第47話 エフテル、復活!

「お姉ちゃん」

「エフテル」

「完全復活おめでとー!」


いつも通り酒場に集まった俺と“四極”は、拍手をエフテルに向けていた。


「い、いやあ、なんかそんな風に祝われると、照れるなあ」

「ま、喜ばしいことではありますけども、貴方が動けなかった間にわたくしたちがその分働いていたことを忘れないでくださいましね」

「せっかくのめでたい空気が台無しだよ!誰かこのお嬢様をつまみ出して!」

「両手が使えるならご自分で試してみては?とはいえ、筋力ではわたくしに遠く及ばないでしょうけども」

「ぶっ殺してやる!」


エフテルが針を取り出したところで、俺は間に入った。


「はいはい、人に武器を向けない。カーリも、エフテルで遊ぶのは程々にしないとめんどくさくなるんだからな?」

「はい、すみませんでした…」

「ねえ、お嬢様に対する注意おかしくない!?あたしで遊ぶって何!?」


今日もいつも通り賑やかだ。

エフテルの腕は全治2ヶ月と診断されていたが、実際はもう少しかかった。本人が動き回るせいで治りが遅くなったとか。


「じゃあ、これで昇格依頼を受けられるんだな」


コウチはずっと待ち遠しかったようだからな。むしろ待たせてしまって申し訳なかった。だが、昇格依頼は万全の体制で望みたかったので、4人揃うまで待ってもらっていた。


「そうだな、本格的に昇格依頼への準備を進めよう。とりあえずこの後は、俺とエフテルとアルカは工房へ行くが付いてくるやつはいるか?」


カーリはビシッと手を挙げ、コウチは首を振った。


「今日、姉妹の新しい装備が完成する。それらを試すのと、明日からはエフテルのリハビリも兼ねて何回か狩りに行く。そしたら、昇格依頼を受けよう。とりあえずこれからのスケジュールはそんな感じ。質問は?」


今度はカーリが首を振り、コウチが手を挙げた。


「昇格依頼で受ける依頼は決まっているのか?」

「決まってはいないが、目星は付けていた」


昇格依頼で戦うことになるのは危険度4の獣や魔物だ。初戦は危険度4の中でも比較的弱い相手が好ましい。


「目星?」

「ああ、コマンダーで行こうと思う」

「!!」


一同驚いたような表情をした。


「見つかったんだね」


ある意味一番馴染みが深かったエフテルがニヤリと笑う。

コマンダーは、エフテルが球吐き鳥に追い回されたときに森の浅いところで見かけた危険度4の魔物だ。

それから森の調査が入ったものの、中々発見には至らず、今に至っていた。しかしこの間、ついに発見されたのだ。


「森の浅い部分に見逃していた洞窟があって、その中にセルやダブル、ラーンドといった危険度の低い魔物が集まっていた。あそこにコマンダーがいるに違いない」


この間相変わらず汚れた格好で、やけに疲れた様子のルミスがそう言っていた。つまり、近いうちに依頼として張り出される可能性が高い。


「因縁浅からぬ相手ってわけだね」

「まあ、俺たちが勝手に因縁つけているだけだけどな」


でも、昇格依頼にはちょうどいいだろう。コマンダーは沢山の魔物に囲まれてはいるものの、本体はそこまで強くない。この間の炎愛猿の依頼で大量の火好猿を相手取りながら2匹の炎愛猿を討伐できたこの4人ならいけるはずだ。


「とまあ、そんな感じだ、また複数戦で申し訳ないが、特に異論はあるか?」


全員がやる気に満ちた顔をしている。これなら大丈夫そうだな。


「よし。じゃあ、今日は解散。女子3人は俺と一緒に工房だ。コウチはいつも1人で寂しくないか?大丈夫か?実は男一人で居心地悪かったりしないか?」

「大丈夫だよ!お師匠さんの気にしすぎだ!それに家に帰ってやることもある、ホントに気にしないでくれ」


同じ男として、コウチのことは大事にしたい。しかし、大事にしすぎてちょっとウザがられている自覚もある。

仕方ない。ここらが引き時か…。


「分かったよ…なんかあったらすぐに言えよ…」

「分かった分かった」


コウチは手を振りながら酒場を後にしていった。


「お師匠様、1つ良いことを教えましょうか」


そんなコウチの後ろ姿を見送りながら、カーリがそんなことを言う。


「良いこと?」

「コウチが家で何をしているか、ですわ」


聞きたいような、プライバシーの侵害のような…。


「聞きたい!」


そうだよな、エフテルお前はそういうやつだよな。


「同志は家で英雄狩人スミスの冒険を読んでいるに違いない」


たまには読んでるだろうけど、アルカじゃないんだから四六時中読んでいるわけではないだろう。


「コウチは、手紙を書いているのですわ」

「手紙?故郷の両親にか?」


このアオマキ村にも最近は商人が来る。その商人に渡せば、いずれ手紙は届く。無論金はかかるが。


「いや、故郷の恋人にですわぁ!」

「わお!」

「恋人いたのかアイツ!」


道理で休暇を取った瞬間帰省したわけだ。あれは両親に会いに行ったのではなく、主目的は恋人に会いにいっていたのか!


「へぇ、コウチに恋人かあ…」


何だか寂しいような、複雑な気分だ。俺には恋人はいないし、いたこともない。


「んじゃあちょっと安心だねえ」


エフテルが言う。


「何が安心なんだ?」

「恋人がいるなら、あたしらのことはそういう目で見ないってことでしょ。だってそしたら浮気になっちゃうもん」

「ああ、そういうことか」


俺はコウチを男一人でかわいそうだなと思っていたが、女性陣的にはむしろたった一人の男を警戒していたわけだ。その視点はなかったな。


「同志はそんなことしないと思うけどね」


相変わらずアルカは一度認めた相手には甘い。だが、一番青少年にとって危険なのはアルカ、お前だぞ。

他の2人を見てみろ、ほら、なんもない…


「ぐふっ…なぜ殴る…」

「いや良からぬ気配を感じた」


女性っていうものは、男性の視線には案外敏感なんだと思いました。

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