第51話 魔物の司令官、コマンダー③

俺達はさらに洞窟を進んでいく。

相変わらず魔物達は大量にお出迎えしてくる。しかし、内容は徐々に変化していっていた。


「おいおい、タンク2匹とリジード!?」

「師匠、やれる、まだ撤退はしないよ!」


エフテルが炸裂機構を作動させ、素早くタンクの後ろに回り込んで核を砕いた。

リジードはカーリとコウチが抑え、残ったタンクはアルカに照準を合わせている。タンクが射出するのは結晶片。エフテルの射出機に近い。そんな結晶片がアルカに向かって発射される。


「当たらない、よ」


しかしアルカは狙いが定まらぬよう、洞窟内の狭い空間を最大限に活用して、動き回る。

次々と発射される結晶片は1発もアルカに当たらない。


「お姉ちゃん、そろそろ避けるの辛いんだけど…!」

「え、あたしもうカートリッジないよ!」

「えっ」


しまった、エフテルに多めに持たせてはいたが、ここで底をついていたか!

動揺したアルカの足が一瞬止まった。そこにすかさずタンクから射出された結晶片が打ち出される。


「く…ぅ!」


避けられず、ヒット。アルカは後方に吹き飛ぶ。


「アルカ!」

「エフテル、ヘイトを取れ!」


アルカが心配なのはわかるが、ここで駆け寄ってはエフテルとアルカは共倒れだ。


「くっそぉ、このブヨブヨが!!」


エフテルの針は魔物には効果が薄い。しかし、注意を引くことはできたようだ。狙いはアルカからエフテルに移り、今度はエフテルが射撃を避け続ける。


「っし、こっちは終わり!今いく!」


コウチとカーリがリジードを叩き潰したようだ。残るはタンク1匹。コウチとカーリが駆けつけ、難なく撃破することができた。


「アルカ、大丈夫!?」


腹を抑えて蹲るアルカに駆け寄るエフテル。

コウチとカーリはあたりを警戒している。


「大丈夫か?」


俺もアルカの様子を伺うため、アルカに駆け寄った。


「だ、大丈夫…やっと息できるようになった…」


ごろんと仰向けになるアルカ。腹部に強い衝撃を受けたため、呼吸ができなくなっていたのだろう。

仰向けになった際に、タンクが射出した結晶片が地面に転がった。かなり先が尖っている。

腹に刺さらなくて良かった…。


「防具、変えててよかったね…。ちょっと装備マニアになる理由が分かったよ」


苦しそうに体を起こしたアルカだが、まだダメージがが抜け切れていない。


「ごめんアルカ、お姉ちゃんのせいで…!」

「平気…になってきたから。でも、技使えるかどうかは共有しててほしかった」

「そだよね、ごめん…」

「いや、俺がカウントしきれていなかったのも悪い、すまなかった」


確かに仲間内でカートリッジの数を共有することは大事。戦闘中にもなれば自分のことで精一杯になって、味方が何本カートリッジを持っているかなどわからなくなる。


「いったん整理しよう。全員カートリッジの残り本数を言ってくれ」

「2本」


と、コウチ。


「ぜ、0…」


とエフテル。


「3本…全然私が使う機会ないから、お姉ちゃんに2本渡すね」


これでコウチが2本、エフテルが2本、アルカが1本だ。


「だいぶ厳しくありません?最初は15本くらいありましたわよね」


そうなのだ。今残っている本数が合計5本だというのならば、既に10本は使っていることになる。

洞窟を進むにつれて危険度の低いセルやラーンドが減り、タンクやリジードといった危険度が高い魔物ばかり出現するようになったことで、消耗が大きくなっている。


「撤退するか…?」


ここが引き時かもしれない。そう思い、口から出た言葉だったが、


「いや、もう少し進みたい。こんなに進んだんだ、もうそろそろゴールだろ」


とコウチが言った。人一倍昇級に拘っていたコウチだ、諦めたくないのも分かるが…周りを見ると、負傷したアルカも含めて、全員闘志は折れていない。


「ほら、いけるって」


アルカがパッと立ち上がり、その場で何回かジャンプして見せる。


「分かった。でも、もし次に誰かが負傷したり、カートリッジを使い切った場合には迷わず撤退だ。あともう一つ、コマンダー以外の危険度4の魔物に遭遇した時点で撤退だ。いいな?」


コマンダーは危険度3までの魔物しか呼び寄せない。コマンダーのもとで進化し、危険度4になった魔物はその場を離れていくのだ。

コマンダーの上位種であるゼネラルであれば危険度4の魔物を統べるが、コマンダーにそこまでの力はない…。

故に、ここから去る途中の危険度4の魔物と遭遇する可能性があるのだ。

…?

自分で考えていて、何か違和感があった。

なんだ、何か矛盾が…。


「師匠、行くよ」


アルカに手を引かれ、現実に戻される。

そうだな、ここは先程の広場と違って安全地帯でもない。こんなところで考え込むのは危険だ。


「悪い、今いく」


俺達はまだ、洞窟を進み続ける。

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