第3話 マオマオ視点
現在、私は司がアトリエと呼んだ空間で椅子に座っていた。そこにはアトリエと名の通り様々な油絵が飾られており、前世の私を描いたであろうクオリティが引くほど高い絵が溢れている。
正直こそばゆくはある。こいつは前世でも私に純粋な、そして狂信的な好意を寄せていたし、こいつの見た目も合間って腹心に据えていたのだ。
(……まさかあの頃の姿そのままとは思わなかったがな)
チラリと正面に座る司を見る。
日本人とは思えない綺麗な金髪。鮮血のような真紅の瞳。そこらのモデルや芸能人では足元にも及ばない、中性的で整った容姿。クラスの女子が見たら黄色い声を上げるであろう青年が、真剣な目でキャンバスと向き合っている。
(相変わらず見た目だけはいいんだよなこいつ……)
油断すると感嘆のため息が溢れそうになる。だがそんなもの見せるわけにはいかない。なにより私と違い大金持ちの跡取りに生まれ変わった司に、少しだが嫉妬しているからだ。
「いいですねー。ディ・モールトいい表情です。素晴らしい美しい愛らしいぃぃぃッ‼︎」
時々聞こえてくる狂気の声はシカトだ。黙っていたらただのイケメンなのにもったいない。
「なあ司。お前、私をなんだと思ってるんだ? いくら前世で主従だったとはいえ、まだあの頃のままなのか?」
その質問に司の手がピタリと止まる。だがすぐにまた高速で動きだした。
「僕にとってマオマオはいつまでもマオマオです。具代的に申し上げるなら、頭からガジガジ噛みつきたいです。味わって、反芻して、そのまま絶頂と幸福な死を迎えいれたいです」
「勝手に死んでろ馬鹿者」
呆れとともにため息が漏れる。だが内心は悪い気はしない。
『なんだよその髪の色ー! 変なのー!』
『アンタの態度が気に食わないのよ。友達でもないくせに』
――人間は下らない。生まれついての、魂に刻まれた容姿は変えようがない。変えようとも思わない。
だがそれを目の敵にし、弱者らしく群と為す奴らは残酷だ。
その気になれば全員消し炭にできた。だがこの世界ではそれはご法度らしい。元の世界とは比較にならない数の人間に、圧倒的に進んだ武器や兵器を前にしたら、私とて自身を守れるか分からない。
常に孤独だった。だがそれは恐らく今日までだ。
「ご命令とあらばこの卑しい豚畜生の命などいくらでも差し出します。なんならクローンで複製して100体ほど差し出しましょうか?」
屈託のない歪んだ笑顔。内容はともかく、こいつは私に嘘をついたことがない。だからこれも本心なんだろう。
「ふふっ、馬鹿者め。お前の顔に免じて許してやる」
それがなぜか嬉しくて、しばらくぶりに頬がわずかに緩むのを感じた――――。
P.S 私の肖像画は10分で写真並のものが完成していた。ドン引きした。
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