第43話 昇格に向けて
狩人にとって、怪我とは一生付き合っていかなければならないものである。
当然、大怪我を負ってしまえばしばらく収入はなくなり、さらに再起不能なほどの負傷をすれば、引退を余儀なくされることもある。
で、何故そんな話をしているかというと。
「師匠~、それ食べさせて~、ありがと~」
酒場で俺に飯を口に運ばせているエフテルのことがあるからだ。エフテルの右腕の骨折は中々に重く、全治2ヶ月と診断されている。
「ほら、師匠、あ~ん。もぐもぐ、ありがと」
つまりその間は狩りにいけないわけだ。
もちろん、エフテルを置いて3人の狩人で狩りに出ることはできるが、その間エフテルの収入はゼロだし、今俺がしているような補助もいる。
「いや左手で食べられるでしょうが!!」
突然机をバンッと叩いてカーリが立ち上がった。
「どうしたカーリ、急に怒って」
「どうしたじゃありませんわお師匠様!!今後の“四極”の活動方針を決めるっていうから酒場に集まってみれば、延々とお師匠様とエフテルがイチャイチャしているところを見せつけられて!この時間は何の時間ですのぉ!?」
「嫉妬だね」
アルカは一言だけ呟いて、食事に戻る。アルカは食事が大好きだ。
「お師匠様は、一旦そこのなんちゃって重傷患者に給餌するのをおやめになって!」
「まあ、そうか。そろそろ話すか。エフテル、あとは自分で喰えるな?」
「しょうがないなあ」
左手で慣れない動作で食事をしているエフテルを見ると、どうも自分と重なって世話を焼きたくなる。
ちなみに俺はもう左手で食事をするのも字を書くのも慣れたもんだ。
「で、“四極”の今後の活動方針だが、エフテルの怪我が治り次第、昇級依頼を受けようと思う」
「昇級依頼!」
いまいち狩人の制度をわかっていないエフテルとアルカ以外の2人が声を上げた。
「昇級依頼ってなに?」
案の定エフテルから疑問が挙がる。
「昇級依頼ってのは、狩人等級を次に上げるためには必要な試験みたいな依頼だ。本来狩人等級5のお前らは、危険度3までの依頼しか受けることができないが、昇級依頼は危険度4の依頼を受けることになる。そして無事に達成すれば、晴れて狩人等級4になれるってわけ」
「おお、そりゃ大事な依頼だね」
「そうだな。どんどん実績を上げて、昇級依頼を受けて、狩人等級を上げていくのが狩人の目標だからな」
「その実績についてですけども、今の5級での実績は足りますの?大型の獣をそれぞれ2匹ずつしか討伐していませんけど…」
実績というのは、その等級でどれだけの依頼を達成したのかというもので、これがある程度溜まらないとギルドに昇級依頼の発注を申請しても却下されてしまう。
エフテルとアルカは沢山の採取依頼と、何回かの小型討伐、そして球吐き鳥と炎愛猿の討伐。
コウチとカーリは、小型の討伐を数か月と、タンクと炎愛猿の討伐。
あぁ、あと茸人の討伐もあったな。
これで実績が足りるのかとカーリは気にしている。
「狩人等級5から4に上がるときの実績はそこまで求められないんだよ、それに、この間の炎愛猿2匹の同時討伐。ああいうのは本来4級の仕事だ。それを達成したのだから、実績は十分だよ。ギルドに確認もした」
「ついに、俺たちも4級か…!」
コウチは嬉しそうにしているが、まだ昇級依頼を達成したわけではないので、気が早い。
「ま、なんにせよエフテルの怪我が治ったらだ。それまでは3人で狩りをして、村に貢献していこう」
「はーい」
全員が返事をしたので、今日のミーティングは終わり。
「あ、でもちょうどいい機会だから休暇も取ろう。これまでずっと働きっぱなしだったからな。各自街に行って遊んだりもたまにはいいだろう」
「おお!」
これまた全員から反応が返ってきた。やっぱり休みもほしいよな。
「お前らはこのアオマキ村の専属狩人で、村を守るのが仕事だ。だから全員一気に休むことは認められないが、交代で1人ずつ休めばいいだろ。そしたら働く側も2人一組だし」
「あら、そうなりますと、アルカさんと組む期間もありますのね」
「そうですね」
エフテルとカーリは、この間の炎愛猿の依頼を経て改善されたが、こっちのペアには問題ありだ。
アルカ従来の他人を警戒する癖と、俺への嫉妬。この2つがあるので、カーリと仲良くできるかは不安だ。
「コウチとばかり親しげで、わたくし寂しかったんですわよね」
「そうですか」
うーん、アルカの反応が非常に冷たい。これは先行き不安だ。
「じゃあ、丁度話題にも挙がってるし、最初は俺が休暇をもらってもいいか?里帰りして、親父に色々報告しねえと」
コウチは元々別の村出身だからな。そこの専属狩人である親父さんに修行としてこのアオマキ村に送り出されている。
「いいんじゃないか?是非親父さんに話を聞かせてくるといい」
ということで、最初に休むのはコウチとなった。
その場は解散し、俺はウエカ村長を探してその旨を説明する。
「エフテルちゃんも怪我しちゃったし、本格的な活動は難しいしね。いいんじゃないかな」
と、快く休暇については受け入れてもらえた。
コウチ、カーリ、アルカの順で休暇に入ることになる。
「我らが狩人は休息は不要かい?」
ウエカ村長が心配してくれているが、
「俺は実際に戦っているわけじゃない。休暇が必要なほど働いていないさ」
と答えた。
「そうかそうか、ま、休めるときに休んでくれ。今後は、君たち狩人にお願いしたいことも増えてくるだろうから」
「おお、そうなのか」
「村の発展がひと段落したからね。あとは、獣の素材を使って、さらに発展させていく段階に入る」
ウエカ村長はニヤリと笑う。俺も笑い返した。
「丁度うちの専属狩人くんたちも育っているようだし、君に指導役を頼んで大正解だった。今後とも我がアオマキ村のために頼むよ」
「おう、任せてくれ。拾ってもらった恩は返すさ」
森の調査も徐々に進んでいる。
アオマキ村の発展も同じく進んでいる。
これから俺たち狩人が必要とされることが増えてくる。
俺はより一層、気合いを入れて指導していかなくてはいけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます