第21話 草原の暴走鳥②
「piiiiii!」
「ダメかっ」
エフテルの針は羽毛によって阻まれ、球吐き鳥に傷を負わせることはできない。
「弱点は、目か、首か…足もかな?」
羽に防御されなければ攻撃が通りそうなところはその3ヶ所くらいか。針使いはそれを見極めることが重要になる。
そしてアルカは、少しずつ球吐き鳥へ間合いを詰めて、切りかかる。
本体を傷つけることはないが、羽毛が舞い、少しずつ防御は薄くなっていく。
それにしても、連携が上手い。
エフテルが針で球吐き鳥の意識を奪い、その隙に気配を殺したアルカが切りかかる。球吐き鳥がアルカに反撃しようとすると、また針が飛んできてその隙にアルカは離脱する。
「とても5級とは思えないな」
しかし獣狩りは一筋縄ではいかない。
「gagagaーーー」
少しずつ削られていくことを、嫌い、球吐き鳥が突進を始めた。大きく開いた嘴を地面に突き立てながら前進し、突撃とともに土を飲み込む。
「当たらないね!」
狙われたのはエフテルだったが、軽やかに横に飛び、突撃は回避した。
しかし、球吐き鳥の攻撃はここからだ。
一気に飛び上がった球吐き鳥は、空中で反り返り、物凄い勢いで球を吐き出す。
先ほど飲み込んだ土が特殊な胃液で固められ、球体となる。それを吐き出すのが名前の由来であり、得意技だ。
「おわぁ!」
今回吐き出されたのは直径30cmほどの土の塊だが、しっかりと固められたそれがかなりの速さで飛んでくるので、当たればひとたまりもない。
なんとかエフテルが球を回避する。地面に落ちた球は、ドシンと地面に沈み込んだ。
「お姉ちゃん、あれ当たったら死んじゃうよ!」
「分かってる、お姉ちゃんに任せなさいっ!」
必然的に狙われるのはヘイトを稼いでいるエフテルだ。
無駄撃ちにならないよう適度に針を投擲しつつ、球は避ける。
連射出来るわけではないので、1,2発の土球を撃った後、球吐き鳥は地面に降りてきた。
バサバサと羽ばたき、着地の瞬間にふわりと羽ばたいて接地する。
「pyapyaー!」
心なしか得意げに見える。
「この!」
着地の硬直を瞬間を狙ったアルカの剣戟が球吐き鳥の足を僅かに傷つけた。これで2度目の出血となる。
「pipipi」
球吐き鳥は再び羽ばたいて、上昇していく。
視線が2人に向いていない。逃げるつもりだ!
「エフテル!騒慌玉!」
「え、了解!」
慌ててポーチを漁ったエフテルは、紐の両端に玉がついたものを取り出す。
それを飛び去る球吐き鳥目掛けて、回転させながら投げた。
「よし、ナイスコントロールだ」
騒慌玉の紐の部分が球吐き鳥の足に絡まり、ぶら下がったまま、球吐き鳥は去っていった。
そして、ピリリリリという騒慌虫の鳴き声が辺りに響き続ける。
「流石師匠、逃げるタイミングはわからなかったよ」
「すごい。私も気がつかなかった」
騒慌玉は、両端の玉の中に騒慌虫が入っている。獣にくっつければ、ずっと鳴き続けるので、位置把握が容易になる。興奮した獣に反応する習性を利用した道具だ。
「戦いに夢中になる初心者では、なかなか見極めが難しいかもな」
ともあれ、これで1回戦は終了、といったところか。
「2人とも、かなり順調だ。この調子なら討伐できるよ」
「いや師匠、全然効いてる気がしないんだけど…」
げんなりとした様子でエフテルが言う。
「確かに目に見えた傷を負わせることはできていないけど、少しずつ羽毛の防御が薄くなっているだろ」
獣との戦いでは、少しずつ相手の防御を剝がして、致命傷を負わせるのが一連の流れとなる。球吐き鳥が逃げて行ったのだって、嫌がっている証拠だ。
「それに、アルカの炸裂機構による一撃はかなり大きかったな。羽毛に衝撃吸収されたとはいえ、打撲…あるいは骨折くらいは負わせられたと思うぞ」
数回しか使えない強力な技だ。回数制限があるだけのリターンは確実にある。
俺の話を聞いて、2人の表情は明るくなった。
「なんか行けそうなきがしてきた!」
「私が弱らせてるからね」
「誰のおかげで安全に攻撃できてるのかな?」
戯れ合う元気があるなら、体力面でも安心だな。
「さて、あんまりゆっくりしてると完全に見失ってしまうぞ。そろそろ球吐き鳥を追いかけよう」
騒慌虫の鳴き声が聞こえる距離にも限界はある。
