第5話
異様な息苦しさにもがきながら起きる。
「ぐっ…、身体が痛すぎる…」
関節をバキバキと鳴らしながら辺りを見回すと、僕はベッドから落ちていた。
そして徐々に昨日の記憶が蘇る。
「スーッ…、そうだ思い出した…」
重い身体を叩き起こしてベッドの上を確認した。
すると身体を大の字にして、いびきをかいて寝ているチナツさんが居た。
「はぁ…この人酔うととんでもなく酒癖が悪いんだった…」
色気の欠片もない下着…は脱ぎ捨てられて隅にある。
「チナツさん、ちょっとチナツさん!早く起きて服を着てください!」
僕はチナツさんの頬をペチペチと叩く、が起きる気配なし。
「はぁ、仕方ない…」
チナツの事は一旦諦めてシャワーを浴びようと、寝室を出た。
「おぉ!起きたか十全、女を連れ込むとは中々やるな!」
と、そこには上裸エプロンのイェンが居た。
「あれっ、ダメだ昨日飲み過ぎたかな…」
少しずつ頭が痛くなってきた…ような気がする。
「ははっ、見間違いではないぞ!昨日お前に触れた時に俺の魔力を少しだけ付けて置いたんだ!」
「昨日触れた時…」
「まぁ別にそれは良いじゃないか!ははっ!」
そう言ってイェンはテキパキと料理を配膳し始めた。
「…あんた人の家で何やってんの…」
色々な情報がありすぎて何故か涙が出てくる。
「おい十全、ひどい顔だぞ?顔を洗ってこい!」
「あぁ、なんかもう良いや…」
とりあえず僕は逃げる様に浴室へと向かった。
シャワーを浴びてスッキリした。
が、光景は変わって居なかった。
「戻ったか十全、ほら飯はもう出来てるぞ!」
「あっ、うん、ありがとう。」
逆に冷静になった僕は流れに身を任せる事にした。
燻製肉と揚げ焼きにした卵、サラダにパンもついた豪華な朝食。
驚いた
「イェンって料理が得意なんだな…」
「ふん、これくらい文字通り朝飯前だ!フランにひもじい思いをさせるわけにはいかないからな!」
と、イェンは頷いている。
「それじゃ、いただきます。」
僕は一口、また一口と料理を口に運んだ。
「おいしい…おいしいよイェン!」
「ははっ!それはよかった!しっかり食べて体力をつけて貰わないと俺が困るからな!」
「…ん?えっ?」
「とりあえず今は気にするな!さぁ食え食え!」
と、なんとなく流されてしまった。
「んぁ〜…良い匂いがする…」
寝室からのそのそと、チナツさんが起きて来た。
「起きたか女、特別に貴様も共に食事する事を許そう。」
「あらぁ…良いんですかぁ〜…?」
チナツさんがそのままイスに座ろうとした時、
「おい女、まずは顔を洗って来い!それくらい常識だろう!」
「はひっ!?す、すみませんっ!」
イェンはチナツさんを怒鳴った。
気圧されたチナツは足速に浴室へと向かった。
「うーん…イェンって案外しっかりしてるんだな…」
「案外とはなんだ!俺は戦いを楽しむ為に生きている、楽しむ為には日頃の行いが重要
なのだ!」
と、なんとも哲学的な事を言われた。
「ふーん、そういえばフランちゃんはイェンの事パパって呼んでたけど、イェンの奥さんは何してるの?」
「十全、それは聞くな…もう過ぎた事だ…」
「あっ、うん、なるほど…」
儚げを満ちたイェンの横顔から僕は様々な事を察した。
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