第33話 弱い者いじめはいけない
「へいへーい、デートは楽しかったかーい?」
酒場に戻ると、やっぱりいた。絶対いると思った。
「お姉ちゃん、ただいま。楽しかったよ。コウチさんとも仲良くなれた」
「おお、そっかそっか!お姉ちゃんが謹慎してた甲斐があったみたいだね!」
「謹慎を偉そうにするな。自主練をするように言っていたはずだが?」
「ちゃーんと、テキスト読んでたよ。お嬢様と問題出し合ったりしてね」
「うぉっ、カーリもいたのか」
にやーっとしながらエフテルが視線を送った先には、椅子にも座らずに床にうずくまっているカーリがいた。
「私は、こんな村娘にも及ばない、塵のような女ですわ…」
「どうすればこうなるんだよ」
俺の問いに得意げにエフテルが答える。
「普通にテキストの中身で問題を出し合ったり、走る速度を比べたりしただけだよ。ぜーんぶあたしが勝ったけど!」
なるほど、それで落ち込んでいるのか。というか、案外2人きりでも仲良くしてるじゃないか。俺がいない方が円滑に回るか?
「お師匠様、私はこのチームのお荷物ですの…ここに見捨てていってくださいまし…」
ここまで落ち込むとは、余程色々な種目で打ちのめされたのだろう。確かにエフテルはハイスペックだが、欠点が全くないわけではなかったと思うが…。
あ、そうだ。
「2人とも、まだ元気か?」
「ん?元気だよ」
「心以外は元気ですわ…」
「じゃあ、今日の狩りの報告が終わったら、ちょっと3人で基礎トレーニングしようか」
「えーー!!もう十分やったよ!こんなに真面目に頑張ったのに!」
「まあまあ、カーリと最後にもう1回だけ勝負してやってくれよ。勝ったらいいものやるから」
「ほんとに?ならいいけど」
あまりにカーリがかわいそうなので、少し元気づけてやろう。
それはさておき、先に依頼の報告だ。
今回依頼を受けたのは俺だったので、俺が報告しなければならない。
「無事にお戻りで何よりです。依頼の報告でしょうか?」
受付嬢がいつも通りの笑顔で対応してくれる。
「はい、これくらい採ってきた」
俺とコウチ、アルカの3人で採取してきたストーンベリーをカウンターの上に載せた。
「おお、これは、大漁でしたね。報酬には期待していてください」
にこやかにお辞儀する受付嬢と、ストーンベリーを回収していくギルド員。
今回は量は多いが、ストーンベリーなので状態確認は容易だろう。なんてったって硬いので、他の果実のようにつぶれたり傷つくことがない。
とはいえ、ある程度の時間はかかるだろう、いつも通り夕食を済ませながら待つことにする。
丁度人が混んでいる時間帯に来てしまったようだ。ムキムキの人たちが酒を片手にぎゅうぎゅう詰めだ。わずかに狩人も見受けられるが、あの人たちは森の調査をしてくれている狩人たちだろう。
「ところでお師匠さん、ストーンベリーってどうやって食べるんだ?あんなんじゃ食えないだろ、硬すぎて」
コウチが肉を頬張りつつ訊ねてくる。アルカも気になるようで視線を送ってくるが、アルカは食事中はモリモリ食べるのに忙しくて基本的には無言だ。
「ストーンベリーは、長い時間茹でると、食べられる硬さになる。まあ、それでもカリカリいうくらいには硬いんだけどな」
「へえ、手間かかるんだな」
「まあ、そもそも嗜好品じゃなくて医療品だからな。美味しいことは価値にはつながらんさ」
「価値?なになに、今日の狩りっておいしい依頼だったの?」
おっと、まだエフテルがいたのに迂闊な発言だったか。
「この間の埋め合わせでな。茸人討伐に行けなくて悔しがってただろ」
「えっ…結局あたし、その埋め合わせにも行けてないんですけど…?」
何度も言うが、自業自得だ。
「査定が終わりました」
「お、終わったみたいだな。行くぞ」
俺とコウチはカウンターに向かう。アルカも急いで料理の全てを口に突っ込み、ついてきた。
「依頼料は5万クレジット、採取及び討伐による報酬が70万クレジットになります」
「おお、採取依頼では破格の値段だな」
コウチが驚く。
「そう、だからこういう依頼も競争率が高い。ギルドが依頼主の依頼は大体うまいから、覚えとくといいぞ」
コウチの分はギルドに預け、アルカの分は現金化する。俺への給料分はギルドに預けた。
「ほんとにいいの?」
アルカが気にしているのは借金返済について。
今回稼ぎがよかったので、多めに返済してくれようとしたが、これは埋め合わせなのだ。せっかくなのでその金は自分のために使ってほしい。ほら、そこで血涙を流している姉と分けるとかさ。
「今日も色々勉強になった、ありがとうございました」
コウチが頭を下げてくる。こういう真面目さが俺の気に入るポイントの一つだ。
「おう、また明日」
こうして今日は解散となる。
そして残されたのは、エフテルとカーリ。
「じゃあ、最後の勝負を2人にはしてもらおうか」
「なんでもいいよ!勝ったらご褒美だからね!」
「どうせ負けますわ…」
この種目が終わるころにはきっと立場が逆転していることだろう。
「じゃあ、この重りを背負って、村を何周できるか競ってもらおうか。先にへばった方が負けで」
「げ」
俺がルールを伝えた瞬間、エフテルの余裕の表情が崩れた。
そう、こいつは大体ハイスペックだが、持久力と筋力だけは絶望的にない。どうせ今日カーリと勝負した種目はそういうのを避けたんだろう。
「ほら、どうした、スタートするぞ」
俺は重りの入ったバッグを2人に背負わせ、並ばせる。
「い、いやー、お嬢様、棄権したほうが良いんじゃない?これ以上負けたら心折れちゃうよ?」
「いえ、勝負は受けます。結果がどのようになるにせよ、お師匠様の前でふがいない姿を見せるわけにはいきませんの」
よし、カーリのやる気は十分だ。
「せっかくなので、最低10周はしよう。いけるよな?」
「ええ、いけますわ」
エフテルの返事はなかった。
「じゃあ、よーい、スタート!」
その勝負の結果は語る必要はないだろう。
とりあえず、カーリは元気を取り戻し、エフテルは地獄を見た。
「おーっほっほっ!まだまだわたくしは余裕でしてよ〜!!」
「もういいじゃん!お嬢様10周終わったってよ!」
「お前はまだ6周だろ。あと4周がんばれ」
「鬼ーーーーーー!!!」
夜の村にエフテルの泣き声が響き渡ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます