第15話 昼時の報告会

エフテルとアルカがそれぞれ武器の扱いにも慣れてきたころ。

そろそろ討伐依頼を受けても良いのではないかと考えていた。


「どうだろうか」


俺は早速2人に討伐依頼を受けてみないかと聞いてみた。


「いいの!?」

「やる」


2人とやる気で何よりだ。

そろそろ次のステップに進まなければな。いつまでも狩人不在では不味いだろう。


「って、今思ったんだが、この村に俺が来てから2ヶ月ほど経つが、残りの2人はいつ帰ってくるんだ?」


この2人にかかりきりすぎてすっかり忘れていたが、ウエカ村長から依頼されたのは狩人4人(2人は無免だったが)の指導のはずだ。

その辺を知っているかと思い、姉妹に聞いてみたが、


「知らないなあ。そもそも気がついたらいなくなってた感じだし」

「名前も知らない」


ということらしい。あんまり面識もないそうな。


「じゃあ、何かお前らが受けられそうな依頼がないか確認がてら、ウエカ村長に話を聞いてこようかな」


相も変わらず村長は忙しそうにしており、挨拶程度はするがしっかりと話す機会は設けられていない。

エフテルとアルカの指導状況の報告もかねて、久々に話にいくとしよう。


「じゃあ、行ってくるな」

「いってらっしゃーい」


と、当たり前のように姉妹の家でミーティングを行っているが、この辺も4人になったらどうするか考えないとな。


§


村長を探して村を歩く。

だいたいいつも人に囲まれていて、質問に答えたり指示をしたり、たまに来る行商人と話をしたりという姿を見かける。

忙しそうだと思って声をかけていなかったが、そうするとこのようにほとんどしゃべる暇もなくなってしまう。

信頼されているののだと思うが、放置されている気もしてくる。忙しいところ申し訳ないが、月1でも情報共有の場を設けたほうが良いかもしれないな。

そんなことを考えながら村を歩いていると、建築途中の建物の前で、木材に座りながら握り飯を食べている村長を見つけた。相も変わらず人に指示を出しているが、ちょうど人が途切れた。話しかけるチャンスだ。


「村長、休憩中か?」

「ん?おお、我らが狩人くんじゃないか。今は昼食をとっているけど、休憩中かと言われると…そうでもないね」


村長は手元の紙をちらりと見せながら笑った。


「でも何か用があるなら、聞くよ。どうかしたのかな」

「エフテルとアルカのことで報告と、あと残りの2人の狩人についての質問だ」

「おお、そうか。あまり時間取れなくてすまないなあ」

「大変なのは分かってるから、気にしないでくれ。じゃあまず報告から」


俺は最近のエフテルとアルカの様子を説明した。免許をとれたことは話したが、その後のことについては何も話していなかったからな。

最近は自分の武器を持ち、扱いにも慣れてきたので、そろそろ討伐依頼を受けようと思っていることを報告した。


「そうかそうか、流石に“双極”、指導力についても特級だ!」

「世事はやめてくれ。単純にあの2人がすごいだけだよ。あの2人、何者なんだ?」


身のこなしや知識、どこか1つを取って見ても、普通の村娘ではない。


「身一つでこの村にやってきたことしか知らないなあ。聞いてみても答えてくれないし」

「なるほど、村長も知らないのか」


秘密主義は俺にだけではないということだ。


「まあ、悪い子たちではないんじゃないかな。俺の国ではああいう優れた身体能力を持つ子も珍しくないし、特におかしいとも思わなかった」

「あ、そうなのか」


村長の国というと、肌の色が濃く、ムキムキな皆さんが頭に浮かぶ。あ、あとハカもだが…あいつは小さくてヒョロヒョロだ。


「まあ、悪い奴らではないことは俺も同意する。優しいよ」


俺は街でのことを思い出した。何も聞かずに明るくふるまってもらって、あの時は随分救われた。


「あ、そうそう、ギルドから君に、街に来ないかと誘いが来ているんだけど、断っていいよね?」

「ああ、もちろん。俺はここの狩人が一流になるまでこの村を離れる気はない」

「さすがあ、頼りにしてるよ」


村長に背中を叩かれて、吹き飛んだ。さては俺が片腕しか使えないことを忘れていたな。

頭を下げる村長を見ながら、ギルドからの誘いについて考え、少し笑った。

もともとこの村にいることは酒場でギルドから派遣された受付嬢に免許を見せたときにバレている。街に来ないかと言うのは、もしかしたらあのメッツ村の受付嬢の気遣いなのかもしれない。相変わらずお節介な人だと笑ったんだ。


「あ、そうだ、依頼を受けてくれるのであれば、アオマキ村として発注して依頼があるから、それを受けてほしいな。遠いのと、報酬が安いので、誰も受けてくれなくてね」


俺たちが受けないだけで酒場には依頼が張り出されていて、日々更新されている。基本的には早い者勝ちでドンドン受注されていくが、村長の依頼は割が悪いということで売れ残っているのだろう。


「分かった。けど、危険度3までしか受けられないぞ」

「大丈夫、草原の獣の間引きだから。最近ここ2ヶ月で、ちょっ

と獣が増えてきていると報告があって、少し様子見がてら数を減らしてほしいんだよね」


草原の獣が増えている?

確かに危険な獣がいないので、外敵には襲われにくい環境かもしれないが、そんな急に増えるものだろうか?


「分かった、詳細は酒場で確認してみるよ」

「お願いします、です!」


段々言葉は流暢になっているが、相変わらず敬語は使えないみたいで、俺は出会った当初を思い出した。


「あ、そうそう。エフテルとアルカ以外の2人の狩人だが、ちょっと依頼の期間が長くないか?5級ならそんなに危険な獣の討伐依頼もないだろ?」

「あー、コウチくんとカーリちゃんのことだね」


名前も初耳だ。


「あの2人は、草原の先の村に滞在して狩りをしていたんだよ。そこの獣が減らないと交易はできないって条件を出されて、泣く泣く送り出したわけだよ」

「まあ、村に狩人がいなくなるよりも、村の発展が優先か」


この村の住民の屈強さを見てしまうと、正直5級狩人より戦力になりそうだと思ってしまうし。


「でももうすぐ帰ってくるはずだよ。街道が整備されて、交通の便が改善されるらしいからね」

「おお、それは良かった」


となると4人で狩りに行くことが出来るようになる。例え初心者とはいえ、4人いれば大型の獣との戦いはぐっと楽になるだろう。


「さて、短い時間で申し訳ないけど、そろそろいいかな?次は砂漠の村と打合せの予定でさ」

「あ、こちらこそ、時間をとってもらって助かった。また動きがあったら報告するよ」


いつまでも忙しい村長を拘束してはいられない。

俺は村長に別れを告げて、村長の依頼を受けるかどうか姉妹に確認するために一度2人の家に戻ることとした。

それにしても、砂漠の村といえば海の向こうの村だ。アオマキ村は海と面しているし、つながりがあるのだろう。いつかそっちで狩りをすることもあるかもな。


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