最後まで愛せ
奇妙なきのこ
第1話 見てくるナニカ
「あなたは不老不死になれたら何がしたい?」
人類が長い間求めてきた不老不死、追い求めた人々は何故それを欲しがったのだろう。もしも手にすることが出来たのなら、何がしたかったのだろう…。
中国の始皇帝、エジプトのクレオパトラ、中世のヨーロッパの貴族たち、様々な人間が不老不死を追い求めた。けれど、それを実現できた人間は 1 人もいなかった。水銀を飲んだり、真珠を酢で溶かして飲んだり、ミイラを煎じて飲んだり、彼らが取った行動は科学を手に入れた私たちにとっては馬鹿げた話だろう。何故そこまでこだわったのか。何故死にたくなかったのか。何故老いたくなかったのか。地位、権力、財力、これらを手に入れた人間は次に永遠を求めるのだろうか。永遠とは存在するのか。そんなことを考えながら私は家に向かっていた。私は死にたくない。死ぬのが怖い。別に権力や地位を手に入れたわけではないがたまにふと考えることがある。それに死ぬのは怖いが死後の世界は少し気になる。何故こう思うのかは自分でも分からない。というか何でこんなことを考えているのか分からない。
「ただいま〜」
庭には白粉花が咲いていた。母親のお気に入りなのだ。今日も健気に可愛く生きている。今日も 1 日乗り切れたという達成感とともに、やっぱり月曜日は憂鬱すぎるなと考える。でも何故か、家に帰るとさっきまで朝礼をやっていたような気持ちになる。時間が過ぎるのって早いのか遅いのか分からない。私の部屋は何の変哲もない普通の部屋だ。壁紙が薄緑色で、ちょっとした推しのグッズが飾ってあったり、勉強机があったり、本棚があったり…。至って普通の部屋だ。
まるで誰かの人生のように。
「あーーーー…」
何もかもが退屈に思えて全てを投げ出してしまいたいという気持ちに私は度々なる。何か特別なことがしたい、非日常的な体験がしてみたい。こんなことを毎日のように思っているけれど、別に行動に移せるというわけではないから結局変わらない。椅子に腰掛けていつものように SNS を開く。留学に行っている同級生たちのキラキラとした投稿や「放課後デート♡」などといった妬ましい投稿がいつものように流れている。こういう投稿を見ていると何もしていない自分のことが悲しくなってくる。哀れな人間だね、可哀想に。何処かで SNSは性格を悪くするなんて聞いたことがあったような、無かったような。何か楽しいこと起きないかな〜、重大なハプニングとか起きないかな〜なんて考えながら過ごしていると、いつの間にか寝てしまっていたようだ。起きると 21 時、別に異世界転生とかタイムスリップはしていなかった。なぜ起こしてくれなかったんだ、などと階段を上がって母親に悪態をつきながらご飯を食べてお風呂に入る。すっかり寝る準備をしたあとに私は気づいてしまった。課題をやっていない。現在時刻は 23 時、6 時半には起きるから少なくとも 24 時には寝たい。ハプニングが起こって欲しいなどと望んだがこんなハプニングは望んでいない。最悪だ。
「めんどくさい…。」
やるしかないと決心して課題を開く。ようやく終わったと思った頃には午前 2 時を過ぎていた。うわぁ、丑満時ってやつだと背後が真夏なのに寒くなりながら寝ようと思い椅子から降りて振り返ると、そこには知らないナニカがいた。
まじかよ、私は全力で見えていない振りをした。私には見えていない、絶対に本当に見えていない。でもこっちを見ている…気がする…。怖い、怖すぎる。こういう時は気づいていないということを相手に分からせるのが重要だって聞いたことがある。
「もう 2 時じゃん。早く寝よう〜」
恐怖という感情を隠しながら時計を見ていたふりをして階段を降りてベッドへ行く。あれがいわゆる魑魅魍魎というやつなのか…。怖すぎるだろなどと考えながら布団を被っていると自分の第六感的なものが感じ取った。多分さっきのがこちらを見ている。その状態で数分経って私は気づいた。もし本当にそこにいるのならば、あれはこちらを見ているだけということに。さっきは一瞬しか見なかったから黒くて縦に長かったことぐらいしか覚えていない。恐怖を覚えるのは相手のことを知らないからだと本で読んだことがある。気になってしまった。こういう奴らは相手にしないのが 1 番の得策だと思うが不覚にもどういうものなのか気になってしまった。怖がりながらもそっと、気づかれないようそいつの方を覗いてみる。
