第4話

 目を血走らせイェンは力強く拳を作り、脚にぐっと力を溜めて屈んだ瞬間。


「こらっ!やめなさいっ!」


と、どこからか女の子の声がした。


「なっ、フラン!?どうしてここに!?」


イェンからはさっきまでの圧を感じず、むしろ弱々しくなっている。


「起きたらパパ、居なかったから探しに来たの!」


「そっかぁ、でも外は危ないから今度は家でおとなしくしてなよ?」


「うん、わかった!」


イェンは女の子を抱き上げて頭を撫でている。


「そんな事より、パパ!喧嘩しちゃダメでしょ!」


「うっ!ご、ごめんよフラン…」


「謝るのは私じゃなくてあの人でしょ!」


「う、うん!そうだな…!」


イェンは女の子を抱きかかえたまま、こちらへ向かって来た。


「すまん十全、少し昂り過ぎた。」


(少し…?こっちは命の危機すら感じたんだけど…)


「ジューゼン?さん、私のパパがごめんなさい!」


イェンに抱えられた桃毛の女の子はぺこりと頭を下げた。


「う、うん?パパ…?ってお前子持ちだったのか…?」


「あぁ…この子はフラン、俺の愛娘だ。」


「ジューゼンさん!怪我はありませんか?」


そう言って、フランは僕に治癒魔法をかけた。


「へぇ、フランちゃんは治癒魔法が使えるんだね!凄い!」


治癒魔法は、相手の魔力の質に自分の魔力を合わせる高等技術で、治癒魔法が使える術者の出生率も極めて低い。


「えへへー、これはママ譲りなんだぁ!」


「そっかそっかぁ…」


あんなヤバい奴からこんな天使みたいな子が産まれるとは…


「もう!そんなんだからママな置いてかれるんだよ!」


「ちょっ、フラン!?そう言う事はあんまり言わないで…」


「でも本当の事でしょ!」


「そ、それはそうだけど…」


小さな女の子が筋骨隆々の大男を尻に敷いている、なんとも凄い光景だ。


「あー、えっと…イェン?なんかお邪魔みたいだから僕は帰るよ…」


正直面倒事に巻き込まれる予感しかしないので、速やかに撤退の準備をする。


「あ、あぁ…面倒をかけたな…」


と、イェンは僕の肩をポンと叩いた。

僕は魔力を放出して空を飛ぶ。


「ジューゼンさん!今度はフランと遊んでねー!」


なんだか嫌な予感がする言葉を聞いた気がするが、聞かなかった事にしてギルドへと帰還した。


「おかえりなさい!冒険者さん!」


 ギルド内に入るとチナツさんが凄い形相で出迎えた。


「無事で良かったです!怪我はありませんか!?」


「うん、心配かけたね。」


「魔力干渉の反応がなくてもしや、とは思いましたが…杞憂だった様ですね。」


「あはは、ごめんごめん通信に魔力を割く余裕がなくてね…」


「そうだったんですね…まぁ、何はともあれお疲れ様でした!」


「依頼の覇龍だけどこっちから干渉しなければ大丈夫だと思うよ。」


「あら、そうなんですね…でしたらその様に本部に伝えておきますね。」


そう言うとチナツさんは別室へと向かって行った。

しばらくすると、チナツは私服で戻って来た。


「それでは、約束ですから行きましょうか!」


「よーし!覚悟してね?チナツさん!」


「あらあら…お手柔らかにお願いしますよ?」


そして、僕たちは夜明けと共に酒場へと姿を消した。

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