第5話 過
それは五年前に遡る。
俺が、中学一年生の頃。
この頃は友達がたくさんできれば良いと思い、今以上にたくさん友達がいた。
上辺だけの友達かもしれないけど友達がたくさんいることに嬉しさを覚えた。
その中でも親友であった
俺の家庭事情もきちんと理解してくれていて、俺が家に帰りたくないと言っても快く彼の家に何度もお泊りしていた。
親友以上、家族みたいな仲だった。
和哉は正義感があり、ダメなものはダメと友人はもちろん、自分の親にもはっきり言う姿がとてもかっこよかった。
俺にはないものを持っていて、俺にとって彼は憧れの存在だった。
ある日、他校の生徒が柄の悪い連中に絡まれている現場に遭遇したが、見て見ぬふりをしようと俺は思っていた。
だけど和哉は違った。何の迷いもなく助けに行ったのだ。
あぁ、かっこいいなと俺はそこに立ち尽くしながらそう思っていた。
だけど彼は助けに行ったんじゃない。
彼もその喧嘩に混じりにいったのだ。
「お、和哉も来たのか」
「ストレス発散したくてねぇ、いやぁ、久々の弱いイジメ楽しいねぇ」
「うーわ、正義感強い面しているくせにその言葉は悪いなぁ~」
その光景に目を疑った。
これは夢?和哉はどうして加勢しているの?そいつらとは仲間なの?
ねぇ、答えてよ、和哉。
彼が違う人間になったみたいで俺はただそこに立ち尽くすしかなかった。
そんな俺を見た柄の悪い連中の中の一人が彼に「おい!今の姿、お前の友達に見られてるけどいいのかよ?お前、チクられるぞ」と言う。
それに対し彼は「……あぁ、いいよ。どうせあいつ俺の友達じゃないし。家庭に事情があるやつと仲良くなっていれば俺の株が上がるし。所詮、ただのお飾りだから。それにチクってもどうせあいつの言うことなんて誰も信じないでしょ」と彼の口から衝撃の言葉が漏れた。
俺はその言葉をすぐ信じることができなかった。
目の前にいる彼は和哉であって、俺の知っている和哉ではない。
その日は彼に声かけることも出来ず、その場を立ち去る事しかできなかった。
どうすることも出来ない俺は、情けないと思う。
翌日。
昨日のことについて話そうと学校へ向かうと彼は俺の姿を見るなり、無視をする。
最初は何かの遊びの一環だと思い、「おい~今日は何の遊びなんだよ~教えろよ~」と冗談っぽく話しかけても何も話さない。
周りの友人にも話しかけても一斉に俺のことを無視し始めた。
彼に何か吹きこまれたような感じみたいで友人の中の一人が俺の耳元に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で「ごめん」と呟く。
その日から俺は一人ぼっちになった。
それに耐えきれなくなった俺は、唯一の友人でいた秋吉のことも自分から避けるようになった。
これが友達を作らなかった、本当の理由。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます