第9話 『昼のワイドSHOW!』 「藍光園事件」当時の職員へのインタビュー
※一部音声を変えています。
テレビには受話器を握るリポーターの姿が映し出され、音声モザイクをかけられた女性の声が流れる。
「はい、あの時のことですね。覚えています。私はその日宿直で、東棟の2階にいました。深夜に黒いバッグを持った若い男が現れて、『君たちに乱暴はしない、早く利用者の部屋に案内しろ』って言うんです。なぜか聞くと、『不要な奴らを排除するため』って……。噂に聞いていた元職員の梶原だと分かりました。怖かったですよ、頭が真っ白になりました。
言われるまま男を部屋に案内しました。寝ている一人を見て、『こいつは話せるか?』と聞かれました。重度の方で話せないと知っていたけれど、話せると答えたら『嘘をつくな』と怒られて……。
男は部屋を回り一人一人に名前を聞いていました。答えられない人を、『こいつらに生きている価値はない』って言いながらナイフで刺しました。
すみません、思い出してしまって……」
鼻を啜る音。
【泣き出すAさん。取材は中断】とテロップ。
やがて取材が再開。Aさんは切々と語り出した。
「利用者さん達を守れなかったことが何より悔しいし、あの時のことを思い出すだけで死ぬほど辛いです。
皆をいつも見てました。今日はご機嫌だなとか喜んでいるなとか、悲しんでいるなとか怒っているなとか、言葉がなくてもそういう感情は伝わってきました。
仕事は精神的、肉体的に辛いこともありましたがそれだけじゃなくて、利用者さんに救われることも沢山ありました。
亡くなった利用者さんの一人がまだ20歳だったんですね。小さな時、見た夢の日記を見せてくれたことがあります。勇者になって、魔法使いと竜と一緒に魔物を倒すっていう内容だったんですが……。「この魔法使いは私だね」と言ったら、にっこり笑ってました。
喋れるかどうかだけで人間か決める人に、心がないとか簡単に言って欲しくないです。
私は、実は短歌を詠んでいるんですが……。
償いになるか分かりませんが自分の言葉によって、亡くなった方の魂や遺族の方の心が少しでも救われたらいいと思ってます」
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