第49話 魔物の司令官、コマンダー①

いよいよ今日は昇格依頼を受ける日だ。

新しい装備もしっかり身体に馴染み、エフテルのリハビリも完璧だ。


「さて…」


俺達は依頼掲示板を確認する。


「あれ、ないな」


受けようと思っていたコマンダーの依頼がなかった。

1週間前くらいに見たときはあったんだけどな。


「もうすっかりコマンダー狩る気だったのにな」


コウチの言うとおりだ。完全にその頭でいたから、他の依頼を受ける気にどうにもなれない。


「ただ、こういうこともある。依頼は早い者勝ちだからな」

「悔しい~!」

「他の依頼を受けます?」


カーリの言うとおり、切り替えるしかないな。

とりあえず、今掲示板に貼ってある危険度4の依頼は、尾塊狼…ちょっとまだこいつらには早い魔物だな…。


「よし、一旦日を改めよう。こういうときに流れで狩りに行くとろくな目に合わない」


ということで、その日は解散となった。

そして次の日。


「あるじゃん」


アルカが掲示板からコマンダー討伐依頼を持ってきた。


「おお?2匹目が出たのか…?」

「いいえ、前に受注された方が失敗しまして、貼り直しです」


俺の疑問には受付嬢が答えてくれた。


「失敗。何級の狩人だ?」

「4級2名でしたが、思いのほか魔物が多く、本体まで近寄れなかったそうです」


4級2人で失敗か…。

うちは4人いるからいけると判断するのは甘いだろうか。


「お師匠様、受けましょう。危なそうでしたらその方々のように撤退すればよろしいのですわ」

「ああ、弱気になっちゃいけねえ。俺たちならいけるさ」


カーリとコウチはこう言っている。


「エフテルとアルカはどう思う?」

「うーん、いいんじゃない?どうせ戦う気だったんだし」

「私はなんでもいいよ。格上の何かを狩らないといけないのは変わらないし」


全員が賛成するなら、明らかに無謀ではない以上、俺に断る権利はないな。


「よし、受けよう。それで、危なそうだなと思ったらカーリの言うとおり撤退だ」


当初の予定どおり、コマンダー討伐を受注した“四極”は各々の準備をする。ポーチに必要な道具や食料、回復用の肉虫を詰めたり、装備の最終確認をしたり。

今回は罠も持っていかなければ、大きな素材を回収する予定もない。

魔物は核を抜くと液状化してしまうし、罠も効かない。魔物狩りのときは核を持って帰れるようなものさえあれば、身軽でいい。ちなみに荷物持ちは今日もあれだ。

狩場はいつものアオマキ村の近くの森。しかも比較的浅いところだ。

なんと驚くことに、エフテルが魔物の群れを見たところからたいして離れていないところにコマンダーの住む洞窟があったらしい。灯台下暗しとはこのことか。


「よっし、準備完了だよ!」


新しい防具に身を包んだエフテルは飛んだり跳ねたり、準備運動だろうか。

アルカは胸元を気にしている。やはり押さえつけられているのが気になるのか。


「こちらも準備よろしいですわよ!」


ブイィンと一瞬だけ回転させ、気合は十分のようだ。


「これを達成すれば4級…!」

「コウチ、ずいぶん気合いはいっているな」

「まあな。5級の俺がこの武器を持っているのが本当に嫌で。でもこれで、やっと武器相応の狩人になれるんだ」


別に落ちていたりたまたま他の獣に倒されていた高危険度の獣の素材から武器を作ったりすることもあるので、そこまで気にしなくてもよいのだが…。父親からもらったというところが引っかかっているのか?