そいつは無言でこっちを見ていた。目が合ってしまったので私が気づいていることがバレてしまったと思う。ここからどうしよう。まだ見えていないフリを続けるか?いや、もう手遅れだろう。怖くて体が動かない。声も発せられない。唯一の希望は相手が何もしてこないことだけだ。しかし、何もないまま時間が経ちだんだんと気持ちも落ち着いてきた。まだ体は動かせないが、瞼は閉じられる。何もしてこないなら、寝てしまおう。もしかしたら、睡眠不足による幻覚かもしれない。そうだと信じて私は目を閉じた。
次の日、起きたら特に変わったことはなかった。あの変なやつも消えていた。やっぱり幻覚だったのかもしれないと少し安心しながら学校へと向かった。学校に着いて取り敢えず適当に挨拶をする。返してくれる子もいれば、返してくれない子もいる。朝は比較的みんな眠いらしく、机に伏せて朝礼まで寝ている子すらいる。
「おはよ、怜。今日の提出物ってやった?」
友達の真衣だ。今日も前髪をバッチリスプレーで固めている。もはや一種の芸術作品だ。彼女の前髪が崩れているのは一度も見たことがない。
「やってきた…。昨日2時まで起きて…。まじで眠い〜」
これはきっと見せてくれと言ってくる流れだな…。
「うわ偉すぎる。ちょっとだけでいいから見せてくれない??まじで何もやってないの。」
どんぴしゃだ。
「全然いいよ〜、でも2限までに間に合う?授業内に提出だから多分間に合うと思うけど。」
「気合いだよ!!終わらせるんだよ!!」
その勢いに思わず笑ってしまった。終わるといいね。私は別に自分がやってきた課題を友達に見せることに抵抗はない。ただのクラスメイトに写させてと言われるのは自分でやれよと気が引けるが、友達なら特に何とも思わない。今は忙しいだろうからあとで昨夜のお化けを見た話しよなどと考えていると先生が来た。
「朝礼を始めますよ。席についてください。」
その言葉でクラスメイトたちが一斉に席に着く。今日も一日耐えてみせよう。それでも1日が始まるというのは辛くて、何も考えたくなくて、ぼーっとしていたら朝礼はいつの間にか終わっていた。
「きりーつ、気をつけー、れーい」
間延びしたやる気のない週番の声が教室に響き渡る。先生が出ていくと教室の中が一斉にうるさくなる。さて、真衣は課題が終わったのだろうか。
「真衣―?どう?終わりそう?」
「何とかなりそう!まじでありがと…。助かった…。」
この様子なら課題に関してはどうにかなりそうだ。
「それはよかった。それならさ、聞いて欲しい話があるんだけど…。」
私は昨夜の出来事を真衣に話した。彼女は私の話を作り話だと思ったようで、面白がりながらネタで精神科の受診を勧めてきた。
「本当に見たんだってば!ネタじゃないのに…。めっちゃ怖かったんだよ!?」
本気で見たことを伝えると、半信半疑ではあるが真衣は話を信じてくれて今度はお祓いを勧めてきた。
「お祓いねぇ…。今度行ってみる。」
「そうしなそうしな〜」
そんなことを話していると授業の始まりの鐘がなった。私たちは何とか先生が来るまでに慌てて準備を終えた。教科書も無いまま授業に臨んでいたら殺されていただろう。
2限では無事、真衣は課題が終わったらしく授業内に提出ができていた。1限の授業中にもやると言っていたから終わるといえば当然だが。そのまま何事もなく一日が終わり、私は帰途についていた。
今日もあの変な怖いやつ出てきたらどうしよう。やっぱりお祓いとか行ったほうがいいのかな…。私はこんなことばかりをうじうじ考えていた。心なしか天気も怪しくなってきた。今朝の天気予報では一日中晴れだと言っていたのにな。
「ただいま〜」
いつもと同じように自分の部屋へ行く。今日は早く寝ようと思い、22時にベッドへ向かった。昨日のやつはいないみたいだ。その日は安心してよく眠れた。そして次の日も、その次の日もあの変なやつは現れなかった。
それから1ヶ月ほど経ったとき、私の18歳の誕生日を迎えていた。お酒やたばこはまだダメだが一応成人したこととなる。普通に美味しいケーキを食べて、友達から誕生日プレゼントを貰って、色んな人にお祝いしてもらえた楽しい1日だったなと幸せな気分のまま眠りについた。そう、誕生日で浮かれていた私は1ヶ月も前の不気味な体験のことなんて覚えてもいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます