第38話 森の親玉、炎愛猿を狩れ④
炎愛猿に攫われたエフテルを救う。
火好猿が道を阻むが、関係ない。全てを避けて森へ一直線に進む。
「すごい、身のこなし…私以上…?
「アルカ!ボーっとするな、援護!あともう一回街道に火を起こせ!」
「は、はい!」
手を止めていたアルカが再び火好猿と戦い始めたのを横目に、俺は森に侵入した。
「カーリ!痕跡を残しながら森を進むから、全速力でついてこい!」
「はいですわ!」
カーリは防具と武器の重さの分、俺よりスピードは落ちる。適度に目印をつけながら炎愛猿を追うことになるだろう。
相手は流石に猿の名を冠する獣だ。木々を次々と飛び移り、高速で森の中を移動する。片手にエフテルを持っていようが関係ないといった感じだ。
だが、片手を使えないのであれば、俺と条件は変わらない。
俺も木々の枝から枝に飛び移り、炎愛猿を見失わないように追いかける。
炎愛猿は、4人を相手取るのは厳しいと判断し、遠距離にいた一番攻撃力がなさそうなエフテルを拉致したのだろう。そして恐らく、巣に戻ってエフテルを食らう。
「hou!」
木々の間をすり抜けるときに、炎愛猿がそのやすり状になった爪で火を付けた。
「くっそ…!」
煙で見えなくなるし、飛び移る木がなくなってしまった。
「見えなくても追う!」
俺はポーチから騒慌玉を取り出し、煙で何も見えないが投げる。大体の位置は記憶していた。であれば、当てることは容易だ。
ピリリリリという騒慌虫の鳴き声が響き続ける。これなら煙で前が見えなくとも追うことができる。
極力煙を吸わないように姿勢を低くしつつ、地面を走る。
跳躍ならまだしも、やはり走るのは片腕が動かないのは大きなハンデだ。距離が離されていっているのが分かる。
だが、この方角は覚えがある。
「昨日煙が上がっていた方か。寝床でもあるのか?」
一瞬立ち止まり、考える。
このまま追えばいずれまかれてしまうだろう。
であれば、賭けるしかない。
「奴が巣に戻ることと、巣が昨日の煙が上がっていた場所であること…どちらかが欠けてもエフテルは死ぬ…」
だが、考えている暇はあまりない。
現役時代ならどうしていたか。迷わずに選択していたはずだ。
俺はドンドン遠ざかっていく騒慌虫の鳴き声を聞きながら、鳴き声とは別の方向へ走り出した。
「巣に先回りしてやる」
奴は俺を撒いたら巣に戻るはず。
だから巣で待ち伏せをする。
行動を決めてしまえば実行するのは早い。
確かこの辺で煙が上がっていたな…。
炎愛猿は図体が大きいため、木の上では暮らさない。
どこかに洞穴のような場所があるか…、もしくは昨日の火の痕跡があるはず。それを探す。
炎愛猿も火好猿も、火を好むくせに山火事にならないように火の痕跡を消す習性もある。
「ただ、昨日の煙の量を考えるに、生木を燃やしていたような気がする」
生木は水分を多く含むため、燃やすと尋常じゃないほどの煙を出す。木を燃やしたとなれば、その痕跡は到底隠しきれるほどのものではないはず…。
「あった、この木だ!」
さて、あとはこの辺に巣があることを祈るだけだが…。
「良かった」
洞穴はすぐに見つかった。中には果実の食いカスなどが転がっている。間違いない、ここが炎愛猿の巣だ。
あとはここにエフテルを食いに戻ってくることを祈るだけだが…。
「…ん?」
俺は洞穴の中から生き物の気配を感じた。
「まさか…」
洞穴から出て、ポーチから獣避けの香に火をつける。そしてそれを洞穴の奥に投げ入れた。
「ugoooo…」
すると奥から出てきたのは、炎愛猿。2匹目だ。
「最悪すぎるだろ…」
俺は息を潜めて、洞穴から出て行く炎愛猿を監視する。このままここに留まられるのが一番マズい。
どうする…?
考えていた時、あるものが視界に入った。
「ナイス、アルカ」
アルカが街道で焚いた火の煙が見える。
それにあいつが気づけば…。
ポーチから爆弾を取り出し、街道方面に投げる。
これは炎愛猿に当てるためではない。炎愛猿の注意を街道側に向けるためのものだ。
「いけ!」
爆音に誘われて炎愛猿が走り出す。このまま街道まで行ってくれるだろう。
「そっちは任せたぞ、アルカ、コウチ…」
あの2人ならやれるはずだ。もちろん、援護には駆けつけるつもりだが。
「お師匠様!」
「カーリ、追いついてくれたか!」
この周辺で洞穴を調べたり、火の痕跡を探したりしていた間に、カーリが追いついてくれたようだ。
カーリは肩で息をしており、かなり急いできてくれたことがわかる。
「え、炎愛猿はどこですの…?」
息を切らしながら、周囲を警戒している。
「ここに来ると俺は思っている。少しだけ待機だ」
ここに来ると思っている。そうはいったものの、心情的にはここに来て欲しいと祈るばかりだ。
神がいるならば、どうか俺たちを…エフテルを救わせてくれ…!
それから永遠にも感じられる数分が経過した。
「ダメか…!?」
俺は思いっきり右腕を近くの木に叩き付けた。
「お師匠様!?」
痛くないのが恨めしい。こんな体じゃなければと、何度恨むことになるのだ。
俺の予想が外れてエフテルが既に食われていたら、俺はどうすれ
ばいい。死んでやるくらいしか責任の取り方が思いつかない。
「お師匠様」
「なんだ、カーリ」
「耳を…」
「あ…?」
耳に手を当てているカーリの真似をして、耳を澄ます。
森の木々の葉がこすれる音、鳥の鳴き声、そして…。
「騒慌虫の鳴き声!!」
ピリリリリという音が徐々に近づいてきている。
音が近づいて来ているということは、野生の騒慌虫ではない。俺が投げた騒慌玉のものだ。
奴が来ている!
「カーリ、その洞穴が奴の巣だ。その中で待ち伏せをしよう」
「分かりましたわ」
2人で洞穴内で息をひそめる。
やがて、荒い息と、何かを引きずるような音が洞穴の入口から聞こえてきた。
来た…!
唯一の懸念はエフテルの安否のみだ。
炎愛猿がエフテルを抱え続けていることはカーリには伝えている。攻撃する際には気を付けるようにも。
「お師匠様…」
「ああ、もう少し…」
完全に洞穴の中に入ってきた。
俺たちは洞穴の天井部分に飛び出ている岩の上にいる。
眼下に、炎愛猿の姿が見えてきた。
エフテルは…握られている右腕は血で真っ赤だが、他は無事に見える。
「行きますわよ!」
カーリは飛び降りながら回転刃のレバーを引き、起動させ、同時に切りかかった。
背中にうまく乗ることができ、エフテルを持つ腕に深々と回転刃が突き刺さっていく。
「gyaaaaaaaaaaa!!??」
何が起こったのかわからなかったであろう、炎愛猿がエフテルを放り投げる。
「俺が!」
岩壁に叩きつけられる前に、俺がエフテルを受け止めた。
良かった、息をしている。
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