第31話 ストーンベリーの収穫①
さて、最近アルカから借りた本を読み終わって、確信したことがある。
アルカの愛読書である、英雄狩人スミスの冒険の作者は現役狩人あるいは元狩人だ。
登場するモンスターやアイテムがあまりに現実のものにそっくりなのだ。
例えば、スライムというモンスターは、セルそっくりだし、前にアルカが言っていたドラゴンも特徴が一致する獣がいる。
さて、そんな作中で、リーフストーンという果実が出てくる。それはまるで石のように硬い、見た目は葉っぱだ。ただし、特殊な方法で調理すると、万病に効く薬草になるという。
そして、現実世界にもほぼ似たような性質の植物があった。それは希少性により、高値で取引される。
「今日は採取依頼だ。リーフストーンを森で採取するぞ」
俺は酒場に集まったアルカとコウチに言った。
「リーフストーン?実在すんのか?」
意外も意外。アルカよりも先に反応したのは、コウチだった。アルカがぎょっとしてコウチを見た。
「ちょっと聞きたいんだけど。リーフストーンを知っているの?」
興奮を抑えきれていない、荒い鼻息でコウチに詰め寄るアルカ。詰め寄るといいつつも、物理的な距離は遠いが。
「あ、ああ。あれだろ?本に出てくる万病に効く果物…」
「ああ、こんなところに同志がいた。今まで距離を取ってごめんなさい。あなたは私の同志…」
話が通じる人がいてよっぽど嬉しいのだろう。珍しくアルカが笑っている。
「…でも安心して、一番の同志は師匠。師匠だけ」
いや別にそんなフォローしてくれなくても大丈夫…と思いつつも、少し嬉しいのは恥ずかしいので隠しておこう。
今回この2人を集めたのは一番接点がないこの2人の仲を深めようとしたからだ。それがこんなことをきっかけに一瞬で目的達成するとは思っていなかった。
「で?実在するのか?って聞いたぞ俺」
「ああすまん、もちろん実在しない」
思いっきりコウチに顔をしかめられた。
「そんな顔するなって。リーフストーンはないが、それのモチーフになったであろう果実はあるんだ。今回の採取目標はそれになる」
「ほお、なるほど」
「そんなものがあるなんて…やはりスミスはすごい…!」
もうね、熱狂的なファンはなんでも肯定的にとらえるからね、すごいんだよね。
「しかもその果実は高く売れる。前回コウチとカーリだけで茸人の討伐をしたことの埋め合わせでもあるな」
「あれ?お姉ちゃんは?」
「自業自得。最近の態度は目に余るから」
「哀れお姉ちゃん」
カーリは大人の対応をしようとしてくれているからな。あとはエフテル次第なんだが、アイツはほんとにもう…。
「森の調査が進んだおかげで、どんどん村の資源になるものが見つかってきている。受けられる範囲で受注して、少しでも村に貢献しなければいけないからな」
世襲狩人であるコウチはその辺よくわかっているし、アルカも姉ともどもこの村には恩がある。村のために働くことを嫌煙するようなことはない。
「ちなみに、依頼書はこれな。昨日の夜のうちに受注しておいた」
俺が1枚の紙をテーブルの上に置くと、2人が両側から覗き込んだ。
「なになに、依頼主ギルド、ストーンベリーの納品…依頼主ギルドってのはどういうことだ?」
「いい質問だ、コウチ」
俺はにっこりと頷いた。
「いや頷いてないで教えてくれよ」
「ああ。採取依頼は当然誰かが必要だから採ってくることになる。つまり、採ってきたものは引き渡さなければならないので、依頼料が狩人の懐に入って終了ということになる。これは当然だな?」
「ああ、そうだな」
「だが、依頼主がギルドの場合、そうではない。ギルドがこうやって公に採取依頼を出すときは、ギルドに所属している狩人へのサービスのようなものなんだ。別にギルドがストーンベリーを欲しいわけではなく、森でストーンベリーが採れますよ、といった情報提供になる」
「それなのに依頼料ももらえるの?」
