第50話 魔物の司令官、コマンダー②

ある程度細い道を進んで行くと、やがて広い場所に出た。周りは岩に囲まれているが、空が見えている。大きな空洞の天井部分だけが崩れたりしたのだろうか。

さて、ここに至るまでに確かに物量作戦とでもいうほどの魔物を倒した。細い道で大量に押し寄せる魔物達は確かに脅威だったが、アルカの瞬間的な雑魚狩り、コウチの中ボス狩り、カーリの大ボス狩り、エフテルの援護のお陰でなんとか怪我人も出さずに進むことができていた。2度ほど炸裂機構を使う羽目にはなったが、どちらも危険度3の魔物と戦うカーリを援護するためにエフテルが放ったものなので許容範囲だ。

俺たちの前にこの依頼を受注した4級2人は、きっとあの通路での猛攻に耐え切れなかったのだろう。確かにあの狭い道でタンクが出てきたときは肝が冷えた。

だが、この森中の魔物がここに集まっていると考えれば、そこまで不思議なことではないだろう。何故ならこの数か月、森では全く魔物を見かけていなかったのだ。なんならこの期間放置されていて、危険度3までの魔物しかいないことは奇跡だと思う。

ただまあ、一つ懸念というか、気になることがあるとすれば、コマンダーにそこまでの誘導能力があったか、ということだ。

確かにコマンダーは多くの魔物を呼び寄せ、進化を促す。だがあくまでそれは周辺数百、の話であって、森全体の魔物を引き寄せるなど聞いたことがない。

何か、イレギュラーが起きている。


「まさか…」


そういえば、あの正体不明の獣と戦った際にも周辺には魔物がいなかった。目の前でセルを喰らう姿を見たので、あの獣が魔物を喰らう習性があると考えていた。


「いやいや、それはない」


今回はコマンダーが目撃され、依頼として掲示されていた。決して正体不明の獣に食い尽くされたから魔物がいないのではない。コマンダーに呼び寄せられて、それがたまたまこの見つかりにくい洞窟だったから、森の魔物がいなくなっていただけだ。


「いかん、弱気になってどーする」


俺は自分の頬を軽く叩き、頭を切り替えた。


「さっきから一人で喋ってんの怖すぎなんだけど…」

「しっ!お師匠様は何か大事なことを考えておりますの。我々には想像もつかないような高尚な何かを…」

「いやでも急に棒立ちになって独り言言い出すのはやべえって…」

「私もたまにやる。師匠はスミスのことを考えてる」


弟子たちの小声での心配の声…もとい馬鹿にされている声が聞こえてきた。あと、そろそろアルカの誤解は解かねばならないかもしれない。別に俺はあの小説の大ファンでもなんでもない。


「全員聞こえてるぞ。ちょっと考えていただけだ。気にするな」

「もし今回の狩りに関する懸念なら聞いておきたいが?」


コウチのいうことも一理ある。俺の杞憂と切り捨てずに、一応聞いてもらうか。


「じゃあ話す。今まで森で魔物を全く見なかったのはこのコマンダーが原因だと、そう思ってたよな?」

「思ってた」


いつの間にか隣にいたアルカが頷く。


「でも、ふと思ったんだよ。コマンダーにそこまでの能力があるのかって。カーリは養成所でコマンダーのこと習ったか?」

「ええ、レイダーの上位種で、ゼネラルの下位種。魔物を集める習性があるってくらいですけども」

「そうか…。俺の今までの経験上、コマンダーの魔物を集める能力は精々1キロメートル行くか行かないかだ。明らかにこの森全体をカバーできるほどの能力ではない…ってことが気になっていてな」

「つまり魔物がいなかったのは、このコマンダーのせいではないと?」

「コウチの言う通りかもしれない。ただ、まあ、そうなってくると今気にしても仕方がないことだからな。いったん忘れてもいい。今日の依頼はコマンダーの討伐だからな」

「なるほどね、それで急に棒立ちになってブツブツと。やめてよねー、怖いからさ。まあ、理由は分かったけど」


ここはちょうど魔物はいないようだし、少し休憩するとしよう。


「もう少しここで休んだら、また進もう。これからも魔物との連戦が予想されるから、しっかり休憩しよう」


各々、地べたに座ったり、軽いストレッチをしたり、リラックスをしている。あとどれくらい進めばコマンダーがいるのだろうか。このままずっと通路で魔物と戦い続けることになるのであれば、それこそ撤退も視野に入れなければならない。

別に昇格依頼を失敗したからといってペナルティもない。気楽に、安全重視で行こう。


「ところで師匠、その師匠が背負ってるバッグに入ってる大量の核って、どんくらいで売れるの?」


当然のように俺の隣に座っているアルカがいるので、その逆、俺を挟むようにしてエフテルが腰掛けてきた。


「そだな、危険度1~2の魔物の核は一つ当たり数万クレジットってところかな。危険度3のは十万から数十万するものもある…が、危険度が上がれば上がるほど無傷での核の回収は難しくなるのはわかるよな?無理だけはするなよ」

「分かってるよ。でもさでもさ、そしたらこの依頼って、コマンダー倒せなくても黒字だね!なんならこのままコマンダーくんにはここで魔物を集めていてもらうとか…」

「エフテル。危険度4の魔物は、この間戦った炎愛猿の比じゃないほど厄介だ。そんなものが村の近くで大量発生する可能性がある以上、専属狩人に見過ごす選択肢はない。金の前に、アオマキ村を守ることを考えろ」

「はーい。怒られちゃった」


エフテルはパッと立ち上がり、俺の肩を叩く。


「そろそろ行こ、師匠」

「そうだな。よし、休憩は終わりにして進むぞ!」


各自集合して、また細い道に入っていくことになる。

ただ、ここが安全地帯になっていることが分かったのは大きい。


「危険だと判断したら、とりあえずこの広場まで戻ってくることにしよう。各自、ここからも安全重視でな」

「はーい」


エフテルが元気に返事をして、歩いて行く。


「ん?」


俺は何か視線のようなものを感じた気がして、あたりを見回す。


「ほら、もう心配事は良いから、行くよ!」


戻ってきたエフテルに手を引かれる。

何かに見られていたような気がしたが…気のせいか。

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