第40話 森の親玉、炎愛猿を狩れ⑥

「あれでよかったんですの?」

「あれなら安全は確保されるはずだ」


俺とカーリは走りながら、エフテルの話をする。

エフテルは空気穴だけ開けて穴に埋め、周りにこれでもかというほど獣避けの香を炊いた。

埋めるまでは本人は叫んでいたが、途中で体力と気力が限界を迎えたのか気絶したのでスムーズに埋めることができた。

さて、問題はここからだ。

街道側にはまだ火好猿もいたはずだ。

つまりアルカとコウチは火好猿と炎愛猿を同時に相手していることになる。

先ほど爆音が響いたということは、どちらかが炸裂機構を使ったということだ。つまり、とどめを刺せるほど優勢だったのか、炸裂機構を使わざるを得ないほど劣勢だったのかのどちらかだ。

どう考えても後者の可能性が高い。

ようやく森の終わりが見えてきて、街道が見えてくる。

街道沿いの森には火好猿が数匹いた。


「カーリ、やってくれ」

「了解ですわ!」


森の中の、見える範囲の火好猿を殲滅していく。

1匹、2匹、3匹と回転刃を腹に突き立てられ、絶命していく火好猿。


「5匹くらいやりましたわね。これで…全部?」

「だな。きっと増援として控えていた奴らだ。先に始末できてよかった」


背後から奇襲ができるのではないかと、俺たちはすぐに街道に飛び出さずに様子をうかがう。


「互角…か?」


見れば、アルカもコウチも傷だらけだが、致命傷ではない。

炎愛猿も、所々に傷がついているが、深手は追っていない。


「少しここで奇襲のチャンスを待ちます?」

「いや、気づかれずに馬車まで行けそうだから、罠を仕掛けよう」


本来使おうと思っていた大型の罠は、エフテルの爆弾投擲作戦と置き換わったため使用せず、馬車に積んだままだった。

これを使えば一気に形勢逆転できるだろう。

カーリが取りに行く間、俺は様子をうかがう。

コウチは火好猿を一撃で殴り殺し、そのすきに飛びかかってきた炎愛猿にはアルカの細剣の突きが刺さった。

こうしてお互いをフォローしながらうまく戦えている。火好猿の数も減ってきているし、このまま何もなければ勝てるのではないかとも思う。


「いかん、アルカさん!」

「むっ、分かったよ」


俺がそう思った瞬間、火好猿が炎愛猿を取り囲み始めた。

アルカがカートリッジを装填し、炸裂機構を起動。その推進力を利用し空中で回転しながら火好猿を一掃した。

多少もったいないカートリッジの使い方だな、と思った俺は次の瞬間認識を改めた。


「gyaaaaaaaa!!」


取り囲んだ火好猿は、炎愛猿にセルを渡していたらしい。つまりあのフォーメーションは炎愛猿が必殺技を確実に使うための陣形なのだ。

セルに火をつけるタイミングを見失った炎愛猿は悔しそうにセルをコウチに投げつけた。

コウチはそれを叩きつぶし、アルカと位置を入れ替えるように前に出た。そしてまたコウチと炎愛猿の打ち合いが始まる。

アルカのカートリッジがなくなった瞬間、炎愛猿は取り囲まれた中で安全にセルに着火し、爆発攻撃をしてくるだろう。こちらのカートリッジが有限なのに対し、あちらは部下が無限に供給してくる。

やはり不利なのはこちらだったわけだ。


「お待たせしましたわ!」

「ナイス!」


カーリが50cm四方くらいの箱を重そうに持ってきた。これが罠だ。

この中には、様々な状態異常を引き起こすガスを噴き出す機械が入っている。

例えば茸人の胞子のような、吸い込むだけで動けなくなったり、出血をしたりする罠だ。

中には小さな炸裂機構のようなものが入っており、爆風が上方向にガスを吹き飛ばす。つまり罠の上に立っている存在にのみ作用するような設計になっている。

詳しく説明すると長くなるが、簡単に言うと踏むと作動する状態異常を引き起こす罠だ。


「そこに置こう」


森の中で、少しだけ開けたところに箱を開けて設置する。


「じゃあ、ここに誘導できるように俺はあっち、カーリはあっちから街道に出よう」


俺とカーリは二手に分かれて街道に姿を現した。


「師匠!」

「お嬢!」


俺たちはを視認した2人が嬉しそうにした。しかしアルカの表情が曇る。


「お姉ちゃんは?」

「安心してくれ、無事だ。今は安全なところで休んでもらっている」

「安全なところ…ぷふふ」


事情を知っているカーリは笑っているが、エフテルの安否がわかってアルカは安心したようだ。


「お師匠さん、随分戻るのに時間がかかったな。炎愛猿は戻ってきたのに、3人が戻ってこないから最悪の想像をしちまったぞ」


あ、なるほど、そういう勘違いをしてたのか。


「こいつは2匹目の炎愛猿だ。1匹目は倒してきたよ」

「なんとまあそいつは…」

「師匠、こいつも早く倒してお姉ちゃんのところに行こう」

「そうだな」


炎愛猿は俺たちの人数が増えたことで、及び腰になっている。


「アルカ、カートリッジは残っているか?」

「うん、あと1本だけ」

「使ってくれ。牽制でいい」

「ん…?わかった」


アルカは最後のカートリッジを装填し、レバーを引いた。

爆発的な加速での剣戟が炎愛猿に迫る。当然腕でガードされるが、怯んだのが見て取れた。


「giaaaaa!!」


炎愛猿が俺たちに背を向けて逃げ出す。森の方が炎愛猿のテリトリーだ。得意なフィールドで戦おうというのだろう。


「お師匠さん!逃げられるぞ!」

「コウチ、いいから見ていなさい」


事情を知っているカーリは余裕の表情だ。

完全に森に姿を消した炎愛猿の悲鳴と、ボンっという爆発音が聞こえた。


「罠にかかったな。とどめを刺しに行くぞ」

「ああ、そういう…」


やっと事情を把握したコウチは、安心したように肩の力を抜いた。

全員で森の中に入っていく。

わなを仕掛けた場所には、痺れて動けなくなった炎愛猿がひっくり返っていた。


「わ、かわいそう」


アルカが本気でそう思っているのかわからない声色で言う。


「コウチ、とどめ」

「お嬢、だから俺はあんたの召使いじゃない…」


そうは言いつつも、槌にカートリッジを装填し、振りかぶる。もちろん狙いは炎愛猿の頭だ。


「じゃあな」


こうして炎愛猿との死闘は終わりを告げたのだった。

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