第7話

 僕の母はエルフで魔法使い、父は人間の戦士で元々旅の仲間だったらしい。


その内お互いに惹かれあい、その間に産まれたのが混血の僕だ。


僕は生まれつき魔力と丈夫な身体に恵まれ、魔導と武道の両方を極める道に進んでいった。


 そうしてある日、僕は依頼の途中でギリギリの状態に陥ってしまう。


「ふぅ…これはちょっとまずいかもな…」


敵の陣地に踏み入ってしまい、今はなんとか身を隠している。


「敵の数は…大体200くらいか…、残りの魔力を考えても打てて範囲を2.3回、転送魔法を使うには足りない…」


身体が丈夫なだけで、力が強い訳ではない。

近接で戦うには自分にバフをかけるしかない。


「移動速度に魔力を回すか…?でもそれじゃ10分も持たない…」


そうやって悩んでる間に敵に囲われてしまった。

どうやら感知魔法の効果が切れてしまったらしい。


「あっちゃぁ…やっちゃったなぁ…」


敵は中型の魔獣、近接で戦うには無謀。


「仕方ない、なんとかなれ!」


[攻撃範囲拡大][炎壁]


魔法で炎の壁を作り、なんとかその場凌ぎを取る。


「残りの魔力で行ける場所でいい!撤退だ!」


[転送魔法]


 なんとかあの場面から抜け出せはしたが、残りの魔力が少なくてすぐ近くの湖畔に来た。


「はひ〜…、今度から調子に乗るのはやめよう…」


と、反省しながら煤で汚れた身体を洗う為に水面を覗いた時、その異変に気付いた。


「なっ、母さん!?にしては幼い…ってかコレ僕か!?」


どうやら僕は女の子になってしまったらしい。


「呪いか?デバフか?」


確認しようにも魔力が空になってしまい、何も出来ない。

それに加えて、


「な、なんか身体が重い…」


さっきまでは感じなかった重量感。

気付けばどんどん地に伏せていった。


「鎧か…?この鎧なのか…?」


と、僕は這いずるように鎧から抜け出す。

すると、ずいぶん身体が軽くなった。


「もしかして…いや、流石にそんな訳…」


嫌な予感が頭をよぎったが考えないようにした。

とりあえず気を落ち着かせる為に、自宅へ帰る事にした。

そして、帰宅途中でへばってしまい僕の嫌な予感は的中してしまう。


 ヘロヘロになりながら帰宅すると、母が出迎えた。


「母さん!?なんでここに!?」


「あぁ、お前の魔力の質が変化したからまさかと思ってな!」


エルフの母、トモエ。

気が強くてとんでもない魔力量の魔法使い、だが手の施しようがない酒カスである。


「うぐっ…酒クサ…」


「かははっ!別にこれくらい気にするな!それよりお前、魔力切れを起こしただろ?」


と、母は確信をついてくる。


「うん、それになんか身体が変だし時間が経っても魔力が回復しないんだよ…」


「それはエルフの成長の証、筋肉痛の魔力版って所だな!」


「えっ?」


「つまりだな…」


母が言うには、エルフは魔力を使い切ると魔力量を増やせるらしい。

そして、魔力量が増えて回復していく間は一切の魔法を使えないんだとか。


「そして魔力を回復させる速度を早めるのが酒だ!いいか十全、酒は良いぞ!全てを解決してくれる!」


「えぇ…じゃあ僕も酒を飲まないとって事?それにしても僕が女の子になっている意味もわからないんだけど…」


「バカ!酒は20(0)になってからだろ!17(0)のガキがナマ言ってんじゃないよ!女になってるのはあれだ!私の血が強過ぎたからだな!かははっ!」


と、母は豪快に笑っている。


「笑い事じゃないよ!僕困ってるんだから!」


「まぁまぁ、そうカリカリすんな!お前の今の魔力量なら3日くらいでまた魔法を使えるようになるさ!」


「みっ、3日もかかるの…?」


「たかが3日じゃないか!私なんて今空になったら2000年はかかるぞ!」


と、冗談か本気かわからない絶妙な事を言う母。


「3日後にはちゃんと男の姿に戻ってるから安心しろ!」


「えっ!?この姿も3日続くの!?」


「当たり前だろ?エルフの血を侮るなよ!まぁ、身体はニーバイに似て頑丈なんだから大丈夫だろ!」


「さ、最悪だ…」


「よっし!じゃあ私は帰るからな!」


と、母は窓を開けて身を乗り出した。


「あの〜、ちゃんと玄関から…」


「じゃ、達者でな!あっ、飯テーブルの上にあるから食えよ!」


僕が言い切る前に飛んで行ってしまった。

なんて母親だ。


「テーブルの上…」


と、言われた通りにテーブルの上を確認するとそこには小包が置かれていた。

それを開くと


「赤飯…」


当てつけのように思えた僕はその赤飯をやけ食いすると、そそくさとベッドに戻ってふて寝した。

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