第37話 森の親玉、炎愛猿を狩れ③
結論から言うと、夜の間は何も起きなかった。良かった。
全員もう既に狩りの準備は出来ている。
「よし、じゃあ早速、作戦開始だね!」
エフテルが、街道の真ん中に集めてきた枯れ木などを積み、火を付けた。
メラメラパチパチと音を立てて燃える炎。ドンドン勢いを増し、ものすごい量の煙を発生させていた。
俺たちはその様子を隠れてみている。エフテルの案だ。
「おー来てる来てる」
森の中から、次々と火好猿が姿を現し、火の周りに集まっていく。
「kya!kya!」
火を囲んで楽しそうにしているところで申し訳ないが、そろそろ頃合いだ。
エフテルはポーチから爆弾を取り出した。球吐き鳥戦でも活躍した小型爆弾だ。
「結構距離ありますけど、信用していいんですのよね?」
「投げるのだけは得意だから大丈夫だ」
「投げるのだけはってなに…さ!」
俺に文句を言いつつ、爆弾を投擲するエフテル。
高めに投げた爆弾は弧を描いて綺麗に火の中心に落ちた。
「ナイスコントロール」
コウチが呟くと同時に激しい爆発が巻き起こった。
火の回りにいた火好猿たちは絶命、あるいは重傷を負っている。少なくとも、歩き回れるような個体はいなかった。
俺たちは飛び出し、まずはとどめを刺して回る。精神的にややきついが、仕方ない。俺なんかは最早何とも思わないが。
「次、来るぞ!」
同じ手は通用しないが、火に向かって次々と火好猿はやってくる。ここから先は真っ向勝負だ。
コウチとカーリが森の手前で次々と火好猿たちをなぎ倒していく。
どちらも武器の威力が高いので、一撃だ。
しかし、如何せん数が多いので、抜ける奴もいる。
そういうときに、エフテルとアルカの出番だ。
「はいっ、ほいっ、やっ」
次々と針を投擲し、喉、或いは目に当てていく。そして絶命しなかったものにアルカが瞬足で接近し、命を狩りとっていった。
調子は良い。危なげもない。
だが、時間とともに状況は変わっていく。
「これ無限に出てくんの!?絶滅させなきゃだめ!?」
騒ぐ元気があるのは、後衛のエフテルだけだ。
コウチとカーリは徐々にパフォーマンスが落ちてきている。討ち漏らしが増えると、駆けつけるアルカの負担も増す。永遠には続かない。
だが、それはあちらも同じ話。
「流石にそろそろ炎愛猿が出てくるはずだ!各自戦闘を継続しつつ、息を整えろ!」
「無茶言うッ!」
槌を振り回しながら、コウチは叫び、カーリと目を合わせる。
「ラインを下げますわよ!」
少しずつ下がり、森の手前から街道まで来ると、火好猿もまばらになってきていた。
これ以上の損害は群れの維持に関わる。もし炎愛猿がいるならば、いくら警戒心が強いとはいえ、姿を現す頃合いだろう。
「ugyaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
一際大きな鳴き声と共に、森から姿を現したのは、体長3m近くもある大柄で筋骨隆々の猿。そう、あれが炎愛猿だ。
「gyaou!」
炎愛猿は近くの木を殴り、へし折る。
「わ、腕力ぅ…」
一撃でその立木を折る膂力、思わずカーリがお嬢様口調を失うほどの衝撃だったようだ。
その倒木に炎愛猿が爪を引っ掛け、一気に引くと炎が巻き上がる。
ずっと街道で俺たちが燃やしていた火に釣られていた火好き猿たちが、ボス猿が起こした火の側に移っていく。
「こっからが本番ってわけだね!」
街道を挟んで、俺たち5人と、炎愛猿と火好猿の群れで睨みあう形になる。群れとはいっても、既に10匹以上の火好猿を狩っているので、今炎愛猿の周りにいるのは5匹程度だ。
「セオリーでは、小型を先に片付ける。ただ、炎愛猿のような小型と連携するタイプの獣もいるから注意が必要だ」
「で、結局今回はどうすればいいの?」
俺のアドバイスに、エフテルが聞き返す。
「こういう場合でも変わらない。小型を片付けてから大型に専念する」
