第2話 初めましてで空中飛行体験
ふと目を覚ますと知らない場所にいた。何処かに旅行中だったっけ?いや、そんなはずはない。普通に昨日も学校へ行っていたはずだ。寝起きで頭がぼーっとして思考が追いつかない。
「ここは何処だろう…。」
部屋の中は旅館の一部屋のようになっている。自分の意思で来た記憶は無いから寝てる間に運ばれる系のサプライズ旅行か何かだろうか。テレビ番組のドッキリ企画で見たことがある。ちょうど昨日誕生日だったし…。誰か来るまで窓の外でも見ておこうと思い障子を開ける。
「ん…?え…?」
外の景色を見てあっけに取られた。本当にここは何処なんだ?どうしてこんなに古風な家しかないんだ?まるで映画のセットのように綺麗な街並みが完成されている。完全に目が覚めた。
「人を探しに行こう。」
この状況を説明してくれる人が欲しい。なんだか嫌な予感がする…。
そんな時だった。ちょうど人を探しに行こうとしたら誰かがドアから入ってきた音がした。きっとこのサプライズ旅行を計画した家族の誰かであろう、というかそう願いたい。足音がこちらへ近づいて来る…。
「お目覚めかな?」
低くて綺麗な声だった。そこにいたのは家族ではないうえに、普通の人間ですらなかった。その人は、見上げない人の方が少なそうなぐらい背が高くて、細かく磨った墨のような、見ていると吸い込まれそうになる黒色の大きな翼を持っていた。
「……?コスプレ…??」
完成度高いなぁ。普通に空飛べそうだな。なんて元々鳥や蝶の羽が好きだった私は無意識にその翼に夢中になってしまっていた
「コスプレ…では無いかな〜。本物だよ、ほら、こんなにも動く。それにこの翼で空だって飛べるよ。」
目の前の高身長コスプレイヤーは何かのキャラクターになりきってでもいるのだろうか。確かにネットにはなりきりという文化がある。翼に思わず目を奪われていたが、よく見ると目の色もとても綺麗な黄色だった。綺麗で鮮やかというか、何処か目の離せない虎視眈々と何かを狙っているかのような目だ。
「そうなんですね、凄いです。ところで、ここが何処だか教えてくれませんか?」
思わず外見に気を取られていたが、本来1番聞きたいのはここだ。ここが何処だか本当に知りたい。
「その反応はもしかして信じてないね??冷たいなぁ…。それにここが何処かと聞くけど君の予想は?」
意地の悪そうな笑顔で問いかけてくる。
「私の予想…?えーっと、私の家族が企画したサプライズ旅行でしょうか…?実際の映画のセットを見てみよう!みたいな…。」
直ぐには答えてくれない面倒なタイプらしい。
「不正解だねぇ。何一つ合っていないよ。ここには君の家族もいないし、この窓から見える街並みは映画のセットなんかじゃない。実際に民が暮らしている本物の街並みだ。」
どういうこと。
「なら、私はなんでここに…?それに正解は…?」
そろそろ困惑してきた。あまりにもこの人が目を見て話してくるから。さっきからこの人の目から視線を逸らせない。逸らしたら負けな気がする。
「どうやら色々な情報に慌てているようだね。そうだな、じゃあ答え合わせと一緒に今の話が本当のことだと証明してあげよう。」
そう言うと気づいたら私は彼に抱えられていた。一瞬のことでどうやったのか分からないが、そんなことよりさっき目を奪われていた綺麗な翼が目の前にあり少し感動する。彼は「あらあら、俺の翼に見惚れちゃった??」なんて呑気なことを言いながら窓から飛び出そうとしている。え?飛び出そうとしている…?頭がおかしいんじゃないか???
「何してるんですか!降ろしてください!なに飛ぼうとしてるんですか?!」
必死に抵抗するが聞いている様子は一切ない。
「大丈夫だーって、まぁ初めての空中散歩でも楽しんでなよ。じゃあ行くよ。」
そう言って彼は窓枠から足を離した。
私は確実に死んだと思った。こんなコスプレ異常者のせいで死ぬなんて最悪な最後だ…。来るであろう衝撃に備えようと目を固く瞑っていたがいつまで経ってもその衝撃は来なかった。不思議に思って恐る恐る目を開けて見ると、私はちゃんと彼に抱えられながら宙に浮いていた。窓から見えていた景色が下にある。
「どうかな?これでさっきの話が嘘ではないと分かっただろう?」
あまりの驚きに声が出ない。ありえないことが自分の身に起きていて怖いながらに少し期待してしまっていた。
「あ、はい…。空に浮いてますね…私たち…」
「反応薄いねぇ…大丈夫?感情生きてる?他にも色々出来ることあるんだけどびっくりさせちゃうと思うから今はやらないでおいてあげるよ」
「ありがとうございます…?」
この人が嘘をついていないことは分かったが、私は空を飛べるわけではない。現在、私の命の手網を握っているのは見ず知らずの怪しいこの人なのだ。慣れてくると怖くなってくる。
「取り敢えず安全な場所に下ろしてくれませんか?」
「え、もういいの?人間は空を飛べないんだからもう少し堪能しとけば?」
「大丈夫です。充分堪能できました。貴重な体験をありがとうございます。」
「あ、そう?じゃあいいけど。それなら、移動するね。」
そう言うと、彼は急上昇を始めた。私は下ろしてくれと言ったはずだ。意味がわからない。あまりの速さにまた目を瞑ってしまった。ようやく止まってくれて目を開けるとまたもや知らない部屋にいた。
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