第16話 草原の獣を狩れ!

姉妹の家に戻って、村長の依頼について説明したところ、結局実際の依頼を詳しく見ないと受けるもなにもないよなということになり、3人で酒場に向かうこととなった。


「こんにちは。本日はどのような用件でしょうか?」


今日もギルドの受付嬢は笑顔だ。

俺たちが依頼を受けないせいで暇だったりしないのだろうか。他 にも業務はあるのだろうけども。

さて、早速依頼が張り出される掲示板を見ることにする。

色々な難易度の依頼が張り出されているが、狩人等級5級のエフテルとアルカが受けられるのはこの中の一握りだ。


「早く色んな依頼を受けられるようになりたいなあ」


同じことを思ったのか、エフテルがぼやいていた。


「もっと依頼を受けて実績を積まないとな。これからが本番だぞ」


やっと討伐依頼受けるようになったのだ。ここから危険度3の獣

や魔物を狩って、昇級を目指すんだ。


「村長の依頼、あったよ」


アルカが掲示板に貼られている中で、1つの依頼書を指差した。


「依頼料、5万クレジット。アオマキ村周辺の草原で杭鳥5匹、黒草履10匹の討伐、その他可能であれば魔物も回収し、アオマキ村に納品…って、こんなの俺らしか受けないだろ」


アオマキ村周辺の草原で小型の獣を討伐するだけならまだしも、村に納品というのがキツイ。ただでさえ端っこにある村なのに。


「これって、報酬の相場としては安いの?」


確かにエフテルは基準が分からないか。


「まあ、危険度2の小型だけを討伐するならこんなもんじゃないか?大型の目撃情報とかもないみたいだし。ただ、こんな辺境の村まで来て、5万クレジットは確かに割に合わないよな」

「確かに。じゃああたしたちが受ける分には適正な報酬なわけだ!」

「まあ、そうなる。俺としてもこの村には世話になっているから、是非受注したい」

「じゃあ、受けよ。アルカもいい?」

「いいよ」


全員の同意が取れたので、掲示板から依頼書を剝がして、受付嬢まで持って行った。


「この依頼を受注します!」


元気よく依頼を受注するエフテルの姿は、もはやこの酒場ではよく見る光景になっている。今までは採取依頼だけだったわけだが、今日からは違う。


「はい、この依頼ですね、少々お待ちください」


受付嬢によって、受注される依頼が既に他の狩人に受注されていないか確認され、問題なければ正式に受注となる。


「はい、ではお気をつけていってらっしゃいませ」


何事もなく受付嬢が戻ってきたところを見ると、誰も受注していなかったようだ。まあ、知っていたが。

ちなみにこの後すぐに受付嬢は、この依頼が受注されたことを近辺にあるギルド支部に伝えるために伝書鳥を飛ばす。その報せを受けたギルドは、掲示板から依頼書を外す、ということになる。

