋』……かなり難儀になるけど」


 優子の心配の声に、アタシは正々堂々言ってやった。


「うん! アタシ、それでもいつか守くんを振り向かせてみせる!」


 大丈夫……だってまだ、新学期は始まったばかりなんだから!

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