第9話

 僕は今、女児よろしく花を摘んでいる。


「みてみてジューゼンさん、お花の冠だよ!」


「おぉ、フランちゃんは手先が器用だね!」


「えへへ、ジューゼンさんにあげるね!」


「あ、ありがとう…」


そう言ってフランちゃんは僕の頭に花の冠を乗せた。


「わぁ、ジューゼンさんお姫様さまみたい!」


「あはは…」


「あっ、そうだ!ちょっとまってて!」


と、フランちゃんは家へと戻っていった。


「でも驚いたな…あの山岳地帯の内側にこんな土地があるなんて…」


上空からは確認出来なかったが、どうやらこの山の内側は魔力の質が良いらしい。


「ジューゼンさん、お待たせ!」


「ん、おかえり。」


フランちゃんは両手に何かを抱えて来た。


「お弁当持ってきたよ!外で食べるともっとおいしいから!」


「ありゃ、もうそんな時間かぁ」


なんだかあっと言う間に時間が過ぎていく。


「ほらジューゼンさん、いただきますするよ!」


「うん」


「「いただきます!」」


と、手を合わせてた時。

家に向かって特大の火球が飛んできた。


「はっ?」


突然の事に、驚き呆然とする。


「パパの家が燃えてる!」


そう言ってフランちゃんは家へと駆けていった。


「ちょっ、フランちゃん!」


僕はフランちゃんを追いかけた。


 家は木造だった為、瞬く間に燃え上がっていた。


「チッ、誰もいねぇのかよ」


「お前だな!パパの家に火を付けたのは!」


家を見下ろすように黒髪の男が立っていた。


「ハァ?なんだこのガキ…消えろ!」


「きゃっ!?」


黒髪の男が放った火球はフランちゃんの頬を掠めた。


「あっぶな…、大丈夫?フランちゃん。」


「ジューゼンさん、家が!」


「うん、大丈夫だよ!僕がなんとかするからね。」


「外した?この僕が?」


そう言って黒髪の男は頭をかいている。


「とりあえずここは僕に任せて、フランちゃんは安全な場所に隠れてて!」


「う、うん…!」


僕はフランちゃんをその場から逃す。


「お前か!?お前がやったんだな!?魔力のないガキが余計な真似しやがって!」


「ははっ、ガキ?僕はお前より歳上だよ!」


僕は黒髪の男に向かって走っていく。


「このゴミ共が…!僕の伝説の始まりを邪魔しやがって!死ね!死ね死ね!」


黒髪の男は怒りに任せて火球を連発する。


「はっ、ビギナーかよ!そんな魔法じゃ当たらねーよ!」


正直避けるのはギリギリ、肺もキリキリしだして全力で走るのはキツい。


「クソクソクソ!僕は世界を救うんだぞ!それを邪魔するのは誰でも許さない!」


さらに火球の量も威力も増していく。


「おいおいバケモンかよ…なんて魔力量してんだ…」


並の魔法使いの10倍くらいは魔力を消費している筈だが、勢いが衰えるようには見えない。

岩陰に身を隠すので精一杯になってきた。


「クソガキが!隠れてねぇで出てこい!」


と、怒りのボルテージを上げていくのをよそに次の策を考えていた時。


「もうこれ以上、めちゃくちゃにするのやめてよ!」


なんとフランちゃんが出てきてしまった。


「ばっ…!出てきちゃダメだ!」


「ははっ!今最高にイライラしてんだ、骨も残さず消してやるよ!」


黒髪の男はフランちゃんに向かって一番大きな火球を飛ばした。


「くっ…そ!間に合わない!」


魔力切れを起こしていなければ…

と自分自身に嫌気がさす。


「フランちゃん!逃げて!」


と、僕は叫んだが


「あっ…」


フランちゃんは足がすくんで動けなくなっていた。


「まずは一人めぇっ!!」


火球は轟音を響かせ爆発する。


「あははははっ!最高だ!最高に気持ちいい!これだよこれ!」


黒髪の男は高笑いしている。


「僕の魔力が切れてなけりゃ…」


自分の無力さに打ちひしがれる。


「次はお前だ!早く出てこい!」


と、黒髪の男が叫んだ時。

そいつはなにかに吹き飛ばされた。


「なっ!?」


黒髪の男は勢いよく岩壁に打ちつけられた。


「ごぼっ!?何が…」


「おぉ良かった死んでないんだな」


「んだテメェ…!痛ぇじゃねぇか!!」


「あぁ?ゴミクズ以下のカスが俺の娘に何してくれてんだ?」


「イェン!」


現れたのはイェンだった。


「大丈夫!?ジューゼンさん!今治療するね!」


「えっ、フランちゃん!?無事だったの!?」


「うん!ギリギリの所でパパが助けに来てくれたの!」


「そっか…良かったぁ…」


と、僕は身体の力が抜けていく。


「十全、お前には言いたい事も聞きたい事も沢山ある」


「あ、あはは…うん…」


「だがその前に俺はゴミ掃除の時間だ、その間お前はフランを死ぬ気で守れ。」


「…わかった!」


そう言ってイェンは黒髪の男の元へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る