「了解。お嬢様、コウチくん!ボス猿任せていい?」
「仕方ないですわね!」
カーリの回転刃が唸りを上げながら炎愛猿に迫る。
炎愛猿は鋭く長い爪で受け止めたが、徐々に削られていく己の爪を見て、受け止めることを辞めた。大きく後ろに下がり、目標が消えた回転刃は地面に刺さる。
やはり最初から獣に致命傷を与え得るのは回転刃の大きなメリットだな。
ともあれ、これで炎愛猿と火好猿の距離は離れた。
カーリとコウチは更に炎愛猿に接近し、近距離戦を仕掛けた。
コウチの槌が振り下ろされ、炎愛猿に当たる。筋肉に包まれた巨体でも、自分より格上の危険度4の獣の素材で作られた武器はかなり痛いようだ。
つまり、コウチの攻撃も、カーリの攻撃も避けるしかないわけだ。ただし、それはこちらも同じ話。
接近を嫌がって振り回した腕が僅かにコウチの肩に触れる。
「うっぐ!」
それだけでコウチの身体は横に回転し、転倒した。
「コウチ!!」
「大丈夫だ!防具を掠めただけだ!」
すぐに立ち上がり、コウチは再び炎愛猿に殴りかかっていく。
一方、火好猿を相手取っていたエフテルとアルカだったが、こちらは順調だった。
先ほど同様、エフテルの正確な射撃と、アルカの瞬足を合わせたコンビネーションで次々と火好猿を屠っていく。
先ほどコウチが攻撃を受けて転倒したときなんかには炎愛猿に向かって牽制の針を投擲するくらいに視野が広い。
最後の1匹の後ろをアルカが取り、そのまま首を首を掻き切り、これで全員で炎愛猿と戦える。
そう思った矢先だった。
「kyaaaaaaaaaaaaaa」
甲高い声を炎愛猿が挙げると、森から火好猿が更に飛び出してきた。
「面倒くさ」
獣から離れ、息を整えていたアルカが俺の隣で呟いた。
全くその通りだ。これがあるから炎愛猿は強い。本体は危険度3だが、危険度2の獣がほぼ無限に湧いてくる。
それでもセオリー通り小型から倒す必要がある。じゃないと、炎愛猿と戦っているときに不意打ちを受ける。
今回は4人いるので、非常に戦いやすいだろう。
炎愛猿の動きを抑えつつ、火好猿を殲滅できる。これがもし2人のままだったら、炎愛猿の攻撃をかいくぐりながら火好猿と戦うことになるところだった。
「こっちが頑張らないといけませんわね!」
「ああ、俺らがこいつを倒せばあっちの姉妹さんの仕事も終わる」
どうやらあっちはあっちで気合十分のようだ。
確かにあの2人であれば、炎愛猿の討伐は邪魔が入らなければ十分可能だ。
「ふっ!」
コウチの振る槌をバックステップで躱した炎愛猿。だがその動きをカーリが読んでいた。
「いただきですわ!!」
バックステップと並走する形で追いかけていた回転刃が、炎愛猿の着地と同時に腕に当たる。クリーンヒットだ。
ギャリギャリと嫌な音を立てながら、血しぶきが舞う。
「gyaaaaaa!!!」
悲鳴上げながら、腕を振り回す炎愛猿に巻き込まれないようにコウチとカーリも街道側に下がる。
回転刃は、ダメージは確実に与えられるものの、深手を与えるには攻撃を長く当て続けないといけないのか。なるほど。
手傷を負った炎愛猿は怒り狂っている。周囲の樹木に当たり散らし、街道側に猛スピードで駆けだした。
当然身構えるコウチとカーリ。
「はあ!?」
しかし2人を素通りした炎愛猿は、一気に街道まで飛び出し、エフテルに急接近。驚き固まるエフテルの腕をガッチリと掴み、地面に叩き付けた。
「お姉ちゃんッ!」
あまりに急な行動過ぎて回避行動も受け身も取れなかったエフテルは、炎愛猿に掴まれたままぐったりとしている。
「ukyakyakyaー!」
嬉しそうに見える炎愛猿は、そのまま森に消えていく。
夢を思い出した。
この依頼に出発する前に見た夢を。
「絶対に犠牲は出させない!」
俺は炎愛猿を追って駆けだした。
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