第30話 フォーメーション!
翌日、酒場にて。
俺達は1つの卓を5人で囲んでいた。
「皆おはよう。まず最初に一番大事なことを伝えておこうと思う」
俺はミーティングに集まった4人を見る。
エフテルはカーリと一番離れたところに座り、飲み物を飲んでいる。
アルカは俺とエフテルの間に座り、俺を見ている。
カーリはピシッと音がするくらいに綺麗な背筋でまっすぐ向いている。
コウチはダルそうに座っているが、話を聞こうという意思は感じる。
「お前らが喧嘩した瞬間、俺はコウチと一緒に2人で狩りにでる。お前ら3人は謹慎だ。いいな?」
「なんで俺!?」
だって同性だし、一番付き合い安い距離感なんだもん。
「わたくしは問題ありませんわ」
余裕綽々のカーリ。
「分かったよー」
「…うん」
既に態度が怪しい姉妹。カーリが絡まなければいい奴らなのに、どうしてこうなるのか。
「自己紹介は不要としても、これからチームを組むことになる4人だ。狩人免許の公開はしておこうか」
「はい、質問」
エフテルから手が挙がる。
「なんだ?」
「なんで4人でチームを組むことが確定してるの?今まで通り2人1組でいいじゃん。そっちのほうが連携取りやすいよ」
カーリが溜息を吐いた。
一瞬何か言おうとしたエフテルだったが、なんとか一呼吸置き、落ち着いて発言する。
「なにか言いたげですね、お嬢様は」
「いいですこと?危険度3程度なら2人でもなんとかなるかもしれませんわ。でも、これからどんどん強敵と戦っていくのに、ずっと2人でやっていけるとお思いで?」
「ぐっ、変に連携が乱れるくらいなら2人の方が…」
「連携はこれから練習すれば良い話ですわ。そのための今日のミーティングですのよ」
流石カーリ、昨日の夜のこともあり、冷静だ。
うぐぐぐと呻いているエフテルも正論であることは分かっているのだろう。だが、長年コンビだったところに異物が入るのが許容できない、といったところか。
その気持ちは良く分かる。ルミスと一緒に狩りをするということになったときも、俺の相棒は荒れに荒れた。こういうのは結局のところ感情論なのだ。
「エフテル、お前の気持ちもわかるし、一番連携が取れるのはもちろんエフテルとアルカのペアだろう。だから、考えを変えてみてくれ。主軸はそのペアだけども、選択肢の一つとして、生存率を上げるために他の2人が入るって」
「うーん、師匠がそう言うなら信じるけどさー…」
唇は尖ったままだが、納得はしてもらえたようだ。
さて、やっと免許の公開に移ることができる。
テーブルの上に出された4枚の狩人免許。
「…なんだ?」
何故か全員から視線を感じる。
「お師匠さんの免許も出す流れだぜ」
「え?あ、そうなのか、すまん」
コウチに指摘されたので、他の4人とは違う黒い免許をテーブルの上に出した。
カーリが熱い吐息を漏らしているが、触れてはいけない。
「さて、名前と狩人等級は皆知っていると思うので、大事なのは武器かな。隊列を決めるうえで重要になる」
「針…、え、貴方の武器、針ですの!?」
「なにさ」
カーリが驚き、エフテルが不服そうに返事をする。
「いえ、針を使用するには並外れた努力を要すると聞いておりましたので、素直に脱帽ですわ」
「な、なにさ急に褒めて…」
まんざらでもなさそうだ。単純で助かる。
「で、そっちのその武器は何?コウチくんの槌は分かるけど」
やっぱり回転刃が気になるよな。
「こんな感じの武器ですの」
ブイィィンと回転刃を動かして見せるカーリ。
「お。おお…」
「エフテル触るなよ!?」
高速で回転する刃に恐る恐る手を伸ばすエフテルを制止した。あれに触れたものがどうなるかは昨日の狩りでしっかりと見た。
「危ない武器使ってんだね…」
俺に急に叫ばれてびっくりしたのか、胸を抑えながらエフテルは自分の席に戻った。というか危なくない武器なんてないだろ。
「俺からもいいか?」
コウチが挙手する。どうぞ、という意味を込めて頷いた。
「アルカさんの武器、細剣となっているが普通より短くないか?」
「ああ、それは特別に短くしてもらってるんだ。アルカは身体能力を活かした素早い戦い方をするから」
「なるほどな。特注品なんだな」
コウチが納得したのを最後に、全員の視線が俺の狩人免許に集まる。
「え、今なら免許の見方わかるから、気づいたんだけど、師匠って全種類の武器使えるの?」
「ああ、そうだぞ。現役時代は狩猟対象によって使う武器を変えていた」
「ゆえに付いた名前がマルチウェポン!ここまで多才なのは狩人のなかでも1人しかいないのではないかと界隈では言われておりますのよ!」
俺のことを話すときは水を得た魚のように喋るなこのお嬢様。そして、界隈ってどこのなんだ。
「へえ~、あたしたちってすごい人に教わってたんだねえ」
「今更ですわ。もっとお師匠様の言葉を1つ1つ嚙み締めることをお勧めしますわ」
「そこまではしなくていいからな…」
俺はテーブルの上に出していた免許をしまった。
皆もしまったことを確認して、今日の指導について話すことにする。
「さて、それぞれの武器が分かったところで、今日はフォーメーションの練習をしようと思う」
「複数人での狩りでは必須だな」
コウチが賛同し、カーリが頷く。
エフテルとアルカはよく分かっていないようだ。
「まあ、こういうのはやってみた方が早い。武器だけ持って、村の門の外に行こうか」
エフテルとコウチが武器を持ってきていなかったので、各々家に取りに戻ってから、門の外に集合した。前に炸裂機構の練習をしたあたりだ。ここなら誰にも迷惑をかけずに練習することができる。
「よし、じゃあ始めるか。これを大型の獣だと思ってくれ」
いつも狩りのときに持っていく荷車を草原に置く。
「攻撃すればいいの?」
「貴重な荷車だ、やめてくれ。そうじゃなくて、攻撃するなら、どこに立つか、想像して動いてみてくれ」
各々が自分の武器の強みが活かせる場所に歩いて行く。
コウチは荷車の近くに、カーリはコウチより少しだけ後ろに。エフテルは針が届くくらいの遠距離に、アルカはカーリとエフテルの中間くらいに位置取る。
「と、好き好きに動いてもらったわけだが、言いたいことがあるだろう。な、コウチ」
「こういうときにすぐ俺に話を振る…。そうだな、お嬢の位置に疑問はねえが、アルカさん、あんた細剣なのにそんなに離れたところにスタンバってるのは何か理由があるのか?」
俺はその疑問に対しての答えは持っているが、敢えてアルカに答えてもらおう。
「私は、隙を見て一撃離脱するので。ここでいいです」
「にしても遠くないか?」
「…」
自分は答えたといわんばかりに黙ってしまった。
「アルカ、試しに相手に隙が生まれたと思って、荷車に切りかかってくれ。ほんとには切るなよ!」
「分かった」
相変わらず細剣を逆手に持つアルカは、姿勢を低くして駆けた。音もなく高速で荷車に接近したアルカは、最小限の動きで細剣を振りぬき、荷車に少し傷をつけた。当てるなって言ったよなぁ!?
「そうか、こんだけ早ければ距離が開いてても問題ないってことか…分かった、ありがとう」
「ん」
「うちのアルカは気配を消すのもうまいから、離れてた方が敵の意識から外れやすいんだよね。そういうことで、離れてたほうが良いんだよ」
球吐き鳥との戦いのときも、エフテルがヘイトを取り、アルカが攻撃をするというスタイルだった。これから前衛が2人増えるので、もっとアルカは活躍しやすくなるだろう。
「ところで、そちらの針使いの方、そこから射線は通りまして?誤射など、とても心配なのですけども」
「ふん、あたしを誰だと思ってるのさ。それこそ針の穴を通すことくらい簡単なんだから」
ピッとエフテルが針を投擲する。
真っ直ぐに飛んだ針は、カーリの首の真横、自然に流れている黒髪を貫き、荷車に当たった。
一瞬固まっていたカーリだったが、真っ赤になって怒り出した。
「あ、危ないですわね!?何をしますの!?」
「実践して見せようと思って。どう?安心でしょ」
「むしろ後ろから刺される心配が増しましたわ!仲間に武器を向けるとは、狩人の、いえ人間の風上にも置けない方ですわね!」
「なに、少し掠めただけでそんなにビビっちゃったの?お嬢様って、やっぱり世間を知らないからね。臆病なんだね」
…喧嘩が始まってしまった。
今日は比較的友好的に進んでいたと思うが、残念ながらそれは最後までは続かなかったようだ。
「はあ…」
思わず溜息を吐いてしまう。
見ればコウチも呆れていて、アルカは興味なさそうだった。
「よし、お前ら喧嘩したから今日はここまで。俺とコウチとアルカで楽しいことをしてきます」
手をパンパンと叩き、注目を集めた後で俺は言い放った。
喧嘩を売ったエフテルはさておき、カーリは不服そうだ。かわいそうだが、喧嘩両成敗。
「というか、約束ではコウチだけのはずでは!?何故アルカさんも同行することになっていますの!?」
「だってアルカは何も悪くないしな」
わたくしだって何も悪くありませんわぁ!と叫ぶカーリを尻目に、得意げな顔でアルカがトコトコ近づいてきて、俺の隣に並んだ。何も言わないが、嬉しそうだ。
「じゃ、今日はこれにて解散。基本のフォーメーションは今日のとおりでいいな。あとは実戦で試すぞ」
俺は荷車を引いて、村に戻る。
嬉しそうについてくるアルカと、不満そうについてくるカーリ。あれ、意外にエフテルはフラットな…というかむしろ嬉しそうに見える。
カーリが不利益を被ったのが嬉しいのか、アルカが喜んでいるのが嬉しいのか。妹思いの姉だからな。
村の入り口に荷車を置き、全員が集まった。
「明日はコウチとアルカだけここに集合。残りの2人は仲良く自主練だ」
「そんなあ…」
かなりガックリと肩を落としているカーリ。エフテルは休めるということで気楽な様子だ。
ふふふ、その余裕が明日になっても続いているといいな。
解散後、俺は酒場に行って1つの依頼を受注した。森の調査が進んだことで受けられるようになった依頼の1つで、茸人のときのように立地の都合上アオマキ村が最速で受注できるようになっていた。
実は朝に集まったときから目をつけていた依頼があったのだ。
「今度はあの姉妹とですか?」
茸人の一件を見ていた受付嬢が、俺が受注した依頼を見て言う。
「まあ、半分そうかな」
「半分…?」
今日は受注だけして、帰ろう。
あとは明日、アルカとコウチを連れて森へ行く。
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