第14話 武器実践
狩人免許を取得して、アオマキ村に帰ってきて早10日ほどが経過していた。
エフテルとアルカはギルドから依頼が受けられるようになったものの、武器がないので獣を狩ることはできない。
せっかくなので野草の採取など武器がなくとも達成できる依頼はいくつか達成した。
「稼げないのに疲れる!」
とエフテルが言っていたが、採取依頼は比較的安全に実績を積むことができて、なおかつ人のためにもなる素晴らしいものだ。と、説明したところ、
「オタクくんはさあ…」
と呆れた目で見られた。そろそろぶん殴ってもいい頃合いだろう。
さて、つまりこの10日間は姉妹的には暇だったといえるだろう。
俺は周辺の地理や生態系、村の発展に必要な素材を調べたり、アルカから借りている小説を読んだりと、そこそこ充実した毎日だったと思う。というか情報収集はお前らもやれよと思ったが、5級のうちなんてこんなもんかと諦めて俺がフォローすることにした。
そんな日常を過ごしていた俺たちだが、今日、ついに工房から武器が出来上がったと連絡があった。朝起きたら工房の看板娘ハカが枕元に立っていて、教えてくれた。
これから姉妹にそれを伝えようとしているところだ。
「アルカー、エフテルー、おはよーう」
2人の家の前に立って声をかける。例によって壁が薄いのでこうして声をかけるだけで中に聞こえる。
「はーい」
返事が聞こえて、扉が開いた。
「どうぞ」
迎えてくれたのはアルカだった。扉を開けて、中に入れてくれる。女の子しか住んでいない家に男を上げるなんて、随分信頼されたものだ。
室内は綺麗に整理されていて、ベッドの方は布がかかっていて見えないようになっていた。
「じろじろ見るなよエッチ!」
このようなうるさいことを言ってくるエフテルは、部屋の真ん中に置かれたテーブルの前に腰かけていた。
2人とも起きていたようだ。
「2人ともおはよう」
「おは…」
「おはよう師匠」
何故かエフテルを遮って俺に挨拶したアルカは、俺の手を引いて空いている席に着かせた。
「今日、初めて師匠が私たちの名前を呼ぶときに私を先に呼んだんだよ。お姉ちゃんの好感度を私が上回ったってこと」
いや別にそんなつもりはなかったが。
「ごめんねえ、あたしらあんまりまともな男の人と触れ合うことがなかったから、この子バグっちゃってるんだよねえ」
対する姉は俺の予想に反して冷静だ。
こういうときに思うのだが、人懐っこいように見えるエフテルより、実は無愛想なアルカの方が俺に懐いているような気がする。猫に懐かれているみたいな気分だった。
「そんで?今日は指導はおやすみの日だよね?どしたの?」
「あ、そうそう。武器ができたことを伝えに来たんだ」
「おお!ついに!」
エフテルがガタリと音を立てて椅子から立ち上がる。
1ヶ月も待っていたのだから、そりゃ楽しみにもなるだろう。俺だって武器を作るときはいつもワクワクしていた。
「早速行こうよ!」
「今日は…お休みの日では…?」
アルカは少し嫌そうにしつつも、こうなった姉を止める手段はないと諦め、ゆっくりと立ち上がった。
工房に着くと、カウンターの上に武器が置かれていた。
針と、細剣だ。
「お、来たカ。並べといたゾ。どうせお前らしか客ないし」
ちびっこい褐色肌の看板娘がそう言って俺たち3人を迎えてくれた。
「これがあたしの武器!」
カウンターの上に乗っている武器に飛びついたのはもちろんエフテルだ。じゃらじゃらと長い針を掴んでにぎにぎしている。
「これ!つけてみてもいい!?」
「いいゾ。サイズも最終確認したいナ」
針を炸裂機構で飛ばす射出機を腕に付けるエフテル。肘から下を籠手のように金属が覆い、手の甲の上に射出口が来る。
「苦しくないカ?肘は曲がるカ?」
「うん、うん、大丈夫」
ハカが射出機をペタペタ触りながら色々と質問をし、エフテルがそれに答えていた。
