第6話 別②


「……私ね、この話聞いた時、迷惑なことしちゃったかなって時々思うんだよね」と彼女は悲しそうな顔をしながら言う。


「……ッ」


そんなことないって言いたかった。

だけど言葉にできなかった。



「実際、迷惑だった、よね?」

「……」

違う。迷惑なんかじゃない。



「何も言ってくれないってことは、そう、なんだね……」


迷惑なんかじゃなくてむしろ感謝しているんだ。

お前のお陰で友人って良いな。

学校って楽しんだって思わされたんだよ。



「でも私は少なからず、兎黒くんの友達になれて良かったと思ってる。それだけは覚えといて」


彼女はそう言い、またみんなの元へと走っていった。




たったそれだけのことを何も言えなかった。

言ったらどうしてか、彼女との繋がりがなくなってしまう。

そう思い、何も言えなかった。


これが自分の首を絞めると知らないで。






クラス会も終盤になり、彼女のお父さんが迎えに来て、見送りの時間になった。

各々彼女に最後のお別れの言葉をかけていた。

クラス会では笑っている人が大半だったのに、今ではこれでお別れなんだということを実感し、泣く人がほとんど。


彼女は相も変わらず、ふにゃふにゃした笑顔で悲しい素振りを見せずにクラスの皆と最後の時間を惜しんだ。


その顔を見て、やっぱり俺はムカついた。

どうしてそんな笑顔なんだよ。これで最後なんだろ?


そう思いながらも、結局俺は彼女と何も話そうとしなかった。





彼女はお父さんの車に向かい、


最後に「本当に今までありがとう。卒業できなかったけどみんな私の友達」と伝えて去っていった。



俺は彼女のどこか寂しそうな背中を見て、ふと気付く。



あ、俺。

彼女のことが好きだったんだって。


どうして今まで意地になってしまったのか俺には分からない。

だけど、あの背中を見てしまったら彼女に恋していたことに気付かされたんだ。




追いかけろ。じゃないと、絶対後悔するよ?

脳内では、そうやって自分自身に訴える。

今でも体を動かしたい気持ちでいっぱいだった。


でも、気持ちだけはそう思っていても体は実際に動かなかった。




克服したつもりだった。

彼女のことは信用しても良い。裏切ることはしない。

そう思っていても、恋というものには臆病になっていた。



だって、きっとこれが初恋なのだから。




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