豆知識がてら2人に説明したところ、


「へー、鳥さんすごいね」


という返事が返ってきた。

そうだな。鳥さんすごいな。

さて、狩場に向かうために準備をする。

草原は歩いて数時間という近い場所にあるので、徒歩で行く。荷物や、狩った獲物を載せる荷車を引いて。

俺はまた、念の為の道具をたくさん持ち、盾を装備した。

2人は、鉱石で作られた最低限の防具を身につけて、武器を装備する。


「そういえば、武器はなかったが、防具はどうしたんだ?最初から持ってたよなそれ」


確か初めて3人で草原に行った時から装備していたと記憶している。


「あーこれは、村長がくれたんだよね。狩人就任祝い?みたいな」

「正式に狩人になったのはつい先日だったと思うが…?」


まあでも、相変わらず狩人に良くしてくれる村長だ。期待には応えないとな。


「じゃあ、準備はいいか?」

「いいよ!」

「大丈夫」


2人の了承を得たので、ついに初めての討伐依頼へと向かうことになった。


「ところでこの荷車は俺が引くのか?」


誰も荷車を押そうとしないというか、この姉妹は先に行こうとまでした。


「師匠じゃない?戦えないし」

「うぐっ、了解した…」


まあ確かに、2人にはすぐ動けるようにしてもらったほうがいいか。片腕で引くのはバランスの関係で非常に厳しいのだが、仕方ない。筋トレついでに頑張るとしよう。


「代わりにちゃんと師匠のことは守るからね!」

「守らんでいい、まず自分の身を守れ」


溜息を一つはいて、俺たちは草原に向かった。


§


草原に向かう道すがら、俺達は今回の討伐対象について話していた。


「杭鳥は分かるけどさ、黒草履ってどんな獣なの?」

「お前のそういう情報収集を欠かさないところはいいところだよな」

「え、ほんと?」

「まあ、人に聞かないで自分で調べられるのが一番良いんだが」

「うぐっ」


まあ、そういうことを教えるのも俺の仕事か。


「さて、黒草履だが、危険度2の平べったいトカゲだ」

「草履みたいな?」

「まあ、上から見たらそう見えなくもないな。ただ、体長は50cm〜1mほどだから、とても草履サイズではない」

「乗れそう」

「アルカなら軽そうだから乗れるかもな」


あたしは!?と騒いでいるエフテルを無視して、説明を続ける。


「黒草履の特徴は、自分より大きな生き物を見つけると突進することだ。人間だと、だいたい膝下あたりに突っ込まれるから、足を取られやすい。単体ではそこまで脅威ではないが、他の生物と対峙しているときは要注意だな」

「分かった、気を付けるね」


アルカは落ち着いた声をしているので、なごむな。

話すこともなくなったので、適度に雑談をしながら荷車をひく(俺が)こと1時間ほど経って、狩場に到着した。

いつもと同じく、杭鳥や羽豚がゆっくりと過ごしている。


「じゃあ、一応団体行動で、狩りを行う。俺は荷車をここにおいて、簡易キャンプを立てるから、その間に2人で杭鳥を狩ってきてくれ」

「あたしたちだけでいいの?」

「遠くから見てるし、お前らなら杭鳥くらいは余裕だと思ってる」


なんならエフテル1人でも大丈夫だろうが、口に出すと調子に乗るので言わない。


「じゃあ、行ってきます!」

「行ってくるね」


2人が走っていったのを見届けて、俺はキャンプ設営を始めた。

獣と戦うのに、沢山の荷物を持ち歩くわけにはいかないので、狩人は狩場にキャンプを立てる。馬車であれば移動型キャンプのように扱えるが、馬車で狩りをするのは上級の狩人だけだ。馬車は高い。


「ここでいいな」


地形的に大型の獣などが入ってこれない場所に荷車を起き、荷車の上にテントを張る。片手で張るのは非常に難しく、思ったより時間がかかってしまったが、まあ上出来だろう。

あとは最後に、小型の獣が入ってこないように獣が苦手な香を炊く。これでキャンプの完成だ。

キャンプを立てるだけで…汗だくだ。

一息つきつつ、2人の様子を確認する。


「アルカがなにもしていないな」


飛んでいる杭鳥をエフテルが針で次々と落としていく。こうなると確かにアルカの出番はない。


「お?エフテルがなんか言ってる」


するとアルカが、落ちている杭鳥の死体を拾い集めつつ、抜いた針をエフテルに渡していた。まあこれも作業分担か…。

2人の実力に獲物のレベルが追い付いていないな。油断さえしなければ敵ではない。


「あ、戻ってきた」


規定数の杭鳥を狩った2人は、笑顔で俺に手を振りながら、こちらに向かってきた。


「いえ〜い、見てた?あたし最強じゃない?」

「ああ、凄かった。投擲技術だけなら一流以上だよ」


ピースサインを見せるエフテルを素直に褒めてやる。


「私も頑張って獲物を運んだよ」


どさりと荷車に狩った杭鳥を載せ、汗を拭うような仕草でアピールしてくるアルカのことも一応褒めておいた。

褒めて伸ばす方針だ。


「ところで、黒草履っぽい獣はいなかったよ。草原は平和!」


確かに辺りを見回してもそれに近い影は見当たらない。いない、ということはないと思うので、そうなると…


「森の方に少し寄るか…」


森は危険だと口ずっぱく言ってきたため、姉妹が少し緊張したのが分かった。

とはいえ、いつまでの危険度2までしかいない草原で狩りをしていては上級の狩人にはなれない。

注意しつつ、行ってみるとしよう。


「少し森に近づいてみよう」

「森はまだ私たちでは太刀打ちできない生物が沢山いるって言ってなかった?」

「アルカのいう通りだが、ずっと避けているわけにもいかない。少しずつ安全を確保しながら調査する必要はある」

「だ、大丈夫かな!?」

「なに、森の奥深くに入るわけじゃない、森の手前まで行くだけさ。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」


緊張をほぐしてやろうとニッコリと笑って見せる。

何故か大爆笑され、緊張は解けたようだった。

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