「ほら、アルカも持ってみろよ」
「うん」
銀色で、刃が1mもない短い剣。
「おお、結構軽い」
持ち上げてみたアルカの一言目はそれだった。
器用にクルクル回したり、上に投げたり、左右で持ち替えたり。自由自在に扱って見せる。ちょっと危ないので俺は離れた。
「特別に軽くしたって言ってたゾ。うちの親方だからできた技術ダロ」
自分が褒められたかのように得意げなハカ。自分たちの仕事に誇りを持っているのだと思う。作った武器は我が子のようなもの、なんて工房の人はよく言う。
「ねえねえ、あれやってみたい、炸裂機構!」
エフテルがそう言い出した。少し予想していた。
確かに実践でいきなり試すのも危険かもしれないし、1回くらいは試させた方がいいか。
「分かった。んじゃあ村の外で試そうか」
「やったー!」
「ハカ、カートリッジは何本用意出来てる?」
カートリッジとは、炸裂機構を作動させるときに必要な、魔燃料が入った小さなビンだ。特殊な製法で作られるので、出来上がるのには時間がかかる。
「1ヶ月で10本くらい作れたゾ。大事に使えヨ」
そんな代物をそういえばこいつは無駄撃ちしていたな。
「ありがとう、大事に使うよ」
俺は大人なので突っ込まずに、素直にお礼を言って、カートリッジを10本受け取った。
「今から試しに行くか?」
「うん、行こ!アルカもいいよね?」
「うん、いいよ」
んじゃあ早速、草原に行くか。
§
別に狩りに行くわけでもないので、あまり遠くに行く必要はない。村の門が薄っすら見えるくらいのところに、工房からもらってきた丸太を2個おいて、訓練を開始することにした。
「そういえばお前ら、武器の基本的な扱い方は覚えたか?」
ギルドでも配られた武器指南があるはずだ。得意武器を免許に初めて登録したときにもらう。
「読んだし、練習してたんだよねー」
腰に針を入れるケースを下げたエフテルは得意げに言った。意外と勉強嫌いではないんだよな。
「ナイフと一緒だと思ってた」
妹の方は未履修のようだった。
「んじゃあ、アルカからやってみようか。まず、普通にこの丸太を攻撃してみてくれ。初心者は狙ったところに攻撃当てるのだって難しいからな」
「分かった」
細剣を抜いたアルカは、細剣を逆手に持つ。
いや、持ち方から違う!
と注意する前にアルカが剣撃を放った。
見事に丸太がバラバラになっている。迷いなく綺麗に振らなければこのように綺麗な断面図にはならず、そもそも振り抜けずに途中で引っかかってしまうだろう。
「すごいよアルカ。素質があるな」
「でしょ」
ふふんと無表情でドヤ顔をして、腰に剣を納めた。無表情ながら、段々ドヤ顔は分かってきた。
「すごいじゃーん!ちょっとあたしにもやらせてよ」
「だめ。これは私の武器。師匠が私は細剣って言ったから」
「いいじゃんちょっとくらい!」
「触れば…斬るよ」
「ぎゃー!人に剣をむけるなー!」
うーん、今日も姉妹の仲が良い。
「ほら、アルカー。危ないから剣はしまえー。で、次はエフテルだな」
丸太に二重丸を書いて、少し遠くに置く。
「はい、狙ってみろ」
「余裕余裕」
ケースから抜きながら、エフテルが針を投擲する。流れるような綺麗な投擲だったので、はたから見ればただ腕を振っているだけにすら見えただろう。
しかも、
「4本とも真ん中に命中、相変わらずすごいな!」
命中精度も文句なし…というかここまでやれる人間の方が少ない。
「2人とも基礎的な動きは満点だな。じゃあ、早速炸裂機構を試すか」
「カートリッジくださーい!」
「はい、まずじゃあエフテルからだな」
俺はハカから受け取ったカートリッジを一つ渡した。
「撃つ前に注意だが、射出機を付けている腕の肘は少し曲げ撃て。じゃないと骨折する」
「そんなすごい衝撃なの…?」
「当たり前だろ。それくらい威力がないと意味がないからな」
「気を付ける…」
最初の威勢はどこへいったのか、おっかなびっくりカートリッジを装填するエフテル。カシュっという音が小さく鳴った。
「じゃあ、さっきと同じ的を狙って、撃ってみてくれ。アルカと俺は後ろで見てるから」
万が一制御を失って流れ弾がこっちに飛んで来たら即死だ。
俺とアルカが安全なところまで移動したのを確認したエフテルは、緊張した面持ちで狙いを定めた。
「撃つときは肘を曲げて…あとなんだっけ、あ、射出口は出来るだけ体から離すとかテキストに書いてあったな…」
喜んでぶっ放すと思いきや、ブツブツと確認をしている。せかすのもよろしくないので、最初くらいゆっくりと撃たせよう。
「えいっ」
左手に付いている射出機に付いているレバーを引くと、けたたましい轟音とともにエフテルが後ろに吹っ飛んだ。
「いっっっったーーーーーーい!」
左肩を押さえて、涙になりながらエフテルが立ち上がった。
「師匠!これ本当に安全なの!」
「怪我でもしたか?」
「してないけど!でも衝撃で左腕なくなっちゃうかと思ったよ!」
「まあ、威力は十分ってことだ。ほら、見ろよ」
俺は的に使っていた丸太、いや元丸太を指差す。そこには木端微塵になり、原型をとどめていない木屑があるのみだった。
「え、すごい!跡形もなくバラバラじゃん!」
「初めてなのによく当てたな、流石エフテルだ」
はしゃぐエフテルを素直に褒める。実際、撃った瞬間にビビッて照準をそらしたり、衝撃であらぬ方向へ飛んでいくのが初心者あるあるだというのに、つくづく優秀な教え子だ。
「どうよアルカ!師匠に天才って褒められちゃった!」
「そんなこと言われてないでしょー」
喜ぶ姉に抱き着かれた妹は、なされるがままに成りつつもツッコミは入れていた。
「じゃあ、次はアルカの細剣だな」
俺はアルカにカートリッジを渡そうとするが、アルカは受け取ろうとしない。
「どうした?」
「私は、いい。お姉ちゃんを見てイメージはつかんだ」
「いやでも、試してみないと本番で戸惑うと思うぞ」
「ううん、大丈夫」
うーん、あくまで頑なだ。まあ確かにカートリッジの節約にはなるが、出来れば試してもらいたいところではある。
ちょっと困ったので、エフテルを見ると、彼女はもう一度アルカに抱きついた。
「アルカ、ビビってるでしょ」
言われた瞬間、アルカは顔をそむけた。
「師匠、何かあったら困るから、やっぱここで試し打ちしたほうが良いんでしょ?」
「うん、まあそうだな」
「じゃあ頑張ろ、アルカ」
俺からカートリッジを受け取ったエフテルは、それをアルカに渡そうとするが、頑としてアルカは受け取らない。
「やだ。あんなの使ったら私は粉々に爆発四散してしまいます」
流石にそうはならんが?
まあ、無理して今実践しなくても良いか。
そう判断して、引き上げようとしたところで、エフテルがアルカに耳打ちをした。
「師匠に失望されちゃうね」
「!!」
目を見開いたアルカは、エフテルからカートリッジを奪うように受け取った。
「やる!見てて師匠」
珍しく大きな声を上げたアルカは、細剣にカートリッジを装填した。
まあ、やる気になったようなので、おれは丸太を置いて、エフテルと少し離れたところで見守ることにした。
やると決めたらその後は早かった。エフテルとは違い、ためらわずに炸裂機構を起動した。
「わーーーーー」
アルカは丸太を飛び越えて、細剣の背から噴射した炎の推力のままに吹き飛んでいった。
「あははははは!とんでったー!!」
爆笑している姉。
うん、試して良かった。
怒ったアルカが細剣で姉に切りかかり始めたので、その日は訓練を終了して、村に戻ることとなった。
「炸裂機構はこりごり!」
「いや使いこなせるようになるまで訓練するからな」
アルカは泣き出した。
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