第1話 会

高校二年の春。


それはクラス替えの時から始まった。



俺は仁科 兎黒にしな とぐろ

学校は正直好きじゃない。


どうでもいい友人関係や将来役に立つのか分からない勉強ばかり。

毎日が退屈で仕方なかった。


本当は学校なんて行かず、ゲーセンとか行ってサボればいいんだけど、親にバレるのはもっと面倒。

だから仕方なく毎日学校へ重い足を運びながら行く日々。


授業なんて聞かず、寝て、食べて、寝ての繰り返し。

学校とは?という概念を持ち合わせながら。



もちろん友人なんてものはいない。


最初は必要以上に話しかけてくる奴らばかりだったが、俺がそっけない態度や話しかけないでオーラを放っていると、自然と俺の周りに人が寄らなくなった。


まぁ一人が好きだから逆に良かった。

それが強がり、なんかじゃなくて。



そんな俺が唯一好きだった場所、それは旧図書館だった。



とりわけ本が好きってわけではない。

誰にも邪魔されない静かな場所がただほしかった。


この学校の旧図書館は別館に新しい図書館ができてからほとんどというか、全くと言っていいほど生徒が出入りしていない場所。


いつも貸し切り状態。

だから放課後は大抵ここにいることが多い。



なんでここに来るかって?

学校が嫌いなら帰ればいいじゃんって?



それはな、学校が終わってまっすぐ帰っても両親は一個上の兄貴ばかりしか構わない。


仮に早く帰っても、お前には一切期待していない、兄を見習え、いるの気付かなかった。などと俺のことを【俺】として見てくれない。


俺は始めからそこにいないかのような空気みたいな扱い、見放されている感覚だった。


そのくせ、俺が学校をサボっていると知るとガミガミ文句を言ってくる。

俺のことなんて興味ないくせに世間体を気にしてくる。



だから家にいるより、ここにいた方が落ち着く。都合がいい場所。





なのに、そんな好きな場所に一人の女が来た。




「あれ……?仁科くんだよね?なんで旧図書館にいるの?」

「なんでって…」


本当はここで寝ようとしているなんて言えないよな、そう思い、近くにあった本を手に取る。


そして「これを読むためにここにいるんだよ」と咄嗟に嘘をついた。


「え!?仁科くんってシェイクスピアが好きなの!?」と女は目を輝かせる。

俺が手に取った作品はシェイクスピアの『テンペスト』だったのだ。


シェイクスピアの作品なんて全く読まないけど、とりあえずこの場を凌ごうと「まぁな」とまた嘘をつく。




「──というかお前誰だよ!」



「なっ……同じクラスなのに失礼な!私は仁科くんと同じ二年C組の東条 茉白とうじょう ましろだよ!」



学校自体に興味ないせいか、同じクラスであったことも気付かなかった。


「わりぃ……同じクラスだったのか。……それよりお前もなんでここにいるんだ?」


「私も本を探しに来ただけだよ、新しい図書館はさ、新刊だったり最新システムっていうのかな?なんか導入されていて従来の図書館らしさがなくて私は好きじゃなくてさ。 旧図書館の方が私らしさっていうのかな、楽しいワクワクを感じれるのがここなんだよね!」とさっき以上の目の輝きを放ちながら彼女は言う。



「……フッ」


かわいい顔して何言ってんだと思った俺は思わず笑ってしまった。


「!!なんで笑うの!?もしかしてバカにした!?」


「いやバカにしてない。なんでか分からないけどなんか面白くて……ククッ」


「もう………あっ!こんな時間!私そろそろ帰らないといけないからまた明日!放課後、ここでまた話そう!」


「いや、俺、別に本が好きでいるわけじゃ……」


俺の話を聞かずに颯爽に去っていた彼女。






これが俺の運命を変える茉白との出会いだった。


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