第12話 危険度と狩人等級

「おはよー!」

「…あ?」


いきなり大きな声で叩き起こされた。

家の壁が薄く、なんなら隙間もあるため、遮蔽物がないかのように声が通る。

とまあ、つまり家の外に大声の主がいるわけなのだ。というか1人しか思い当たらない。


「エフテルだな…」


確かに昨日、また明日とは言っていたが、特に今日の約束は取り付けていない。昨日は初めての狩りだったし、疲れているだろうと思い今日は休みにするつもりだった。というのを伝えていないので、真面目な弟子が起こしに来てくれたわけだ。

ゆっくりとベッドから起き上がり、入り口に向かう。目覚めは悪い。


「おはよう、エフテル…とアルカ」


やはり1人ではなく、うしろには欠伸をかみ殺しているアルカがいた。


「うわ、寝起きじゃん。そんな見た目で女の子の前によく出られるなー」

「それは悪かったな。来ると思ってなかったんだよ」


見た感じ、いつも通り…と言っても知り合って数日だが、いつも通りのエフテルで安心した。切り替えてくれてるなら、俺も昨日のことに触れないほうが良いだろう。


「今日は休みにするつもりだった。武器も出来上がるまで1か月かかるらしいし、休息も必要だと思ったから。でもまあ、そこまでやる気なら座学と筋トレでもするか」

「えっ…おやすみ」

「こらこら、扉を閉めるな」


狩人免許の取得試験は、実技の他に一応座学もある。基本的に詳しいことは養成所で学ぶため最低限の知識や教養があれば問題ないが、この2人がそのような知識を身につけているかは確認する必要がある。


「あ、あと、これからは3日働いて1日休む形にしよう。その他休みにするときは事前に伝えるから」

「はーい」


ということで、急遽、教養を確認するテストが始まった。


§


「はい、こんなもんで良いだろう」


一問一答形式で行われたテストは、各自10分程度で終了した。狩人に関する最低限の知識に関しては一般人が知るはずないので今後教えていくとして、意外なことに一般教養は2人とも十分すぎるほどにあった。


「2人ともすごいな。街で暮らしていたのか?」


小さな村なんかでの教育は専ら親か暇な年寄りから口伝で教わることになるが、街では教育機関があるため、体系化された指導を受けることができる。2人からは後者のような教養を感じた。


「んー、そうかもね!」


普通の世間話のレベルでも過去のことは話したがらないようだ。昨日の夜のこともこの辺が関係しているんだろうけども。


「ともあれ、これならあとは狩人の知識を覚えるだけだな。試験の日まではまだ半月以上もあるから、ゆっくり覚えていこう」


狩人免許の取得試験は月に一度、ギルドの支部で行われる。移動時間を含めても、10日程度は時間がある。


「ところで師匠、狩人の知識ってどんなやつ?杭鳥の特徴~みたいな?」

「あいや、個別の特徴については出題されないよ。街で売っているテキストに書いてあるような、用語に関するものかな」

「例えば?」

「危険度とか。あと狩人等級とか」

「ああ、たしかにたまに言ってたよねそんなこと」

「ちょうどいいから、説明しようか」


俺は適当な棒を拾って地面に危険度1~6、狩人等級5~1と書いていく。


「師匠、字汚いね。私が書いてあげる」

「あ、ありがとう」


アルカが綺麗な字で書き直していく。しょうがないじゃないか。利き手じゃないんだから。


「さて、書いたとおり危険度は1から6まで、狩人等級は5級から1級まである」


2人が頷いているので話を続ける。


「まず、各危険度の指標についてはだいたいこんな感じだ」


危険度1、ほぼ無害。

危険度2、やや危険。狩人でなくとも対処可能。

危険度3、危険。狩人武器でなくては対処不可。

危険度4、一人前の狩人が対処可能。

危険度5、非常に危険。対処には熟練の狩人が必要。

危険度6、災害級。単体で街を滅ぼすことができる。


「お前らが知っている生物でいうと、セルは危険度1、杭鳥は危険度2だった」


俺が言うとおりにアルカがスラスラと文字を書いていく。


「この危険度が報酬を決める指針や、依頼を受けることができる狩人の等級を決めることになる」

「え、じゃあ狩人等級を上げないと強い獣とは戦えないの?」

「まあそうなる。危ないからな。じゃあ次はその話だ」


先程書いた危険度の隣に、狩人等級を書き足す。


狩人等級5級、危険度3、

狩人等級4級、危険度4、

狩人等級3級、危険度5、

狩人等級2級、危険度5、

狩人等級1級、危険度6、


一瞬2級のところでアルカの手が止まったが、まず指示通りに書いて、それから質問してきた。


「2級に上がっても危険度6の依頼は受けられないの?」

「そうだな、危険度6からは危険が一気に跳ね上がるから、危険度5をギリギリ倒せるレベルではまだ危険度6の依頼は受けられない。ある程度実績を積んで、2級に上がって、そこからさらに実績を積み重ねたものが1級に昇格できるんだよ」

「そんなにやばい危険度6の獣とかってどんなのなの?」

「そうだなあ」


ぱっと思いついたのはあの日メッツ村に襲ってくるはずだった4匹だった。


「瞬く暗幕、逆逆さ無限蝶、燃える月、絶叫虫…って名前だけ言ってもわかんないよな」

「どんな生き物かも想像つかないよ…蝶々と虫は辛うじて分かったけど」

「ははは、絶叫虫は確かに虫だけど、逆逆さ無限蝶はコウモリだよ」

「それはどんな獣なの?」

「絶叫虫は人間では聞き取れない音波で周りの生物を絶命させる。逆逆さ無限蝶は、2足歩行のコウモリで、外敵を一生目覚めない眠りに落とす…どちらも一瞬で大勢の命を奪う恐ろしい獣だ」


その代わり個体数も少ないので、機会がなければ一生お目にかかることもない。まあ、会わないに越したことはない相手たちだが。


「化け物じゃん!」

「獣なんて人から見たらだいたい化け物だよ。魔物なんてもっと生物離れした見た目をしてるだろ。そういうのを相手するのが狩人なんだ」


実際は危険度5の生物を倒せるだけでも充分熟練の狩人と言えるだろう。それでも脅かすようなことを言うのは、危険な職業なので、不安であればここでやめておいたほうが良いというのもある。

2人がなぜ狩人になりたいと思ったのかは分からないが、本気度が知りたかった。

さて、どうだろうか。

反応を伺うと、


「頑張って強くなって、沢山稼がないとね」

「目指せ億万長者」


2人は変わらず和やかに話している。

特に恐怖や不安を感じてはいないようだった。

やる気があるとなれば、俺にできるのは全力で指導することだけだ。


「よし、この調子でドンドン今日は勉強するぞ!」

「おお、元気だねえ師匠!」

「ちょっと気合入れて指導しなきゃと思ってな!」

「お手柔らかに…」


こうして免許取得に必要な座学はしばらく続いた。

あと、筋トレもさせた。2人は泣きわめきながらもメニューをこなしきったので、少しだけたくましくなった。

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