特務隊対執行部隊(2)

「さぁ、始めようか」


 オスカーはコックピットのコンソールを操作する。

 彼の乗機DU-30は王国の最新鋭機であり、強力なレーダーシステムを搭載していた。

 以前あった渓谷攻撃の際は一瞬しか映らない敵の索敵に共和国軍は手間取ったが、このシステムを使えば敵の出現位置を繋ぎ合わせて、予想進路を導くことが出来る。クーパーが行った面倒な事なんてしなくていいのだ。


「数は5、位置はそこか。

 ケッペル、パーシー、渓谷に飛び込むぞ」


 渓谷内に入り込むと、やはりそこには敵機が居た。

 大きな対艦ミサイルを積んだAG-6が4機、そしてそれを従えて飛ぶN/A-18が1機。

 彼等はいつかと同じく、二手に分かれた。


「ふん、結局は同じ戦法かい?

 二人は左に行った3機を……。

 待て、パーシー、何故上昇している」


 見ると、パーシーのDIG-35は勝手に上昇して、渓谷から抜け出そうとしていた。


「い、いやー。別に渓谷飛ばなくても、上から攻撃すればいいと思って」


「出来るのか? 」


「お任せください、オスカー。

 このケッペルらが、敵を殲滅してみせましょう」


「……まぁ、まさかノロイ攻撃機を逃すことはなかろう。

 私は右の隊長機と1機を追う」


 オスカーが2機を追おうとすると、攻撃機を先導していたN/A-18が、僚機を庇うように先に行かした。


「面白い、殿のつもりか」


 N/A-18――ちらりと見えた尾翼には黒い一本線が引かれていた、誰かに対する喪章のつもりだろうか。

 諜報部の情報で上がっていた報復任務を主とする共和国の特殊部隊に所属する機体だ、相手にとって不足はない。

 ジョン・クーパーは敵隊長機を逃した。

 此処で隊長機ごと堕として、名実ともに奴を越えておくのも悪くないだろう。

 そう考え、オスカーは機を駆った。


 ◇


 何分経っただろうか、恐らくたったの2分ぐらいだ。オスカーの放ったミサイルが、またしても山中に吸われた。


「ちっ、こうも渓谷に阻まれては」


 何度も攻撃のチャンスはあったが、中々仕留めきれない。だが、終始敵の背後は取っている、勝利はすぐそこにある筈。

 そして、再び敵機をロックオンしたその時だった。


「こちら旗艦ライガーテイル、敵対艦ミサイルを感知!

 戦闘機部隊は何をしている!? 」


「何!? 」


 馬鹿な、早すぎる。まだ3分と立っていない筈。オスカーはモニターに表示されていた時計を見て、唖然とした。体感二分だったが、実際には10分も過ぎていた。

 いや、モニターのレーダーシステムで見る限り、まだ敵部隊は艦隊を捉えられる距離にはいないはずだ。不具合バグか、こんなときに。


「どういうことだ!?

 ケッペル、そちらはどうなっている!? 」


「……1機撃墜しました。が、2機を見失いました。その後、レーダーでの索敵を行ったのですが、何故だか、敵と会敵できず」


自分だけではなく、ケッペルの方でもレーダーシステムの不具合があったのか。

いや、違う、オスカーは気づいた。


「馬鹿者、ジャミングだ! 

 電子戦型がいた、だが、言い訳になるか! パーシー上から目視で確認できなかったのか!? 」


「……」


「何をしている!? 」


 その時、オスカーの機体に搭載された無線傍受ポッドが敵の交信を拾った。


 <私について来たのは褒めてやるが、目的を見失い、指示も怠るとは。

 たわいもないな、特務隊。

 ……あの時の奴が例外的に強かっただけなのか? >


 ハッと我に返ったオスカーの前には、既にN/A-18は居なかった。完全にやられた、オスカーの額からは冷や汗が流れ出ていた。

 そして、とある考えをひねり出し、無線を部隊内チャンネルに切り替えた。


「ケッペル、私はこの空域には居なかった」


「は? どういうことでしょう? 」


「貴様がこの作戦の指揮を執っていた、そうだろう?

 私はこの失態に関与していない」


「オスカー!? 」


「それとも、クーパーに細工をした件をバラされたいか?仮にも英雄相手、イリス少佐はどう判断するかな? 」


 オスカーはケッペルの苦悶の呻きを肯定ととらえ、すぐさま離脱した。


 ◇


艦隊は発射されたミサイルを見失った。

地球は丸く、水平線の向こうの低空をレーダーは索敵できないからだ。

それすなわち、再度レーダーが探知した時というのは、もう手遅れということだ。


「レーダコンタクト、対艦ミサイル、数8!

 距離10、畜生、まっすぐ来る! 」


「全力迎撃を! 」


「主砲は再装填中、CIWSの照準、間に合いません! 」


「衝撃に備え! その後、総員退艦の―― 」


 凄まじい衝撃と共に、鼓膜を破るような爆発音が響き、艦橋の電灯・モニターの全て消え去った。悲鳴と、呻く声の地獄と化していた。

 艦隊司令も倒れて来た機器に挟まれて身動きが取れなくなっていた。隣に居た艦長は頭を潰されていて、既に死んでいた。


「誰か、動けるものは……? 」


「こちら甲板、上空に敵機! 爆弾を積んでいる模様!」


 艦隊司令からも、割れた窓からその様子が見てとれた

 翼端にベイパーを纏わせ、鋭くこちらに突っ込んでくるN/A-18の姿が。


「……皆殺しにする気か? 」



 艦隊旗艦ライガーテイルは4発の対艦ミサイルの着弾を受け、更に無誘導爆弾の追い討ちを受け、轟沈・全滅。

 被弾して足が止まっていた巡洋艦ヴォルタ、ウーファハイの2隻も、尚も近づいてきていたタンカーの直撃と、潜水艦の追撃を浴びて沈没。

 後に分かったことだが、このタンカーは無人操作だった。この戦争条約違反を含んだ共和国のこの攻撃により、王国海軍は主力艦の30%を喪失した。


 この戦いは王国の特務隊の威信を欠落させ、共和国の執行隊の名声を高める戦闘ともなった。


 



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