「じゃあ、行こうか」


エフテルが先陣を切り、草原から森に入る。

コマンダーが見つかった場所まではすぐそこだ。


「恐らくこの洞窟の中だな…。各自灯りを」


魔物達は視界がなくとも戦えるが、俺たちは暗闇では戦えない。故に、腰に灯りを灯すのだ。

簡単な道具で、目の細かい籠のようなものに固形の魔燃料が入っている。それを燃やして光源にするということだ。


「引火にだけは気をつけろよ」


なんてったってこれから戦うのは魔物だ。

魔物の体組織は魔燃料といって、よく燃える。時間経過とともに固形化していき、完全に固まるとゆっくりと燃えるようになるが、液状の魔燃料に火が付けば爆発する。


「特にカーリ、お前の武器は要注意だからな」

「そうですわね…飛沫が灯りにかからないように注意しないと…」


腰の灯りを擦りながら、カーリは唾をのんだ。


「ねえねえ師匠、逆になんだけどさ、魔物が集まってるなら火を付ければ一網打尽じゃない?」

「そう簡単にいく相手ではないんだ。今回その作戦が使えない理由は2つある」

「ほお、2つ」


エフテルはふむふむと頷く。


「まず一つ、進化が進んだ魔物は、身体に結晶を纏う。それはカーリとコウチなら分かるよな」

「ああ、俺たちはタンクという危険度3の魔物を狩ったが、その魔物は前面に2m四方くらいの硬い結晶を身にまとっていたんだ」

「成長するとぷにぷにじゃなくなっちゃうんだ…」


アルカが少し残念そうにしている。そうだよな、小説の中のスライムはそんなに進化しようともプルプルだったもんな。


「で、その結晶は燃えない。つまり、雑魚は一掃できるが強い魔物は残るってわけだ」


俺がそう説明すると、


「じゃあ雑魚が減るならやってもいいじゃん」


と頭の良いエフテルは言った。しかし、大事な視点が抜けている。


「エフテル、ここは洞窟内だ。そんなところで大爆発が起こってみろ。どうなると思う?」

「ああ、なるほどなるほどぉ…。それは失礼しました…」


間違いなくこの洞窟は崩落するだろう。そのときに俺たちが生き埋めにならないかどうかは…。

少し進むと、ぴちゃんぴちゃんという水の音、いや、液体が弾む音が聞こえてきた。


「いいか、事前のミーティングどおり、基本はアルカとコウチで魔物は対処する。一番安全に倒せるからな。エフテルは炸裂機構を使わなければ核を抜けないので、今日はカーリの援護。カーリは強めの魔物が出てきたら担当だ。いいな!」

「はい!」


全員が返事をしたところで、ちょうど魔物たちが姿を現した。

セル、セルが2匹積み重なったダブル、2mほどの巨大なラーンド、あとは一番後ろに結晶付きのリジード、

唯一注意すべきは、リジードだ。大きなセルに巨大な角が生えた兜のような結晶を被る危険度3の魔物だ。

まず最初に仕掛けたのはアルカ。

セルやダブルの表皮を細剣で切り開き、そこに手を突っ込んで核を抜く。

核を抜かれた魔物は、形を保てずに、ぺしゃんと液状化して潰れていく。


「雑魚狩りは任せて」


一瞬にしてセルとダブルはいなくなった。

抜き取った核が俺に向かって投げられる。俺はキャッチして、バッグに詰めた。

残るは大きいセルと言えるラーンドと、危険度3のリジードだ。


「でかいのは俺の仕事だなッ!」


おおきく振りかぶってから横に振られた槌は、ラーンドの体組織を吹き飛ばす。再生しようと体組織が動き出すが、傷が塞がる前にアルカが手を突っ込んで核を抜き取った。


「あと一匹!」


いまいち活躍の機会がないエフテルが状況を全員に知らせる。


「行きますわよ!」


回転刃と、リジードの結晶体がぶつかり合う。

甲高い音と、火花が散り、少しずつ結晶に回転刃が食い込んでいく。

危険を感じたリジードが、鍔迫り合いの最中触手を伸ばす。


「エフテル!」

「分かってるよ!」


カーリは触手を避けるそぶりなく、グイグイと結晶体に回転刃をねじ込んでいく。

カーリに伸びる触手は、エフテルが針で千切っていた。

うーん、本当に炎愛猿戦のあと、良いペアになったよな。


「お嬢、加勢する!」


コウチの槌も結晶体の兜に振り下ろされる。

そろそろ限界だな。


「やぁあ!」


回転刃と結晶体の均衡は破れ、ついに結晶体を砕いた回転刃はそのまま核をも切り裂いた。


「うん、いくら危険度3とはいえ、リジードには負けないな」


そもそも炎愛猿は危険度3の最上位に位置するような獣だ。それに勝てるなら、それ以外の獣や魔物に遅れを取ることはない。


「ねえ!核砕いたら価値下がるじゃん!」

「じゃあ貴方はあの状態で無傷で採取ができたとでも言いますの!?」


この口喧嘩さえ無くなればなあ…。

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