第2-1話 友
翌日。
彼女がまた話そうと言っていた約束をめんどくさいので忘れているフリして今日はどこか暇つぶしできるところを探そうと思った矢先、彼女は俺を見つけるなり、小さく手を振る。
そして小声で「放課後、絶対旧図書館に来てよね!約束!もし、約束破ったら何するか分からないよ~」とニヤニヤした顔で俺を見る。
「は?」
彼女が何をしでかすのか分からないけども、どこか恐怖があった。
どうしてそう思うのかこの時は不思議でしかなかったけど。
気が進まないが、放課後。
俺は仕方なく旧図書館に向かった。
彼女は先に来ていたようで、難しそうな本を片手に真剣に読んでいた。
コンコンと扉を鳴らしても、俺が彼女の近くに来ても俺の存在に全然気付かないようだった。
話しかけるのも面倒──いや、野暮だと思ったので、とりあえず離れた場所で見守った。
パタン
一時間後、彼女が読んでいた本を閉じる音が聞こえた。
あれから彼女は俺の存在に全く気付かず、最後まで本を読んだのだった。
本を読み終わったなら近付いても良いよなと思い、彼女の傍に駆け寄った。
すると彼女はようやく俺に気付いたのか「仁科くんいつからそこに!?」と驚いた顔をした。
「かれこれ一時間前から」
「はぁ~やってしまった。ごめんね、仁科くん」と彼女は謝る。
「私、本を読み始めると周りが全く見えなくなっちゃうみたいで……親や友人から何度も注意されているのに…ほんとごめん」と彼女自身の癖について語り、もう一度謝る。
そんな本好きな彼女のことを邪魔したくないと思った俺は、
「……別にいいけど、さ。そもそも俺本好きじゃないよ?静かだからここにいるだけ。それに昨日『シェイクスピア』の作品読むためにここにいるって言ったけどそれも嘘だから」と本当のことを彼女に伝える。
俺の話を聞いた彼女は残念がる様子はなく、むしろ知っているようなすました顔をする。
「……なんとなく分かってたよ。でも私が仁科くんとお話したいと思ったからなの」と予期もしない発言をする。
その言葉に俺は呆気にとられた。
授業ではほとんど寝てばかりでクラスメイトと馴染むことをしようとしていない俺と話したい?
何を言っているんだ、この女は…。
「仁科くんってさ、誰とも仲良くしようとしないけど、案外話しやすいし、たくさん話しかければ素を見せてくれるかな~と思って。放課後ここに来てっていったのはただの口実を作っただけなんだ」と俺のことを全く知らないくせに嬉しそうな顔をする。
そして「単刀直入に言うと仁科くんとお友達になりたいと思って!」と彼女は手を差し出す。
彼女の言葉を聞いて、どうして俺と友達になりたいんだと疑問に思う反面、不覚にも嬉しいという感情が湧いた。
──いやいや友人関係なんて面倒なだけだし!
いつか裏切られたり、利用されるだけなんてこともあるんだし。
友人なんていなくても不便じゃない。
そう思うから友人なんていらない。
……でも彼女は俺に対してまっすぐに友達になりたいという以外は何も持ち合わせてない様子だった。
信じてみるのもありかな、とほんの一瞬思った。
「……そこまで言うなら友達になってあげてもいいけど?」と照れ臭そうに彼女の承諾に乗るのだった。
「フフ……上から目線!でも嬉しい!これからお友達としてよろしくね!」
俺たちは友達になった証として握手を交わす。
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