「よし、もうひと頑張りだー!」
「おー」
2人が駆け出したので、俺はその後を追いかける。
俺にもこんな時期があったはずだが、いまいち思い出すことができない。案外こういうことは粗暴な相棒のレイの方が覚えていたりする。
丁度、俺たちも2人でチームを組んでいたので、エフテルとアルカの姿に重ねてしまうところも多い。
少し胸の奥が温かくなった。
§
騒慌虫の音を頼りに球吐き鳥を追って数分。
俺達は無事にターゲットを見つけることが出来ていた。
今は身を隠して観察している。
球吐き鳥は、アルカの攻撃によって不揃いになった自分の羽毛が気になるようで、丁寧に毛づくろいをしている。
「見てお姉ちゃん、おそこハゲてるよ」
アルカが指をさしたところを見ると、確かに足の部分の羽毛が剝げている。
「ぷぷっ、本当だ。よーし、お姉ちゃんに任せなさい」
エフテルが左腕に装着している射出機にカートリッジを装填する。カシュっという音がなったが、小さな音なので気づかれてはいない。
いいよね、というような視線を向けられたので、頷いた。
射出機を球吐き鳥に向けたエフテルが、レバーを引いた。
爆音が鳴り響き、針が射出される。吹き飛びそうになったエフテルはアルカが支えていた。
「pyaaaaaaaaaaaa!!!」
肝心の射撃結果は、見事命中。
針が球吐き鳥の足に深々と刺さっていた。
「行くよ!」
一気に畳みかけようと、物陰から2人が飛び出す。
「手負いの相手にこそ気を付けろ!」
「はーい!」
球吐き鳥は、先ほどの攻撃が誰の仕業か理解したようだ。
先ほどよりも敵意がこもった視線をエフテルに向けている。
突進攻撃が始まった。
先ほどまでの突進速度でも2人をとらえることが出来なかったのに、足を怪我した状態で当たるはずがない。
地面を飲み込みながらの突進は、あえなくエフテルに回避されてしまった。
しかし本命はここから。
飲み込んだ土を体内で固めて、空中から吐き出す攻撃が繰り出される。
「ほら撃ってきなよ!」
エフテルは小さく跳ねながら、いつでも避けられるように構えている。
球吐き鳥は空中でのけぞり…アルカに向けて土球を吐き出した。
「ッ!」
突然ターゲットにされたアルカは、咄嗟にしゃがみながら細剣を振るう。
直撃コースだったが、剣に当たったおかげで軌道が逸れ、頭上を掠めるだけで済んだ。
「アルカ!!」
「大丈夫…!」
頭を掠めた際に、少し切ったのだろうか、頭から流血していた。
「慌てずに、止血するんだ!」
2人とも、未だに空中で土球を吐こうとしている球吐き鳥の動向を観察する。
「…!」
どうやら次の球は吐かずに着地するらしい。ゆっくりと高度が下がってくるのを確認してから、アルカはポーチから肉虫を取り出して軽く握り、粘液を傷口に塗った。これですぐに止血される。
「よくもやったな!」
球吐き鳥の着地の硬直に合わせて爆音が響いた。エフテルの炸裂機構だ。
射出された針は、翼に阻まれるが、羽毛がさらに飛び散った。
「今がチャンス!」
アルカが駆け、よろめいた球吐き鳥に一撃。さらに一撃。まだ球吐き鳥の体制は整わない。
「とど…め…!?」
カートリッジを差し込み、とどめを刺そうとしたアルカの膝が落ちた。
「pieeeeeeee!」
辛うじて命を繋いだ球吐き鳥が羽ばたき、逃げていく。
エフテルと俺はアルカに駆け寄った。
「大丈夫か!」
「うん、ちょっとくらっとしただけ」
「頭に当たったときに、何か起こったのかもしれないな。歩けるか?」
「うん、大丈夫、さっきの一瞬だけだったから」
「良かった~!あの鳥め、焼き鳥にしてやる!」
ひとまずは大丈夫そうだが、帰ったら医者に見せたほうが良いだろう。
「球吐き鳥も怪我を負っているし、さっきのアルカのラッシュでかなり傷を負わせることができた。もう少しだぞ」
「一気に畳みかけよう!」
まだ騒慌玉は球吐き鳥に付いているので、見失うことはない。
「傷を負った獣は狂暴になる。ここからが正念場だからな」
「うん!」
「分かった」
森に逃げ込んではいないようで、騒慌虫の鳴き声は草原の方角から聞こえる。
俺達は急いでその音源を追いかけた。
さあ、最終局面だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます