第23話 帰還と初見さん

「あれ、門の前に誰かいるね」


村の木で作られた門が見えてくると、エフテルが言った。

確かに数人見える。流石に誰かまでは分からないが…いや、あのでかいのは村長かな…。

まあ、どうせ目的地はアオマキ村なのだから、気にせず帰る。というか、早く帰りたい。エフテルとアルカが手伝ってくれているとはいえ、荷車が重い。

徐々に近づいてくると、個人が判別できるくらいにはなってきた。


「やっぱ村長だ。あと、狩人が2人…?」


若い男女の狩人だ。武器と防具を装備している。

女の子の方が手を振っている。


「手、振られてるじゃん」

「えー、誰だろ。知らない人だね」

「師匠じゃない?」

「いや俺も知らないって」


しかも何か叫んでいる。

さらに近づいて、声の内容が分かると、俺は頭を抱えた。


「ラフト様ーーーーーーー!!」


誰だよマジで。


「やっぱ師匠の知り合いじゃん。名前呼ばれてるよ」

「いや…知らない子…だと思うんだがなあ…」


遂に村の門まで辿り着いた。


「やあ、おかえり」

「ラフト様!!」


手を挙げて出迎えてくれた村長を遮って、女の子が飛びついてきた。長い黒髪ののかわいい子だ。

っと、支えきれない…!

俺はその子に押し倒されるように地面に仰向けに転がった。今日はよく女の子に押し倒される日だ。


「師匠、離れて、離れて…!」


アルカが何やら必死に言っているが、何故俺に言う。


「とりあえず、離れてくれないか?」


防具を着ているので、普通に重い。

背中を叩くと、やっとどいてくれた。


「ラフト様、お帰りなさいませ!」


お帰りなさいませ…。なかなかキャラの濃い人だなあ。


「えっと、君は?」


俺が訊ねると、輝く笑顔で自己紹介をしてくれた。


「わたくしはカーリ。このアオマキ村の専属狩人ですわ!」

「ああー、君がかあ」


確かに村長が言っていた。となると、後ろの男はコウチ君か。ついに帰ってきたんだな。


「初めまして…だよな?君たちの指導役をすることになったラフトだ。よろしくな」

「よろしく」


キャーキャー言っているカーリさんの後ろで、コウチ君も軽く頭を下げてくれた。


「ところで、そのラフト様ってなにさ」


エフテルが腰に手を当て、少しだけ眉をひそめながらカーリさんに訊ねる。カーリさんは俺を両手でキラキラとさせながら、自信満々に語った。


「世界に100人といない特級狩人であり、メッツ村の専属狩人であった狩人チーム、“双極”の1人。全ての武器種を使いこなすマルチウェポンで、その多彩な狩りに弱点はないとまで言われた伝説の狩人、それがラフト様ですわ!」


なんだろう、すっごい恥ずかしい。


「なんとなくすごい人だとは思ってけど、そんなにすごい人だったんだね、師匠」


アルカも俺をキラキラした眼差しで見つめ始めた。


「貴方方、そのようなことも知らずに2か月もこの方の指導を受けていらしたのですね、なんということ」


およよ…と崩れ落ちるカーリさん。


「そんなこと言ったって、師匠、一言もそんなこと言わないし。というか、あんまり過去に触れてほしくなさそうだったしね」

「…まあ、そうだな」


村長なり、この子なり、俺の現役時代を知っている人は皆俺に期待しすぎだ。今は特級とは名ばかりの狩人以下の存在だというのに。


「過去のことだよ。今はただの指導役だから、そんなにかしこまらないでほしいな、カーリさん、コウチ君」

「カーリさん、だなんて!カーリと呼び捨てでお願いします!コウチも、呼び捨てで構いませんわ!」


コウチ君は、こめかみに手を当てて、やれやれと首を振っていた。なるほど、この2人の関係性が見えてきた。


「じゃあ、カーリ、コウチ。そういうことだから、俺のことは気軽に呼んでくれ。ラフトでもいいし、この2人みたいに師匠でもいい」

「ではお師匠様と呼ばせていただきますわ!いいですわね、コウチ!」


話を振られたコウチはついに両手で両目を覆ってしまった。めちゃくちゃに振り回されている。


「さて、自己紹介も終わったし、そろそろいいか?今日はこの2人の初めての大物狩りだったんだ」


俺は後ろにあった荷車を指さす。そこには大きな球吐き鳥が横たわっている。

カーリとコウチの視線が、球吐き鳥、エフテルアルカの順に動いていった。自分たちが見られていると分かったエフテルは胸を張り、アルカはそっとエフテルの後ろに身を隠した。


「ふぅん、そのお2人が球吐き鳥を。なかなかやりますわね」

「ああ、見たところ怪我していないようだし、かなりできるな」


カーリとコウチは感心したように頷く。実力を示す良い第一印象となったのではないだろうか。


「流石だね、2人とも。俺は信じていたよ!」


ウエカ村長は嬉しそうに手を広げながらエフテルに迫っていった。エフテルは避け、アルカが捕まった。


「あああああああ…」


高い高いされながらクルクルと回されたアルカは、地面に下ろされて、えずきながら姉の腰に抱き着いた。


「まずギルドに報告と、素材の買取をお願いしにいかなきゃないから、正式な顔合わせは明日…いや、明後日にしよう」


こっちの2人は狩りを終えたばかりだし、あっちの2人は帰ってきたばかりだろう。本格的に4人で動き出すのは明後日からでいい。


「では、明日はわたくしたちの実力を見てくださいませ。良いですわよね、コウチ?」

「あい、いいっすよ、なんでも…」


やる気満々のカーリと、全てを諦めたようなコウチ。


「コウチ、本当にいいのか?疲れてるならまた今度でも良いんだぞ」

「いや、お師匠さん。心配はありがてぇけど、こうなりゃお嬢は止まらねえ。それに、今日はずっと馬車で揺られてただけだから、そんなに疲れてもいないから、問題ない」


カーリが前に出てくるので、まともにコウチと喋ったのは今のが初めてだが、なかなか良い青年だ。自然に立つくらいの短い髪の毛の青年は、おそらくこの4人の中では一番年上だろう。唯一の男の弟子ということだし、なんだか贔屓してしまいそうだ。


「じゃあ、明日はエフテルとアルカはお休み。カーリとコウチは俺と軽く狩りに出よう」

「はーい」


口々に返事をしたことを確認して、俺達は村の中へ移動する。

村長は忙しそうにどこかへ消えていき、カーリとコウチは自宅へ。俺とエフテルとアルカは、酒場にあるギルドに向かった。

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