どうして? どうして? どうして?

「こんにちは〜。御大地守みおおじ まもるくん、いますか?」


 次の日の昼休み、アタシは守くんのいるクラスへと訪れた。


 アタシが教室へやってくると、一斉に教室内はどよめき出す。おかげで、一瞬で守くんがどこにいるのかがわかった。


 窓際の一番後ろの席に守くんはいた。守くんはアタシが教室へ来たというのに、こちらに見向きもせず、静かに本を読んでいた。


 ひとりの女子生徒がていねいに、「み、御大地くんならそこに……!」と教えてくれた。ふふ、もう場所はわかっていたけれど、ありがとうね。


 アタシは笑顔で彼女に会釈し、「失礼します」と言って教室内へ入っていく。


 アタシは守くんの前まで来て、机の前にしゃがみこんで、下から守くんの顔を覗き込む。


 守くんは、アタシがこんなに距離を詰めているというのに、目を合わせようともしない。だけれど、やっぱりその冷たい眼差しに、無関心な瞳を見ると、アタシの心はなぜか高鳴った。


 どうしようもなく、アタシは彼から何か特別なものを感じてしまうのだ。


『何か』というのは、今はまったくわからないけれど……。


 周りが「えっ、円樹つぶらき先輩がどうして御大地くんに?」、「先輩と御大地くん、仲良いの?」などと騒ぎ立てているけれど、アタシはそんな声を無視して、守くんに話しかける。


「……守くん、アタシのこと覚えてる?」


 アタシがそう話しかけると、守くんは大きく目を見開いてこちらを見てきた。


 目と目が合った瞬間、アタシの鼓動は徐々に早まり、強く脈打つ。


 ――ようやく、ちゃんとアタシを見てくれた。


 それが何よりもうれしくて……愛おしくて。


「覚えてるって……」


 守くんはそう言った。どこかその声は震えていて、緊張しているようだった。


「ほら、二週間前かな? 職員室の前で声掛けたでしょ? 君ったら、あれからずっとアタシのこと無視したり……あと、なんていうか素っ気ないからさぁ、もしかして、アタシのこと忘れちゃってて、怖がってたんじゃないかなぁって」


 そうアタシは話すと、なぜか守くんは急にまたいつもの冷たい瞳へと色を変えて、目を逸らしてしまった。


 ――え? どうして? アタシ……今変なこと言った?


 どうして、せっかくアタシに向けてくれていた興味を失ってしまったの?


 守くんの行動理由がわからず、アタシの胸の中で不安が燻り出すが……アタシは懸命に笑顔を取り繕いながら、話を続ける。


「……だからさ、改めて自己紹介しておきたくって。アタシ、三年A組の円樹円つぶらき まどか。何かあったら、遠慮なく声かけてね。先輩として、君のこと助けたいと思ってるからさ」


 アタシがそう言うと、守くんは本を閉じて、視線を机の上に落としたままで口を開く。


「……だったら、僕に話しかけるのはやめてください」

「……え?」


 守くんはなおもアタシと目を合わせようともせず、こう言い放つ。



「先輩として僕のことを助けたいと思っているのなら、僕に構わないでください。それだけで、十分ですから」


 ……何、それ。

 守くんの言葉が胸に食いこんで――痛い。


「ああ……そっか、ごめんね。しつこかったよね」


 ――辛い。小さな無数の針が、アタシの心臓をチクチク刺してるみたい。


「じゃあ……アタシ、帰るね」


 ――わからない。アタシ、守くんに酷いこと……した?


「それじゃあ、お邪魔しました〜」


 ――アタシに何が足りないの? 守くんだけは、どうしてアタシに対してあんなに冷たいの?


 アタシは教室をあとにして、自分のクラスへと足早に向かう。


 その間も、表情だけは微笑みを浮かべるのに必死で努めていた。今のアタシの内心こころを、誰にも悟られるわけにはいかないから。


 ――悲しい。もうあんな態度を取る人、アタシは今後無視すればいいだけなのに。


「……っ」


 ――アタシ、それでも守くんのことが、頭から離れない。

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