「その辺はギルド職員じゃないから詳しくはわからないが、一説では生態系管理の依頼を兼ねているからだと聞く。ギルドでは依頼目標以外の過剰な採取や討伐を禁止している。だから、こうしてギルドから依頼されるということは、自然界で増えすぎたり…あとは市場に出回らなくなったりしてるとか…まあ、色々要因はあるみたいだ」
「後半随分歯切れ悪かったぞ…」
「仕方ないだろ、その辺は全部狩人内での通説だ。事実なのは、ギルドが依頼主の採取依頼は、採取してきたものを依頼主に引き渡す必要がない。つまり、討伐依頼のように、依頼料プラス素材料が貰えるっていうこと!」
討伐依頼と同じということは、ギルドに売り払った、今回でいうストーンベリーは、村のものとなる。つまり、村が潤う遠因となるわけだ。
「おいしい、ね」
「そうだぞアルカ。だからこれで茸人の件は許してくれよ」
「許そう」
お許しが出た。良かった。
「よし、依頼概要が分かったところで、ストーンベリーについて詳しく説明しようか」
「ストーンリーフと一緒なんでしょ?水辺に実っている石のように硬い果物。万病に効くとされていて市場価値は高く、売れば財産になる。ただし、水辺にはキラーフィッシュの群れがいるから、簡単にはいかない…」
オタク特有の早口で説明するアルカ。まあ大体間違っていない。
「キラーフィッシュは実在しないけどな」
「いや、私は知ってるよ。こういうときって、大体似たような獣がいるんだよね」
まあそのとおりだ。
何なら新人狩人は読んだ方がいいのではないかと思うほど、現実の狩りに寄せた内容の物語なのだ、英雄狩人スミスの冒険は。と、ここまで絶賛すると俺までファンになったのかと思われそうなので、そこだけは否定しておく。
「キラーフィッシュではないが、鉄砲蛙という小型の獣が付近にいることが多いから、各自武器と防具の準備はしっかりしていこう」
「うい」
「はい」
それぞれが頷いたところでいったん解散。各々準備して、村の前に集合だ。
今回は森の木々が入り組んだところまで行くので、荷車は使えない。少し大きめのバッグを背負っていくことにした。
あとは、現在明らかになっている部分の森の地図もギルドからもらってきた。こうしてみると森はかなり広大で、調査する狩人…ルミスなどの苦労は計り知れない。さらに言うなら、その依頼を継続して発注しているアオマキ村の財政負担も計り知れない。少しでも村の金になる依頼をたくさん受けよう。
§
村を3人で出発しようとしたところでアルカが俺の手を引いてきた。
「ん?どうした?」
「ここにいるのは同志のみだよね。じゃあ、じゃあ、出発の儀式、していいよね?」
うわああああ、やりたくねえええええ。
頼むコウチ、断ってくれ…!
「かっこいいよな、あれ。狩人なら1回はやってみたいと思ってた。お嬢なんかは絶対やらないからな」
お前もそっち側かよ!!
「待て落ち着けお前ら。確かに、なになにを狩りに行く!って言うよな?今回は採取依頼だから、無理だろ?」
「そこはストーンベリーでいいんじゃないか?」
くっそコウチ、お前ってやつは俺の味方だと思ってたのに…!
「でもほら、せっかくの出発の儀式だろ?もっと強力な相手の時に気合い入れたほうが良いんじゃないか?」
「それはそうだけど、お姉ちゃんはともかく、もう1人がやってくれなそうだよ?」
「そこは俺がなんとか頼むから、今回はやめとこう、な?」
カーリならば、俺が軽くお願いする程度ではあんな儀式には応じないだろう。つまり、この場を乗り切ればなんとかなる。
アルカとコウチは、うーんと悩んでいる。
さあ、どうだ…?
「そだね。もったいないし、とっておこうか」
「だな。折角なら、大型狩りのときにやりてえ」
やったーーーーーー!!!
「そうだな、ちょっと残念だが、ふさわしいタイミングというものもあるからな、うんうん」
「じゃあ、レディゴーだけにしとくか」
え?
「そうだね。ほら師匠、手を出して」
え?
「準備はいいか!?」
「レディ?」
あーもう、そんな目で俺を見るな!
「ゴーーーー!」
やけくそだった。
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